"独立系研究者"に学ぶ!フリーランス処世術(5)誰でも研究者になれる未来へ!きっかけを作り続ける研究者

2022.09.02

皆さま、こんにちは。俳優・サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太です。

「独立系研究者に学ぶ!フリーランス処世術」今回はどんなお話が聞けるのでしょうか!?

過去シリーズはこちらから

本日は、在野の研究者としての道を切り拓いてきた熊澤辰徳さんにお話を伺いました!

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この連載企画では、フリーランスとして活動している俳優・サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太が、「独立系研究者」からフリーランスとしての生き方を学び、皆さまにシェアします!

◎佐伯恵太プロフィール▶︎https://keitasaiki.info/official
◎twitter▶︎https://twitter.com/Keita_Saiki_

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◆本日のゲスト:研究を始めるきっかけをつくる研究者!熊澤辰徳さん

熊澤辰徳 修士(理学)
専門:分類学・生態学
大阪市立自然史博物館外来研究員。在野でアシナガバエを中心にハエやアブ の仲間(双翅目)を研究しつつ、オンライン生物雑誌『ニッチェ・ライフ』編集委員長も務めている。

◎twitter

◎ウェブサイト「知られざる双翅目のために」

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今回の取材場所は、大阪市立自然史博物館!

こんにちは。娘も来たいって言ったので連れて来ちゃいました。

大丈夫ですか?

 

も、もちろん大歓迎です!よろしくお願いしますっ!!

熊澤辰徳さんと十希(とき)さん

独立系研究者になるまで

では、簡単に自己紹介をお願いします!

 

 

大阪市立自然史博物館の外来研究員としてアシナガバエ等を中心に在野で研究に携わっております熊澤です。

 

私も大学院時代にハエの研究をしていて、とても興味があるので楽しみです!熊澤さんは元々ハエに興味があったのですか?

 

実は、元々昆虫少年という感じではなかったんです。ただ子供の頃から図鑑を読むのが好きで、生き物に興味はありました。大学ではマルバオモダカという水草の研究をしていたのですが、大学院生時代のある夏の日、キャンパス内の栽培場でマルバオモダカの計測をしていたら、キラッと光る綺麗な体に細長い脚の一匹のハエが飛んできて一枚の葉っぱの上に止まったんです。

運命の出会いですね!そしてめちゃくちゃ綺麗でかっこいい......

 

 

そうなんです。3mmくらいの小さいハエなんですが、カメラで撮って拡大して見てみたらやっぱり美しくて。見たこともないハエだったので気になって調べたらアシナガバエという見た目のまんまの名前が出てきたのですが、アシナガバエ科というところまでしか出てこなくて、種名が全然わからなかったんです。

それがハエの研究のきっかけだったのですね

 

 

はい。それでハエの研究の中でもやりたいことが生態や分類の研究だったので、大学に残って職業研究者にならなくても、企業に就職して趣味として研究するという選択肢があって、そっちの道を選びました。もともとアマチュアで昆虫の研究をされている方は多くいますが、論文を書いたりするには肩書や研究拠点がある方がやりやすいので、大阪市立自然史博物館の外来研究員になれたのは良かったです。

博物館内にて。十希さんは博物館のクイズに夢中

外来研究員になられたきっかけは何だったのでしょうか?

 

 

2013年に開催された双翅目談話会という集まりに参加した時に「アシナガバエに興味があります!」と自己紹介したら、外来研究員として登録されている方に「博物館に標本がたくさんあるから是非見に来て」とお声かけいただいたんです。それがきっかけで2014年には私も外来研究員として登録しました。

外来研究員って希望すればなれるものなのでしょうか?

 

 

外来研究員制度の有無や内容は館によって違いますが、大阪市立自然史博物館の場合、外来研究員として館の資料を使った活動がしたいと申請し、審査で認められればなれます。対象の活動に対する活動歴などが問われるのですが、私の場合は、双翅目談話会の会誌「はなあぶ」アシナガバエの報文を出していたこともあり、登録いただけたようです。

博物館はどのように活用されているのでしょうか?

 

 

収蔵されている標本や文献の調査、それに他の研究者とのコミュニケーションの場として活用しています。これまでに論文等を発表した際にも、館にあった標本を使ったり、新たに館に標本を収蔵したりしています。また、論文や報文を書くに当たって参照したい関連文献について、ネットで見つからないものも多くありますが、館に所蔵されていることも多いので助かってます!


アシナガバエの共同研究

アシナガバエの研究はお一人で進められているのでしょうか?

 

 

今までは共同研究の形で取り組むことがほとんどですね。

 

 

共同研究者が見つかって研究を始める流れを教えていただけますか?

 

 

まずハエのことを色々調べようとした時にインターネット上に情報が集まっている場所がなかったので知られざる双翅目のために」というサイトを自分で立ち上げたんです。そして日本のハエについての情報や文献リストを少しずつ更新していると、ある日ロシアの研究者から問い合わせメールが来まして、なんとその方がアシナガバエの新種を数百種も発表されている方だったんです。

インターネットの力は凄いですね。。どんな問い合わせだったのでしょうか?

 

 

日本のアシナガバエに関するある文献を手に入れたいという問い合わせでした。それはアシナガバエの採集記録の報告文だったのですが、その報告文を書いたのはアマチュア研究者の方だったのです。日本語の報告文ですが、私のサイトにその文献の英語タイトルを載せていたことで、検索で見つけていただいたようです。そこからのご縁で、ロシアの研究者さんと、報告文を書かれた方と、私の3人での共同研究が始まりました。

ホームページの一部:このタイトルが検索でかかり、海外からの連絡が来るように

ロシアに行くこともあったのでしょうか?

 

 

実はロシアに行ったことは一回もなくて。ロシアにアシナガバエの標本を送ったり、文献を互いに送りあったり、図や写真の作成なども含め、分担して進めました。最終的に14の新種と、20種程度の日本新記録種を共同で発表できました。私は写真を撮影したり、 原稿の一部の執筆や修正を担当しました。日本と ロシアの間をつなぐのが主な役割だったと思いますね。

アマチュア研究者の道を作る

熊澤さんはすべての生き物好きのための生物雑誌「ニッチェ・ライフ」の編集委員長も務めていらっしゃるということで、こちらの雑誌についても教えていただけますか?

 

自分自身が趣味で研究をやっている中で、もっと多くの人が気軽に研究に携われたらいいなと思っているのですが、そのためには誰もが気軽に成果を投稿できて、また投稿された成果をみんなが読める雑誌があった方がいいということで始めました。

通常ウェブ雑誌として発刊されています

「知られざる双翅目のために」のサイトもそうですが、作っちゃう発想が凄いです!

 

ありがたいことにたくさんの方がボランティアで編集や運営に加わってくださりウェブ雑誌で印刷代等もかからないので、投稿料、購読料ともに無料の形で継続できています。

 

まだ生きているアシナガバエを見たことがないような素人ですが、こんな雑誌があるなら未知の種を発見して論文を書いてみたくなっちゃいます!

 

まさに、そういう人が増えてほしいと思っています。ただ、いきなり論文を書くのはハードルが高いだろうということで、ちょうどご縁もあり「趣味からはじめる昆虫学」という本も書きました。テーマとしては昆虫学ですが、アマチュアとして研究発表するのに役立つポイントを踏まえた採集・飼育・観察・発表方法の指南書として、ほかの生き物の研究 活動にも通じる内容を盛り込んだ本です。

研究を始めたい方からすると、本当に至れり尽くせりですね・・・

 

 

アマチュア研究者として私より精力的に活動して成果を上げている方はたくさんいらっしゃるのですが、だからこそ自分は「始めるきっかけ」になれればと思っています。「在野研究ビギナーズ」という本では、私の研究の内容だけでなく、仕事と家庭がある中で研究しているリアルな状況なども書いていますので、バリバリ研究をするだけでなく、生活や仕事との兼ね合いがありながらも、自分のペースで研究に関わる人が増えてくれると嬉しいなと思います。

お仕事と家庭の時間がある中で、研究だけでも大変そうなのに、ウェブサイトの更新や雑誌の編集など、想像するだけで目が回りそうです。

 

研究以外にも編集や執筆など色々やっていることで、採集や調査に行けない時や、標 本をじっくり調べたりできない時でも、通勤電車など空き時間で編集作業を進めたり、サイトを更新したりと、何かを進めることはできるので、完全に止まってしまうことがなくてむしろ精神的にも良かったりします。

研究に関連した分野で取り組むことを増やすことで、全体として歩みを止めないようにするというわけですね。

 

この状況で何が出来るだろうって常に考える癖はついているかもしれません。前職の時は、本業の仕事の出張先で現地休みがあった時に、ハエの採集をしたこともありました。

 

研究への執念を感じます。

 

 

今後の目標

最後に、今後の目標を教えていただけますか?

 

 

研究や雑誌等、今の活動を続けていくことと、それに加えて今、ハエのハンドブックを作っています!日本初となる双翅目だけを扱った図鑑です。共著者の方と一緒に、来年初夏ごろの出版を目指して現在編集作業中です!この本がハエを調べる入り口になれれば嬉しいです。

ハエ好きの一人としても、必ずゲットしたいと思います!

 

 

研究の方では、いつか娘と一緒に調査に出かけて、新しい発見を一緒に発表できたらいいなと思っています。

 

親子で共同研究!何と素敵な・・・論文に親子で名前を刻めたら一生の思い出になりますね!実現することを願っております。

ありがとうございました!

十希さんは生き物全般、ハエにも興味津々


インタビューを終えて

仕事と趣味、プライベートのバランスや優先順位などは、多くの方が悩まれるところだと思います。本業のお仕事に家事、子育てなど色々なことをやりながら研究に取り組まれている熊澤さんの生き方は、これから研究を始めたいという方だけでなく、多くの方にとってのモデルケースになるのではないでしょうか。

俳優・サイエンスコミュニケーターとして主に実践的な活動をしている私ですが、最近、サイエンスコミュニケーションの研究にも取り組みたいと思うようになりました。熊澤さんのお話を伺っていると、実現できるようなイメージが膨らんできました!

取材後は大阪市立自然史博物館の特別展「大地のハンター展」を楽しみました

最後に

本連載に登場いただきました熊澤さん、小松先生、マンボウ博士こと澤井先生も過去に出展された「博物ふぇすてぃばる」「らぶラボきゅ〜」のエイト特派員(佐伯恵太)として参加いたします!

博物ふぇすてぃばるとは・・・博物学や様々な学術ジャンル、蒐集ジャンルを題材にした創作・展示・研究の販売・発表イベントです。

2022年10月1日(土)2日(日)に九段下科学技術館で開催されます。気になった方は是非いらしてください!

それではまた次回、お会いしましょう!

"独立系研究者"に学ぶ! 過去シリーズはこちらから

(著:佐伯恵太)

【著者紹介】佐伯 恵太

俳優 / サイエンスコミュニケーター。
1987年5月30日生。京都出身。京都大学大学院理学研究科で修士号を取得し、日本学術振興会特別研究員(DC1)として同大学院博士後期課程に進学。1年間の研究活動の後、俳優に転身した異色の経歴の持ち主。現在は、科学とエンターテイメントの架け橋になるべく、俳優・サイエンスコミュニケーターとして活動中。
【出演ドラマ】BS時代劇「大富豪同心」シリーズ / 「ABEMAヒルズ」コメンテーター / 日本科学振興協会(JAAS)正会員 / 「エンタメ×科学」のプロ集団「asym-line(アシムライン)」代表
プロデューサー・監督・出演者として、YouTube科学番組「らぶラボきゅ〜(※)」を手がけている。
※「東京応化科学技術振興財団」助成事業