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動脈硬化は、アポ B 分子を持つ LDL が局所の血管内皮下に蓄積をはじめ、それをマクロファージが取り込み泡沫細胞へと変化、それが刺激になってさらに血液の浸潤と LDL の蓄積が進む、負のサイクルが進み、最終的に血管が肥厚、線維化、最終的に石灰化する。
当然血管内皮腔は狭くなり、高血圧、心筋梗塞、そして脳卒中の原因になる。
細胞レベルではこの泡沫細胞の形成と、そのアポトーシスが病気を制御するときの核になり、これまでマクロファージのスキャベンジャー受容体により LDL 、さらには酸化 LDL が取り込まれると考えられてきた。
確かに、スキャベンジャー受容体をノックアウトすると、LDL の取り込みは抑えられるのだが、これだけでは動脈硬化が防げないことが示された。
また酸化 LDL を抑えるため、抗酸化治療が試みられたが、これも失敗に終わっている。
今日紹介するジョージア医科大学からの論文は、スキャベンジャー受容体だけでなく、そのまま周りの水を取り込むマクロピノサイトーシス(MP)と呼ばれるメカニズムで LDL が取り込まれ動脈硬化が進む可能性を示した論文で、9月21日号 Science Translational Medicine に掲載された。
タイトルは「Receptor-independent fluid-phase macropinocytosis promotes arterial foam cell formation and atherosclerosis(受容体に依存しない液のマクロピノサイトーシスが泡沫細胞の形成と動脈硬化を促進する)」だ。
特異性のない MP による周りの取り込みが十分 LDL 取り込みに寄与できると着想したのがこの研究の全てだ。
既に述べたようにスキャベンジャー受容体がノックアウトされたマウスでも動脈硬化が起こり、泡沫細胞が形成されるが(正常マウスよりは程度は低いのでスキャベンジャー受容体も重要だ)、このとき MP に関わる Na/H exchanger(NHE1) を阻害する化合物を投与すると、動脈硬化や泡沫細胞形成を完全に抑えることが出来る。
逆に、MCSFやPDGF で MP を高めてやると、LDL の取り込みが高まる。以上のことから、動脈硬化ではスキャベンジャー受容体だけでなく、MP も LDL の取り込みと、泡沫細胞形成に関わることが明らかになった。
そこで、人間の動脈硬化巣のマクロファージを調べると、膜が飛び出す MP の像が見られることから、MP が人間の動脈硬化にも関わることが確認された。
最初の実験で使った化合物は、NHE1 特異的ではないので、M Pに本当に NHE1 のみが関わるかどうか調べる目的でノックアウトマウスを作成、同じように動脈硬化実験を行うとノックアウトマウスでは強く動脈硬化が抑えられた。
そこで最後に NHE1 を阻害する薬剤を探索し、抗うつ剤として既に使われているイミプラミンが NHE1 阻害効果を持つこと、そしてイミプラミン投与により動脈硬化が抑えられ、泡沫細胞形成もブロックできることを示している。
結果は以上で、これまで動脈硬化巣形成についてわからなかったことを、MP を加えることで説明できるようになり、新しい治療可能性まで示したことは重要だと思う。
ただ、抗うつ作用を持つ薬剤をそのまま使うかどうかは問題で、出来れば脳血管関門を通らなくした化合物を目指して欲しい。