寝る子が育つメカニズム(6月24日 Cell オンライン掲載論文)

2025.07.08

寝る子は育つという言い伝えは日本だけではない。Chatに聞いてみると、ドイツでは “Kinder wachsen im Schlaf” 、フランスでは “Le sommeil fait grandir les enfants” 、そして中国では「小孩子要多睡觉、长得快」と、全く同じ言い伝えがある。即ち万国共通の観察だが、この原因は1969年成長ホルモン (GH) のほとんどは睡眠時に分泌されているという論文が Science に発表され、この GH の分泌パターンを先人が観察していた結果であることがわかっている。ただ、夜に GH を分泌するメカニズムについてはわかっていなかったようだ

 

本日紹介する論文

今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文は、睡眠と GH分泌の関係を神経回路レベルで詳しく解析した研究で、6月24日 Cell にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Neuroendocrine circuit for sleep-dependent growth hormone release(睡眠で成長ホルモンが分泌される神経内分泌回路)」だ。

 

解説と考察

成長ホルモンは成長ホルモン放出ホルモン (GHRH) と GH分泌を抑制するソマトスタチン (SST) により調節されているが、この研究では GHRH を分泌する視床下部・弓状核を光遺伝学的に刺激できるマウスを作成、この神経細胞を同じように刺激しても GH分泌は睡眠中の方が高いことを発見する。

 

次に GHRH を抑制して分泌抑制に働く STT神経について探索し、一つは脳室周囲核から直接下垂体に投射する回路と、弓状核で同じ領域の GHRH神経に投射している回路を特定する。それぞれは GABA 作動性の抑制神経で、刺激により前者は直接 GH分泌を抑制し、一方後者は GHRH神経に働いて強く GHRH、続く GH を抑制することを確認している。

 

次に、SST神経と睡眠の関係を調べると、睡眠時に活動が低下していることがわかった。即ち覚醒時には GHRH や GH の分泌を SST神経が抑制しており、この抑制が外れることが睡眠時の GH分泌上昇に関わることが明らかになった。

 

最後に、視床下部内で GH受容体を発現する細胞を探索し、GH分泌に応じてこの回路を制御できるフィードバックループを探索し、睡眠を妨げる働きを持つとされている青班核内のノルアドレナリン神経が GHに反応して興奮することを発見し、睡眠と連動した GH分泌回路が、睡眠自体も調節することを明らかにしている。

 

まとめと感想

以上が結果で、寝る子は育つ→睡眠中の GH分泌→視床下部弓状核、脳室周囲核、青班核をつなぐ神経分泌回路というつながりが明らかになった。神経研究としてはオーソドックスだが、寝る子が育つ回路を特定しようという着想がこの研究のハイライトだと言える。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

このライターの記事一覧