初期人類は石器の原料目当てで100km移動したかも? 長距離移動の痕跡を石器で示す

2025.07.18

遠くから石を運んだ初期人類 サムネ

(画像引用元番号①②③)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、旧石器時代の人類が、石器の原料となる岩石を求めてどれくらいの距離を移動したのか?という研究についてだよ。大部分は近場から採集していたっぽいのは当たり前だけど、驚くのは、最大で100kmもの離れた場所から採集したらしい岩石が見つかったという点なんだよね!

 

これらの岩石は「緑色の玉髄ぎょくずい (カルセドニー)」と「赤色の碧玉へきぎょく (ジャスパー)」で、今回の研究ではかなり詳細に分析することで、その出所を明らかにしたんだよね。近場ならともかく、地形や距離を考えると、数十kmも自然現象で運ばれたとは考えにくいので、多分当時の人類が運んだんだろうということになるよ。

 

何故そんな長距離を運んだのか?までは今回の研究では明らかにできないけれども、もしかすると当時の人々もキレイな石に価値を見出していたのかもしれないし、あるいは全然違う理由なのかもしれない。とにかく今回の研究は、痕跡が残りにくい「人類の移動」を、実物の証拠で証明できそうだ、という点で興味深いんだよね!

 

今回の研究のポイント
  • 旧石器時代の人類がどれくらい移動したのかについては、定住よりも証拠が少ないためによく分かっていなかったよ。
  • 今回、アフリカ大陸南西部から出土する石器を調査した結果、最大100kmもの移動があったことを示唆する結果が出たよ!
  • 数万年前の人類も、キレイな石という資源を長距離輸送していた可能性が示されたよ。

                                      

    数万年前の人類は資源を求めてどれくらい移動した?

    初期人類は資源を求めてどう移動した?

    初期の人類はどんな暮らしをしていたんだろう?地層に残るものを調べれば色々分かるけど、例えば日常的な移動のような、地層に痕跡の残らないものを証明するのは難しいんだよね。 (画像引用元番号④⑤⑥⑦⑧⑨)

     

    旧石器時代のような、狩猟生活を行っていた数万年前の人類がどのような生活を営んでいたのか。これを知るのは初期の人類がどのような社会を形成していたのかや、動植物などの自然とどのように関わっていたのかを知る上で重要だよね。これを詳しく知るためには、様々なアプローチから研究を行う必要があるよ。

     

    しかし、地層に残る痕跡を調べるという手法上、地層に残りにくい情報は知識から欠けてしまうんだよね。例えば、初期の人類は日常的にどれくらいの距離を移動していたのか?という情報はしばしば欠けているよ。定住とは異なり、生活の過程で生じる住居跡や動物の骨などの廃棄物が残らないからね。

     

    石を調べれば移動が分かる?

    岩石は正確な産地を特定するためのいろいろな情報を含んでいて、何より生き物じゃないから自力で動けないのよね。なので石の産地と見つかった場所が遠隔地ならば、それは人類が運んだ可能性を示唆するんだよね。 (画像引用元番号⑩)

     

    そういうわけなので、初期の人類の移動を知るには工夫を凝らさないといけないわけだね。例えば、地層から出てくる石器を調べるのは、考えられるアイデアの1つだよ。旧石器時代の名の通り、当時の人類は様々な岩石を石器として使っていたけど、これを分析すると、その岩石はどこで産出したのかがとても細かく分かるんだよね。

     

    もしも、ある地層で見つかった石器の原料となる岩石が、その周辺では見られないものであるならば、それは人類によって意図的に遠距離から輸送された、という可能性が出てくるわけだね。動物と違って岩石は自分からは動けないし、地形や距離を考慮すれば、川や洪水で運ばれた可能性も否定できるよ。

     

    こういう手法があるならば気になってくるのは、初期の人類は岩石という石器資源を手に入れるためなら、どの程度遠い場所からそれを運んだのかだよね?その距離が遠いならば、初期の人類は遠距離移動を投資するに見合うコストと見なしていたか、もしくは遠くの集団とも交流があったことを伺わせることに繋がるよ。

     

    キレイな石を求めて最大100kmも移動した!?

    エスワティニ王国の旧石器時代の遺跡

    今回の研究ではエスワティニ王国の遺跡などを調べたよ。 (画像引用元番号⑪⑫⑬)

     

    エバーハルト・カール大学テュービンゲンのGregor D. Baderジョージ・D・バーダー氏などの研究チームは、初期の人類がどの程度の距離を移動したのかを知るために、エスワティニ王国 (旧称スワジランド王国) の調査を行ったよ。どこ?ってなりそうだけど、アフリカ大陸南東部、南アフリカ共和国とモザンビーク共和国の間にある国だよ。

     

    この地域の考古学的調査は1950年代から行われていて、出土した石器は首都ロバンバにある国立博物館に収蔵されており、かなり多くのコレクションがあるんだよね。これらは4万年前から2万8000年前の中期旧石器時代と、3万年前から2千年前の後期旧石器時代[注1]にまたがるものになるよ。

     

    今回の研究は、博物館の収蔵品に加え、エスワティニ北西部にある4ヶ所の遺跡と2ヶ所の露頭について調査を行ったよ。これは2021年に許可されたもので、調査地の1つは2年後に鉱山としての採掘が開始されてしまったために、元の情報が失われてしまったことを考えれば、今回の調査はかなりラッキーだったんだよね。

     

    ムグワイザ渓谷の石

    遺跡からはキレイな石が見つかり、恐らくその産地っぽい場所も見つかったよ。本当に産地かどうかは、石器からサンプルを採取し、分析を行うことで特定できるよ。 (画像引用元番号②③⑭⑮)

     

    調査してみたところ、石器の中に、緑色の玉髄 (カルセドニー) と赤色の碧玉 (ジャスパー) という、明らかに見た目からして異なる岩石が2種類見つかったんだよね[注2]。もちろん、それらは視覚的に区別が可能でも、じゃあ元となった岩石がどこから来たのか、という問題が出てくるんだよね。

     

    そこで「中性子放射化分析法」[注3]と呼ばれる手法で岩石の出所を調べたんだよね。詳しい手法は注釈に書くけど、とにかくこの方法では1-2gというわずかな試料片を削り出せば、岩石の出所を知る手掛かりとなる詳細な情報を得ることができる手法となるよ。

     

    最大100kmを移動した可能性

    調べた結果、石器の原料となった岩石の産地と、見つかった遺跡の距離は10kmから100kmまでに達したんだよね!一番近いものを除くと、人類が運んだ以外の理由だと説明しにくい距離・地理的場所となったよ! (画像引用元番号①)

     

    今回の研究では、緑色の玉髄28個・赤色の碧玉24個を調べてみた結果、ごく一部の特定不能な例を除けば、全てがムグワイザ渓谷 (Mgwayiza) の露頭見られる岩石と同じだと特定されたんだよね。特に重要なのは、調査された4ヶ所の遺跡との距離で、それぞれ10kmから100kmまで離れていたよ。

     

    4ヶ所のうち、10kmほどしか離れていないフララカレ遺跡 (Hlalakahle) のみについては、近くを流れるコマチ川 (Komati) とンブルッヂ川 (Mbuluzi) によって運ばれた川石である可能性があるよ。なのでこれだけについては、人類が関与せずに自然に流れ着いた可能性があるよ。

     

    しかし、約30km離れているシベベ遺跡 (Sibebe) 、約50km離れているンカンベニ遺跡 (Nkambeni) 、約100km離れているシフィソ遺跡 (Siphiso) 、については、距離的にも地形的にも、岩石が川から流れてきたと考えるのは相当無理があるという感じなんだよね。

     

    つまり、3ヶ所の遺跡で見つかった石器については、元の露頭から砕いて採集されたか、もしくは近くを流れるンブルッヂ川の川石から採集された後、数十kmもの距離を人の手によって運ばれたらしいことが推定できるんだよね!数万年前の人類が石器のために数十kmも移動したと考えるのは、かなり驚きな発見だよね!

     

    はっきりしたことが分かるのはまだまだ先

    初期人類が移動した証拠になるのかはもう少し先

    今回の研究は、実物証拠で人類の移動を証明するというのが主旨なので、なんでこの石をわざわざ運んだのかまでは分からないんだよね。キレイな石だから運んだというのは十分に考えられるけど、それを証明、あるいは否定するには更なる調査が必要になるよ。 (画像引用元番号②③)

     

    今回の分析で分かったのは、この色付きの石が何十kmもの距離を運んでまで欲しかったものらしいという点なんだよね。残念ながら、これらの石器の用途は分かっていないので、当時の人類にとってどういう価値を持つものだったのかは不明だなんだよね。研究者としても推測することしかできないよ。

     

    ただ、発掘現場のすぐ近くで採集された岩石で作られた石器の方が圧倒的に多く見つかるということは、石器の素となる岩石自体には困っていなかったことが推察されるよ。そして、キレイな色付きの石は現代でもそれなりに価値を持つものだということを考えれば、当時の人類も色付きの石に価値を付けていた可能性があるよね?

     

    面白いのは、見つかった石器を見る限りでは、どうやら時代によって“トレンド”も変化したらしいんだよね。より古い時代である中期旧石器時代では緑色の玉髄が多く出土したのに対し、より新しい時代である後期旧石器時代では赤色の碧玉が多く見つかったんだよね。

     

    緑色の玉髄と赤色の碧玉の間には、石器としての機能の差はあまりないので、そう考えると色によって選ばれた可能性が十分にあるんだよね。それが当時の流行りの色だったのか、文化や宗教的な意味を持つのかについては分からないけど、色が選ばれる選択肢の理由になった可能性がありうるよね。

     

    もちろん「選ばれた理由は色やキレイさである」という予想が正しいかどうか、今回の研究だけでは分からないよ。ただ、過去に研究調査された他の旧石器時代の遺跡でも、恐らくは色によって選ばれた石器が見つかっている以上、キレイな石なので遠くから運ばれた可能性は直ちには否定できないんだよね。

     

    今回の研究で示された予想が妥当なのか、それとも的外れなのかは、もう少し多くの地点で調査を行う必要があるね。当時の人々もキレイな石に価値を見出してわざわざ運んだのか?この疑問に答えるにはもう少し時間がかかりそうなんだよね。

    注釈

    [注1] 旧石器時代の時代区分
    本文の数値はアフリカ大陸における時代区分です。区分は場所によって (あるいは学説によって) わずかに異なります。  本文に戻る

     

    [注2] 2種類の色付きの岩石
    今回の研究では黒色の珪質の岩石も見つかりましたが、分析値の問題などで最終結果からは外されています。プレスリリースでも登場しないため、本文では触れていません。  本文に戻る

     

    [注3] 中性子放射化分析法
    中性子を放射すると、原子核が中性子を受け止め、場合によっては不安定な原子核となります。やがてその原子核は崩壊して放射線を出しますが、その種類と強さは原子核の種類によって決まっています。つまり放射線を測ることによって、逆算で元の原子核を特定することができます。これが中性子放射化分析法です。この方法を使えば、微量にしか含まれていない不純物の元素や、元素の同位体の違いを鋭敏に測ることができます。  本文に戻る

     

    文献情報

    <原著論文>

    • Gregor D. Bader, et al.“Decoding hunter-gatherer-knowledge and selective choice of lithic raw materials during the Middle and Later Stone Age in Eswatini”. Journal of Archaeological Science, 2025; 180, 106302. DOI: 10.1016/j.jas.2025.106302

       

      <参考文献>

         

        <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

        1. 今回の研究における石器の原料の推定産地と遺跡との距離を示した地図: 原著論文Fig7よりFをトリミング
        2. 緑色の玉髄: プレスリリースより (Photo: Gregor Bader)
        3. 赤色の碧玉: プレスリリースより (Photo: Gregor Bader)
        4. 洞窟のイラスト: いらすとやより
        5. クロマニョン人のイラスト (初期人類のイメージとして使用) : いらすとやより
        6. 馬の頭蓋骨のイラスト: いらすとやより
        7. 骨のイラスト: いらすとやより
        8. はまぐりのイラスト (貝殻のイメージとして使用) : いらすとやより
        9. 地層のイラスト: いらすとやより
        10. 石・岩のイラスト: いらすとやより
        11. アフリカ大陸におけるエスワティニ王国の位置: WikiMedia Commonsより (Author: Shosholoza)
        12. 今回の研究のエスワティニ王国の地図: 原著論文Fig1より
        13. エスワティニ王国の国旗: WikiMedia Commonsより
        14. ムグワイザ渓谷: プレスリリースより (Photo: Gregor Bader)
        15. 中性子放射化分析の分析結果: 原著論文Fig6より

           

          彩恵 りり(さいえ りり)

          「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
          本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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