末梢神経再生を常在細菌特異的 Th17 が促進する(2月2日号 Cell 掲載論文)

2023.02.13

神経系と免疫系が相互に作用し合っていることを示す多くの事実が見つかっているが、免疫系の特質から、当然この両者の関係に、さらに細菌などの免疫刺激系が関わることが多い。


特に腸内細菌叢と、免疫、神経系の相互作用は最近の大きなトピックスになっている。


今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、皮膚の常在細菌が特殊な T 細胞を誘導して、修復時に神経再生を促すことを示した研究で、2月2日号 Cell に掲載された。


タイトルは「Immunity to the microbiota promotes sensory neuron regeneration(細菌叢に対する免疫が感覚神経再生を促進する)」だ。


常在細菌に対する特異的な免疫反応により神経再生が促進されるといった着想をいかにして得たかについてはイントロダクションを読んでも完全に理解できなかったが、この研究はこの着想を証明するために行われている。


まず、常在細菌の一つ、黄色ブドウ球菌(SA)を、マウス皮膚に塗りつけると、皮膚の炎症反応をほとんど起こすことなく、長期に常在するようになる。この時に免疫系に変化がないか、皮膚を調べると Th 17 細胞と知られる、IL17を介して炎症を誘導するT細胞が増加している。


しかし、Th1、Th2 細胞は全く誘導されておらず、そのためか皮膚に炎症は起こっていない。


こうして誘導される Th17 が抗原特異性を持っていることも、特定の SA 由来抗原に反応する T 細胞しか存在しないトランスジェニックマウスを用いた実験や、免疫成立後、再免疫して記憶反応を調べる方法で確認している。


すなわち、常在 SA は皮膚の外表に存在する場合は、抗原特異的 Th17 のみ誘導し、皮膚炎症は起こらない。


これに対し、同じ細菌を皮内に注射すると、Th17 と共に、Th1、Th2 細胞も誘導され炎症が起こる。おそらく細菌側のメカニズムだと思うが、常在するためにうまくできている。


次に、SA を塗りつけた時に誘導される Th17 細胞と、炎症を起こす Th1 を比較して、何か特徴がないか調べると、炎症を起こしていない Th17 細胞のみで神経再生に関わる遺伝子の発現が見られることを発見し、最初の着想が荒唐無稽ではないと考え、次の再生実験に移っている。


常在細菌を塗りつけて Th17 が誘導された時点で、皮膚を傷つけ、その時に起こる神経再生を、常在菌の存在しない皮膚と比べると、期待通り、SA を塗りつけた皮膚は、強い神経再生が見られ、またこの再生は、IL17 が欠損していると起こらないことを確認する。


まさに着想通り、SA が Th17 を特異的に誘導し、分泌される IL17 により神経再生が刺激されることが示された。


そして、この神経の変化は、IL17 が直接感覚神経に働いて誘導できることを、培養神経細胞を用いて確認している。


ただ、IL17 に反応するためには、その受容体を神経細胞が発現していることが必要になるが、通常の神経では IL17 受容体のレベルは低い。


そこで、皮膚を傷害して興奮させた時の感覚神経を調べ、皮膚損傷時に神経細胞が IL17 受容体を強く発現することを発見している。


以上の結果は、常在 SA が Th17 を誘導しても、通常は何も起こらないが、皮膚が損傷をうけ、神経の再生が必要になると、損傷による刺激で神経細胞が IL17 受容体を発現して Th17 の助けを受けることができるようになり、結果神経再生をたかめていることになる。


ただ、このような場合神経が増殖しすぎて、痛みに過敏になる心配があるが、このシグナル系を用いた再生の場合は、このような問題は起こらないことも確認している。


このように、少し変わった着想を得て、それを追求したことがこの研究の面白いところだが、うまくできているとしか言いようがない。


このような Win-Win の関係が、常在菌、免疫系、神経系に成立しているのをみると、まさに細菌叢も進化の一部であることを実感する。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。