誰もがかかる変形性関節炎の治療法を探る(12月21日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2023.01.15

この年になってくると、どこか関節が痛くなってくる。元気に歩けているので足の方は大丈夫だが、夫婦とも曲げるのが痛いか、もう曲がらない指がある。


これらのほとんどは変形性関節症(osteoarthritis:OA)による症状で、70歳を超えるとまず半分以上はどこかに OA を抱えている。しかも現在なお、OA に対する薬物治療は開発できていない。


この課題にチャレンジしたオックスフォード大学からの論文は臨床研究のお手本のような研究で、12月21日 Science Translational Medicine に掲載された。


タイトルは「Variants in ALDH1A2 reveal an anti-inflammatory role for retinoic acid and a new class of disease-modifying drugs in osteoarthritis(ALDH1A2の多型がレチノイン酸の抗炎症効果を明らかにし、新しいタイプの変形性関節症治療薬の可能性を明らかにした)」だ。


この研究は、これまで指摘されていたレチノイン酸合成に関わる ALDH1A2遺伝子領域の多型が OA に相関することを確認した後、2種類の多型が ALDH1A2 の発現にどう影響しているのか、OA の痛みを軽減するために行われる指の手術 Trapeziectomy で得られた大菱形骨軟骨での遺伝子発現を調べ、OA のリスク多型は全て ALDH1A2 の低下を誘導することを確認する。


次に、ALDH1A2 が低下する影響を遺伝子発現を比べて探索すると、基本的には ALDH1A2 の発現が低い軟骨では炎症が高まっていることを確認する。


ALDH1A2 はレチノイン酸合成の鍵になる酵素なので、レチノイン酸濃度に変化があるか調べているが、テクニカルな問題で実現していない。


ただ、ブタの関節損傷によりレチノイン酸の濃度が高まること、またその下流の分子の発現が高まることを確認できたので、ALDH1A2 低下はレチノイン酸の低下につながり、これにより炎症が長引くと結論している。


この考えをさらに確かめるため、レチノイン酸の分解を抑える talarozole を皮下に投与して関節損傷を誘導すると、炎症が抑えられること、またレチノイン酸の効果が PPARγ を介して作用していることを確認している。


おそらく、レチノイン酸受容体と PPARγ の複合分子による転写が、炎症を抑えることを発見している。


最後に、talarozole 皮下投与で関節の機械的損傷後の炎症を抑えることが出来ること、また損傷後の OA の発症も抑えられることから、今後 OA の治療に talarozole が使える可能性を示している。


以上が結果で、レチノイン酸を投与するのと違い、talarozole 自体は分解を阻害するので、影響を局所にとどめられること、また既に薬剤として使われていることから、今後 OA治療に向けた治験が行われると期待できる。


当たり前の病気ほど治療が難しい状況を変えられるか、期待したい。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。