介護者と被介護者を幸せにする、先進の排泄ケアシステム「Helppad」

2021.12.16

株式会社aba(以降、aba)は、介護者・被介護者双方の負担を大幅に軽減する排泄ケアシステム「Helppad(ヘルプパッド)」を開発しました。
また、その経験を生かして、介護業界へのメーカー参入をプロデュースするチーム「aba lab(アバラボ)」を設立し、テクノロジーが支える介護社会の未来を切り拓こうとしています。

排泄ケアの重要性

いわゆる「三大介護(食事、入浴、排泄)」の中で、排泄ケア(おむつ交換)は、介護者・被介護者双方が最も消耗するケアであると言えます。

施設や在宅の高齢者には、

  • ・トイレ(ポータブルを含む)に自分で行ける人
  • ・身体は動かせないが排泄の前後にコールができる人
  • ・認知症などが原因で、排泄しても自分では知らせることができない人

など、様々な人がいます。

特に最後のケースでは、おむつ交換が遅れてしまうと多大な不快感が生じ、さらには排泄物の水分や腸液の刺激性などによって、皮膚炎や褥瘡(じょくそう)が発生しやすくなります。また、排泄物特有のにおいが長時間部屋にこもることで起こる不快感も問題でした。

また介護者からすると、「便いじり」や「おむつ漏れ」による状況は、更衣やシーツ交換などの業務量を著しく増加させます。 そして、その体感は通常のおむつ交換のみの時と比べて、業務量が約10倍(3分が30分)にもなると感じる介護者もいます。

 

従来、施設で決まった時間に服を脱がせ、おむつを開いて排泄の有無を確認する「定時交換」がほとんどです。それに加えて、介護者が「専門職」としての経験から、排泄のタイミングを予測しておむつ交換を行っている施設もあります。 その際、空振り(おむつの中身を確認したが何も出ていなかった状況)に終わると、被介護者と介護者の双方がストレスを感じます。

そんな状況の中で「おむつを開けないで中を見たい」という現場の声を汲み上げたのが、千葉工業大学在学中にabaを起業した創業者の宇井CEOでした。

特に、近年の新型コロナウイルス感染症などの呼吸器感染症の拡がりが懸念される状況では、一般的に「咳」に感染対策の目が向きがちですが、「排泄物」からの感染にも大いに注意を払わなければいけません。 排泄物内にも多種多様なウイルス・細菌などが存在しているため、おむつ交換が遅れると空気感染や経口感染のリスクを高くする可能性があります。

開発の道のり

「排泄」を検知するデバイスは従来でもありましたが、検知方法や方式によっては肌に接触することによる不快感があったり、センサを使い捨てるため交換の手間やコストがかかるなどの問題もあり、実用化されても広く普及するに至るものは多くありませんでした。

 

そのような中、abaは日本のベッドメーカーとの共同開発により、排泄ケアシステム Helppad を生み出しました。「非接触型」をコンセプトに、排泄の「におい」というポイントに注目して検知する、シート型の排泄検知システムです。

非接触型であるため、被介護者は装着時に起こる不快感や肌のトラブルを考える必要がなく、普段通りの生活を送ることができます。

また、設置はベッドに敷き電源を入れるだけで良いので、介護者にとっては装着のために新しいことを覚える必要や装着型に多かった上手くセンシングできる位置に装着できているかなどの確認作業が減るというメリットがあります。

これらを可能にする「排泄検知システム」を実用化するためには、排泄のにおいをデータとして取得し、コンピュータが排泄の有無を理解する(検出する)アルゴリズムを開発する必要がありました。特に、被介護者はほとんどが高齢者であるため、病気や体調などにより一般的な成人の排泄データでは実際の現場とは大きなズレがありました。そのため開発チームは、ダミーデータや一般的な成人の排泄データでは取得することができない「実際の排泄データ」を積極的に取得することを決意します。

開発するアルゴリズムに入力するデータである「排泄」情報は、DNAを含むため生体情報としての傾向が強く「個人情報」であると言えます。

さらに、平成17年4月に個人情報保護法が全面施行されて以来、個人情報の取り扱いや収集には消極的な意見傾向が見られてきました。

排泄データを収集するためには対象者である被介護者からの同意が必要となりますが、対象者は施設に入居しており、その施設自体の協力も必要になります。 また、対象者は高齢や寝たきりであることも多いため、同意をとるための意思疎通ができず、代理人として対象者のご家族に対して説明や同意取得が必要な場合もあり、データを回収するまでにたくさんの時間がかかることや、実験を実施することすらできないことも少なくありませんでした。

その中でabaは、介護職の方々へのヒアリングや、実験を行う際の細かな課題の修正を繰り返すことでデータ回収環境をより良くしていきました。

対象者のご家族に対する実験説明や同意取得についても、ご家族との信頼関係がすでにある地元の社会福祉法人や施設を仲介して丁寧に行ってもらい、個人情報取得などの消極的傾向を緩和することができました。結果として、排泄ケアシステムであるHelppadのシステムやハードウェアなどの実用化に関する実証実験を行うことができたのです。

Helppadが実現できたこと

Helppad の強みは、排泄検知機能そのものだけではありません。

システムからの排泄通知を受け、おむつを開けることで得られるデータ(排泄結果記録)を専用アプリを使って簡単に入力することができ、独自のアルゴリズムによって排泄のタイミングを知ることができます。さらに、それらを統計的に分析することで個々人の排泄パターンやおむつ交換の推奨時間帯を予測することができます。

 

 

排泄介助に力を入れている施設では、多くの場合「紙の記録」から「表計算ソフト」へと転記を行い、排泄パターンを作成・把握しています。しかし、その結果はグラフ化はできていても理解することが難しく、ベテラン介護者は頭の中では経験から理解できていますが、教育などでいざ他者へ共有するとなると難しいという現実がありました。

Helppad では普段の排泄記録から専用アプリを使うことで、排泄パターンを把握するために改めてデータを転記することを必要とせず、自動で簡単に「見える化」することができ、端末さえあれば職員全員が共有できます。

これによって施設などでは職員同士の経験値の差を埋めることができ、新人やパートなどの被介護者との付き合いが浅い職員でも個々人の排泄パターンに合わせたおむつ交換を行うことも可能となります。

また、「空振り」が減ることにも繋がるため排泄からおむつ交換までの時間差も減り、さらには排泄パターンから逆算して、ポータブルトイレやトイレへ誘導することができるようになった事例もあります。

以上のように「排泄」という、必ず発生するがいつ発生するか把握が難しい特徴を持った介助業務を最適化していくことで、介護業務全体の流れも効率化され、空き時間が生まれることになります。その時間を排泄以外のケアに充てることもできるため、被介護者とのふれあいの時間を増やすことにも繋がります。

進化する課題

Helppad は2021年12月現在、100台以上が現場に導入されています。

現場での反響も高く、 Helppad から通知があったタイミングで実際の排泄があることに対する驚きや、「これまでにカン(経験則)で対応していたおむつ交換時間とだいたいあっている」といった声が挙がりました。

しかし、利用が進むと新たな要望も生まれていきます。

たとえば「便と尿」を別々に検知することができないかという要望があり、これはアルゴリズムにさらなる改良を加えることで可能になる見込みが出てきており、現在も研究開発が進んでいます。

Helppad では、おむつ周辺の空気を吸引することで一定の排泄臭データを得ています。この方式では空気を吸引するための「エアブロア」の存在が非常に重要であり、消費電力も高くなるため、「電源の確保」が課題となります。そして、空気以外のものを吸引してしまうとHelppadのお手入れが必要になるという課題もあります。

また、日中でも使いたいという要望もあります。Helppadは、ベッドで過ごすことの多い寝たきりの被介護者をメインターゲットにしています。ベッドに寝ていれば利用することが可能ですが、日中など例えば車椅子などを利用してベッドに居ない場合には利用することができません。そこで、abaではコンパクトで持ち運び可能な吸引を行わないタイプの実現やそのためのセンサデバイスについても研究を行っています。

一方で、高齢者だけではなく新生児などに対しての利用要望も出ています。しかし、これにはおむつの種類・取り付け方の影響や母親が抱きかかえている状態での検出方法など考慮すべき課題がたくさんあります。

そのほか、様々な「見守りデバイス」や「介護ソフト」などとのデータ共有についても期待されています。

そして、専用のアプリを使用することで、訪問看護師や離れた場所で暮らす家族が排泄状況を把握することができるようになるため、在宅介護からの期待も高まっています。

介護分野参入の見通し

何らかの技術を持ち、介護分野にも参入したいと思っているが、きっかけがつかめない企業は多くあります。この主な要因には、介護現場への理解や知見の不足、技術ノウハウの応用方法が把握できていないこと、などが挙げられます。

abaは、Helppad の開発経験を基にして、大手メーカーが介護業界に参入する際の橋渡しを行う「aba lab」を設立しました。

介護現場の実情や、介護施設や介護従事経験者へのネットワーク、宇井CEOや作業療法士メンバーの経験などから得られた知見を総動員して企業をサポートします。

aba labを通して企業側は、介護現場の実情や行いたい内容に関するアドバイスを得ることができ、製品の仕様や方向性の変更を行なうことができます。また、実際に介護製品を利用する被介護者以外にも、複数のステークホルダー(介護者、購入権を持つ施設長など)が存在するため、彼らとどのように連携すれば、被介護者のためになるものづくりが進められるかを実感を持って知ることができます。

一方、aba側は、企業の持つ最先端の技術だけでなく、製品・品質(安全性、耐久性)に対する意識とこだわりを目の当たりにでき、さらなるノウハウの向上に向けたフィードバックが得られます。

このように双方が刺激し合うことで、介護社会全体の発展を促す事業へと繋げることができるのです。

まとめ

先進国の宿命とも言える少子高齢化により、日本の介護需要は増加の一途を辿っています。

しかしながら、退職者の内70%が 3年以内の退職であると言われている介護職の待遇はなかなか改善されず、善意と使命感が社会を支えているのが現状です。

介護とテクノロジーの融合でこの問題を解決するために、介護事業者・ケアテック事業者・学識者をメンバーとして、日本ケアテック協会が2020年11月に設立されました。

aba は会員として、また宇井自身は理事として、Helppad を通じて日本の介護を牽引してきました。

これからも多くのテクノロジー産業を巻き込み、介護者と被介護者が共に幸せになれる社会を目指していきます。

 

https://youtu.be/qWbvOuSSR1E