Twitter発! 研究者の「新種発見」物語が1冊の本に!

2022.12.15

 「Twitterで話題になった『#新種発見のエピソード』を書籍化する企画が動いていて、カクレマンボウのエピソードも執筆していただけませんか?」という内容のメッセージが、今年6月、私の運営しているマンボウなんでも博物館ホームページに送られてきた。出版社は山と溪谷社。研究者になりたいと考えている中学生以上を読者層として想定しているとのこと。本の監修は新種記載を多々やっている研究者の方々が務めて、私は分担執筆で1エピソードを書けばいいという話だった。他の研究者の新種発見エピソードも読めて面白そうと思い、すぐに快諾した。通常、本の執筆から出版までは1年以上かかるものだが、年内の出版を目指しているとのことで、なかなかタイトなスケジュールだなとこの時は感じていたが……予定通り、2022年12月17日に発売が決定した! それがこれから紹介する『新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法』というタイトルの本だ。発売日に先駆けて一足先に献本が届いたので、早速拝読させて頂いた。自分が執筆したパート以外は初めて読む。書評というほど大したものではないが、これから読む方々の参考になればいいと思う。

 

きっかけ

 本書で詳細は触れられていないが、私は本書が作られるきっかけとなった出来事を知っている。2021年9月6日に軟体動物多様性学会の公式Twitterアカウントが紹介したヒミツナメクジのツイートがきっかけである。

 

 ポケモンでいうヌオーやドオーのような単調な顔だがどこか憎めない可愛らしいオーラを放つヒミツナメクジの写真に反響があり、同アカウントが2021年9月8日に呟いたヒミツナメクジ発見の経緯に関する一連のツイートが拡散されていった。その中で生まれた「#新種発見のエピソード」というハッシュタグで、研究者たちが新種発見に関する裏話を語り出し、Twitter上で盛り上がったのだ。偶然ながら私もこの火付け役に一枚噛んでおり、リアルタイムでタイムラインを見ていたのでこの時のことはよく覚えている。しかしながら、新種発見のエピソードを集めた本を作れば面白いのではないかという話自体は2016年からされており、本書は6年越しにそのフラグを回収した形となった。



 本書の企画自体はこれらのツイートが盛り上がったすぐ後に山と溪谷社内で立てられたようだ。過去の偉大な研究者が新種を発見したエピソードはいくつか本にされているが、現存している研究者が語る新種発見エピソードを複数集めた本はおそらく初めてではないだろうか?(私も出版しているが、個人の本で新種発見エピソードを語った本はある) 本書は執筆陣が経験した新種発見にまつわる話がメインなので専門的な用語も出てくるが、分類学的な専門書ではないため、気軽に読み進めることができる。本書を読む上で頭に入れておくと話がもっと面白く感じられる分類学的な用語や新種記載の流れは、巻頭・巻末にコンパクトにまとめられているので、わざわざネットなどで調べる必要もないだろう。

 

19エピソードで語られる、新種発見の物語

 本書で紹介される生物は、サザエ、オシリカジリムシ、カクレマンボウ、タケシマヤツシロラン、ダイダイマダラウミヘビ、ババハシリグモ、ベニエリルリゴキブリ、ショウナイチョウメイムシ、タケシマヤツシロラン、クサイロコメツキムシタケ、コムシクイ、オオムシクイ、メボソムシクイ、チゴケスベヨコエビ、オオヨツハモガニ、エピゴヌス・オカモトイ、シノビドジョウ、ムルティフィスウーリトゥス・シモノセキエンシス、エゾセラス・エレガンス、ニセコウベツブゲンゴロウ、ヒラサワツブゲンゴロウ、チョウシハマベダニ、イワドハマベダニ、アイヌホソカタカイガラムシと、親しみのあるものから聞き慣れないものまで、現生生物から古生物まで、陸域から水辺まで、昆虫、植物、魚、鳥、恐竜、甲殻類、貝類など様々な分類群を広く取り扱っている。執筆者も分類学者だけでなく、生態学者、遺伝学者、写真家と様々だ。新種発見に携わった色んな立場の人がそれぞれの視点から思い思いに書いているため、まるで想い出話を聞いているような気分になる。全部で19エピソードあるが、それぞれ1話完結もので、1エピソードあたり8ページ前後なので、気になったエピソードから少しずつ読むのもいいだろう。各エピソードの終わりには新種記載した原記載論文のタイトルも載っているので、気になった人はその種をより深く知ることができる。本書の執筆者はTwitterで積極的に情報収集・広報活動をしている人も多いので、何かあれば連絡をすると喜んで対応してくれるはずだ。


 本書は幅広い生物の話を扱っているので、各生物特有の研究事情、新種発見方法を知ることができて面白い。私も魚類の分類は何となくイメージが付くが、その他の生物はどのように研究しているのかを本書で初めて知った。鳥類など分類学的研究が比較的進んでいる生物では新種を発見することは困難であるが、逆に寄生虫などあまり一般に受けない生物は新種の宝庫である。新種記載には10年単位の時間がかかることもあり、途中で挫折したり、誰かが先に記載してしまわないかと情緒不安定になることもある。一方、新種だと確信した時や論文を出版した時の喜びは計り知れないもので、皆叫んでいる。執筆者達は自分が関わった生物に真摯に向き合い、熱意を持って論文を書いたことが伝わってくるので、読者も何か心に熱いものを感じられるのではないだろうか。これまでに学名を付けられた生物が150万種いるのならば、150万とおりの新種発見エピソードがあったはずだ。しかし、本書で知ることができるエピソードはそのうちのたった19個にしか過ぎない。論文には発見にまつわるエピソードはほとんど盛り込むことができないのだ。そう考えると、新種発見の裏話を知ることができる本書がいかに貴重であるかをお分かり頂けることだろう。

 

まとめ

 新種は意外に身近なところにいて、Twitterに投稿された画像から偶然発見されることもある。地球上の全推定生物数に対して、分類学を進める研究者はあまりにも少ない。新種記載して学名を付けることはその種のあらゆる研究の基盤となる。絶滅に瀕している生物が増加している今、生物に興味を持つ人を一人でも多く増やし、新種発見する眼を増やしたい。本書に興味を持ってくれたのなら、是非一通り読んで、今後も続く生物分類の世界から何かアツいものを感じ取って頂けたら嬉しい限りである。

 

~今日の一首~
 様々な
  新種発見
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     尊き記録

 

参考文献

馬場友希・福田宏 (編).2022.新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法.山と溪谷社.東京,224pp.

 

 

著者:澤井悦郎
連絡先:https://twitter.com/manboumuseum
活動場所まとめ:https://profcard.info/u/3kUPXjT4VGRa9GexNI1tGALs1RY2

この連載はマンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた2次元~18禁まで鳥スキーな男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。