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ALSは現在もなお明確な治療法のない深刻な病気だが、研究は着実に進んでいる実感がある。これには、iPS細胞から運動神経を作成して、ヒトALS細胞モデルが出来たことが大きい。
今日紹介する南カリフォルニア大学からの論文は、そんな中でも期待出来そうな研究で、ALS神経細胞で沈殿する異常蛋白質 TDP43 を細胞外への排出を促進して細胞死を抑える薬剤の開発が可能であることを示した研究で、2月16日 Cell に掲載される。
タイトルは「PIKFYVE inhibition mitigates disease in models of diverse forms of ALS(PIKFYVE阻害により多様なALSモデルで病気の改善が見られる)」だ。
このグループは患者さんの細胞から造ったiPS細胞由来運動神経の生存を指標としたスクリーニングから、細胞内のオートファジーに関わる PIKFYVEキナーゼが細胞の生存を高めることを発見していた。
この研究はその続報で、この効果のメカニズムを PIKFYVE に対する阻害剤や、遺伝子ノックダウンを用いて詳しく解析している。
まず、PIKFYVE に対するアンチセンスRNA を用いて、PIKFYVE のみをブロックすることで ALSの神経細胞死を抑えられることを確認した後、この分子に対する阻害剤 apilimod(AP)を用いて、この細胞死の抑制が TDP43異常蛋白質の細胞内への蓄積を抑える結果であることを明らかにしている。
そして、この蓄積が低下する原因が、AP によりオートファジーで形成された小胞がリソゾームと細胞内の小胞、エンドゾームの融合を促進し、その小胞を細胞外へ排出する過程に関わることを明らかにしている。
そして、このオートファジーで形成される小胞、その後融合して出来る小胞、さらにそれが細胞外へ排出された小胞の中に、ALSの神経死の原因である TDP43異常蛋白質がロードされていることを明らかにする。
すなわち、PIKFYVE により通常はこの過程は抑えられているが、このシグナルを抑えることで、オートファジー小胞形成とその排出を促進する経路が動き、異常蛋白の蓄積を抑えられることを示している。
重要なことは、様々なタイプのALS由来神経細胞で同じ結果を観察できることで、この治療戦略は ALS全般に拡げられる可能性がある点だ。
これを確かめるために、いくつかのマウスALSモデルを用いて、 PIKFYVE阻害による治療可能性を探っている。直接 APを脳に注射すると効果は見られるのだが、APは残念ながら脳血管関門を通過できない。
そのため、PIKFYVEの発現レベルを抑えるアンチセンスRNA や、PIKFYVE遺伝子ノックアウトマウスを用い、PIKFYVE阻害の効果を確かめている。
結果は期待通りで、体内でも PIKFYVE を阻害すると、オートファジー小胞形成から排出までの過程が高まり TDP43 の蓄積を抑制し、運動神経死を抑えることが出来る。
勿論、異常蛋白質の合成は続いているため、根治するという治療法ではないが、多くの ALS の進行を一定程度抑制してくれる可能性がある。
結果は以上で、今後脳内に移行できる阻害剤を開発したり、あるいは既に多くの病気で使われているアンチセンスRNA を投与する治療法を開発、その有効性を調べる臨床研究が必要だが、メカニズムが明確な治療標的が発見されたことは期待できる。