著者紹介:西川 伸一
京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。
【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。
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今日は専門家向けの論文を紹介するが、できるだけ解説部分を多くするとともに、実験の詳細を省いて結論を紹介するようにする。
我々の細胞は細菌などの外来刺激に対して炎症誘導という形で最初に反応するが、これを抗原特異的免疫に対して自然免疫と呼んでいる。例えばバクテリアの LPS には細胞表面の TLR4 が反応して炎症反応を誘導するが、細胞内に入ってきた DNA は GAS-STINGシステムという DNAセンサーが働いている。
このシステムは進化的に古く、バクテリアが外来のウイルスやプラスミドを排除する仕組みに由来している。生化学的には、GAS によって DNA から cyclicGMP-AMP が合成され、これが小胞体膜上の STING に結合するとTBK1、IRF3を介して炎症を誘導するとともに、ウイルスに対してインターフェロンを分泌する。
ところが最近、 STING が小胞体からプロトンを汲み出す全く別の機能があることが報告された。
CONTENTS
本日紹介する論文
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、重篤な炎症疾患が起こる STING の変異が、従来の IRF3 などインターフェロン下流シグナル経路とは異なる経路で炎症を誘導している分子機構を探るなかで、STINGの新しい機能メカニズムを解明した研究で、3月20日 Cell に掲載された。
タイトルは「ArfGAP2 promotes STING proton channel activity, cytokine transit, and autoinflammation(ArfGAP2 は STING のプロトンチャンネル活性を高め、サイトカインの輸送促進を介して自発的炎症を誘導する)」だ。
解説と考察
この研究では GAS を介さずに STING が勝手に活性化している変異を導入したマウスを作成し、クリスパースクリーニングで、ArfGAP2 をノックアウトすると、変異STING の活性化による細胞死を回避できることを発見する。
ArfGAP2 はこのように変異STING活性を強く抑えるが、ノックアウトしても通常のインターフェロン経路には全く影響がない。ただ少しややこしいが、STING・IRF3経路により誘導される様々なサイトカインの分泌は抑えるので、おそらく STING のプロトンチャンネル活性にかかわる機能に関与して、しかもサイトカインの転写ではなく分泌を調節すると考えられる。
この可能性を追求して最終的に次の結論に到達している。
まとめと感想
以上が結果で、かなり専門的な論文を簡単にまとめすぎたとは思うが、STING が新たに獲得したプロトンチャンネル活性が、免疫系やマクロファージで、サイトカイン分泌のファインチューニングを可能にしていることを示す重要な論文だと思う。特に持続するウイルス感染などで、過剰炎症を抑える目的でArfGAP2 は重要な標的になると思う。