天川村のローカルフード探索

2025.03.27

天川村のローカルフード

普段はなかなか行かない場所に行くと、やはり現地でしか食べられないローカルフードを食べたくなる。ローカルフードは旅の醍醐味だ。今回はこれまでの天川村探索の記事で紹介できなかったローカルフードを紹介したい(ちょっとした反省点も含めて)。山上ケ岳登山や面不動鍾乳洞観察に加えた楽しみになるだろう。

 天川村洞川といえば、「ごろごろ水」が有名である。1985年7月に環境庁の名水百選に選定されたごろごろ水は、洞川湧水群に属する湧き水で、他に「泉の森」と「神泉洞」も同じ洞川湧水群に属する。ごろごろ水は、五代松鍾乳洞付近から湧き出る水の音が鍾乳洞内に反響してごろごろと聞こえることに由来している。何かごろごろ水に関連する先行研究はないかと調べてみたところ、谷口・島野(1998)が見付かった。谷口・島野(1998)によると、採水時に測定したごろごろ水は、水温10.4℃、pH7.0~7.4で、冷たくて中性~弱アルカリ性の水とのことだ。また、谷口・島野(1998)によると、カルシウムイオン(Ca2+)が30.7~31.8 mg/Lと豊富であり、これもごろごろ水の特徴であるとのことだった。ごろごろ水は五代松鍾乳洞前に採水場があり、パイプに繋がっている蛇口のバーを下げて自由に採水して持ち帰ることができる。そのまま飲んでも問題無いようだが、生水なので煮沸してから飲む方が良いだろう。でっかいタンクを持って来て大量に採水している人を何人か見掛けた。洞川温泉街ではペットボトル詰めにされたごろごろ水をあちこちで売っているので、こちらはそのまま飲んでも問題無いだろう。

少し高いが、ごろごろ水を使用したジュース、ごろごろサイダーもあちこちの店で売っており、私は買って飲んでみた。水の違いはよく分からなかったが、昔ながらのサイダーの味で美味しかった。

 

名水を使った売切必至のお豆腐

ごろごろ水を使った料理が名物で、中でもインターネットで評判が良かった『名水とうふ山口屋』に豆腐を食べに行った。この店では昔ながらの手作業で豆腐を作っており、売り切れることもよくあるようだ。かけ流しで冷やされている豆腐はもう最近では全然見なくなった。エモい。お店では買って帰ることもできるし、その場で買って食べることもできる。私はそれほどたくさん要らなかったので、その場で食べることにした。注文すると、拳くらいの大きさの豆腐に、ショウガと醤油が掛かったものが出てくる。食べていくと、豆腐はほろほろと崩れていくが、硬過ぎず柔らか過ぎずほどよい食感。まろやかな豆腐の味でパクパク食べられた。厚揚げは常温で持ち帰ることができるが、店主に聞くと既に売り切れになっていたので、翌日また寄ることを話して予約し、お土産に持って帰った(美味しかった)。電話などでも予約を受けているので、確実に食べたい方は予約していくのが良いだろう。

 

珍しい「馬刺し」ならぬ「鹿刺し」

 洞川温泉街を探索していると、馬刺しならぬ「鹿刺し」を食べられると書かれているところがあったので、気になって店に入ってみた。奈良といえば鹿を食べないイメージがあるかもしれないが、それは「奈良のシカ」として天然記念物指定されている奈良市の鹿だけであり、それ以外の地域では奈良県内でも鹿を食べる(一般的ではない)。入った店では鹿の刺身をポン酢で食べるようで、注文すると、鹿肉、ネギ、ショウガ、ポン酢が出てきた。鹿刺しは初めて食べるのでどんな味かドキドキした。食べてみると、豚でも牛でも鶏でもない味……臭みがあるかなと思っていたが、それも全くないあっさりとした肉の味だった。美味しい。冷凍ものだったので、食べた瞬間はシャリシャリしていたが、食べているうちに溶けて肉の旨味をより感じた。入った店では人気メニューと看板に書かれていたので昔から提供していると思われ、寄生虫の心配は無いと思ったが、ふと気になって家に帰ってから調べてみると……鹿肉を生で食べると肺吸虫症(肺ジストマ症)にかかることがあるらしい。肺吸虫症になると、肺炎や肺結核に似た症状が出て、肺吸虫が脳に侵入した場合は、頭痛や視力障害などの合併症を起こすとのこと。生で食べる時の感染予防としては、24時間以上マイナス27℃で冷凍処理することが推奨されている。鹿刺しは冷凍されていたので、大丈夫だと思いたい……この記事を書いている現在は食べてからおそよ1年経が過しているが、特に肺吸虫症らしき症状は出ていないので大丈夫だったようだ。ホッとした。ローカルフードとして出されるジビエの生食は、X(旧Twitter)でもたまに注意喚起として話題に上がる。シカ肉の生食は寄生虫以外にもウイルスや細菌の感染リスクがあるとのこと……うぅ、今回物珍しさに私は普通に食べてしまったが、後から怖くなったので反省である。ローカル店で出されるジビエを食べるのは自己責任であるが、確実に安全と言い切れない場合もあるようなので……やはりジビエの生食は避け、火を通してから食べる方が安全だろう。

吉野地方の郷土料理の一つに「めはり寿司」がある。高菜の浅漬けの葉っぱに包まれた拳大の大きさのおにぎりがめはり寿司。中に何か具が入っているのかと思ったが……何も入っておらず、添えられている味の濃いあさりの佃煮とかつおくるみと一緒に食べる形式のようだった。おにぎりと言えばご飯をぎゅっと固めている印象があるが、このめはり寿司は炊き立てご飯を優しく包んだふわふわ食感で驚いた。私はこれに加えて、「あゆ味噌煮」を単品で注文した。魚類研究者の端くれとしてローカル魚料理は食べておきたい。アユは塩焼きのイメージが強かったので、味噌煮は珍しい気がした。アユ自体めったに食べないのだが、改めて食べてみると、川魚なのに全くクセが無くサッパリとした白身魚だった。アユはよく瓜系の香りがすると言われるが、煮込まれている影響かよく分からなかった。しかし、淡白な白身は甘みがある白味噌との相性が抜群だった。小骨が多いが、ゆっくり食べれば口の中で刺さらず問題無かった。内臓は苦みがあるが、味噌で相殺できるので、余すところなく食べられる。アユの味噌煮は覚えておきたい美味しい料理だった。

 

炉端焼きの店『亀清』

今回の天川村探索で個人的に一番美味しかった店が『亀清』なので紹介しておきたい! この店は炉端焼き形式で、炭火で焼かれたイワナ、アマゴ、アユを塩焼きで提供してくれる。しかし、一番食べたかったイワナは訪問した時は入荷されておらず食べることができなかった。代わりに、食べたらクセになるという「子持ちあゆ」の塩焼きを注文した。定番のアユの塩焼きを頂くと、味噌煮とはまた違った美味しさがあった。これぞ王道の味。淡白な白身に塩が良い感じに合う。子持ちとは卵巣のことで、内臓をかなり圧迫しているほど卵巣卵が入っていた。子持ちあゆは、ぷちぷち食感を楽しむものらしい。子持ちあゆとして出荷されるアユの生殖腺体指数(GSI, 生殖腺重量/体重×100)を調べてみると、どうもGSI 20%以上(つまり、体重の20%以上が卵巣)が子持ちあゆの対象になるようだ。私が注文したのは子持ちあゆだけだったのだが、この店のおつまみとして、店長手作りのいろんな海水魚の煮込みが出てきた。サービスが良過ぎて驚いた。そして、このおつまみがまた美味い! 正直言うと、天川村でいろいろ食べた料理のうち、私はこのおつまみが一番美味しかった。特に美味しかったのは圧力鍋で身と骨を煮込んで様々な味付けを加えた4種(サーモン梅味、ブリ味噌味、マグロ醤油味、カンパチカレー味)のおつまみである。よく煮込まれているので骨まで食べられる。むしろ、このおつまみを売って欲しいとさえ思った。店長は高齢で一人だけだったので、おそらく店長が引退されるとこの味は食べられなくなる……これを食べるためにまた天川村に行っても良いというほど美味であった。激推しする!

現地でしか食べられないローカルフードは旅の醍醐味であり、魅力である。私が研究しているマンボウもローカルフードの側面が強い魚だ。今回紹介した天川村に行った際は、おそらく普段は食べないであろう川魚を是非食べて頂きたいと思う。普段食べないものを観察しながら食べると、いろいろ学びがあるはずだ(ジビエの生食はおススメしないが自己責任で!)。

 

 天川の

  ローカルフード

   川魚

    焼きアユ味噌煮

     名水豆腐