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山中さんが米国Wislerでの会議で初めてiPSの話を公開したとき、たまたま座長を務めていたが、あのときの会場の興奮は忘れることはない。しかし、日本に帰ってこの話を宣伝しても、「アーチファクトにすぎない」という厳しい反応が多かった。その後、外国であまり騒ぐのでJSTも支援が必要ではないかと考えたようで、当時の理事長が本当にノーベル賞級の仕事かとわざわざ聞いてきたのを覚えている。
その後の経緯はもう紹介する必要はないだろうが、発生学の原則に反するリプログラミング問題は常に厳しい批判にさらされてきた。ただ、山中iPSはリプログラミング問題を受容する閾値を下げたことは間違いない。その結果現在まで、様々なリプログラミング研究が発表されてきた。
特に最近のトピックスは、脳内で遺伝子操作を行うと、グリア細胞を神経細胞にリプログラムできて、パーキンソン病まで治療可能であるとする研究だ。もともと、アストロサイトと神経細胞が転換可能であることは、私が現役時代、Raffらにより試験管内で示されており、本当なら素晴らしいというイメージで見てきた。
今日紹介するテキサス大学からの論文は、脳内のグリア細胞を遺伝子操作で神経へリプログラミングできるという研究が、ほぼ全てアーチファクトを見ているに過ぎないことを示した研究で、10月14日号のCellに掲載された。
タイトルは「Revisiting astrocyte to neuron conversion with lineage tracing in vivo(体内でアストロサイトから神経への転換を追跡した実験を再検討する)」だ。
はっきり言って、体内でのグリア・神経リプログラミング全否定の論文で、これまでの実験に使われた方法論を再検討し、結果は再現できるが、結果の解釈は完全に間違っていると結論している。
実際、PTBP1ノックダウン実験は、パーキンソン症状が治療できるというところまで示した研究で、これが全否定されたことの失望は大きいと思う。いずれにせよ、リプログラミングには常にこのような、時によってはねつ造とすら考えざるを得ない問題が伴うことを再認識させてくれる、面白い論文だった。
最後に個人的な印象だが、最初の頃の実験は別として、最近2年に集中しているNeuroDやPTBP1とリプログラミングの論文は、研究室の所在はともかく、全員が(今日紹介した論文も)中国名が責任著者を占めているのが気になった。おそらく、早く情報を仕入れて論文に仕上げるスタイルの研究が、中国ネットワークで形成されているように思う。
まさに中国が科学大国になってきた証拠だが、このスタイルからはトップジャーナルの論文は出ても、山中さんのようなオリジナルな研究は出る確率は低いので、コップの中の嵐と冷静に見ておればいいだろう。