「乳酸がたまって足が動かない」←これって本当?~乳酸は疲労の原因なのか~

2024.02.01

管理栄養士の栄 養太郎です。

年が明けてすでに1ヶ月が経過してしまいました・・・

さて、お正月の前後は、様々なスポーツの大会が目白押しで、どの競技を見るか迷ってしまいます。そのなかでも、多くの方が観戦すると思われるのが駅伝ではないでしょうか。

お正月名物の駅伝大会では、毎年様々なドラマが繰り広げられ、観ている人々を感動させてくれます。

大会では数々のドラマがあり、一つの例として、走行スピードが急激に落ち、何分も離れていた後続の選手に追い抜かれるという場面もたくさんありました。

このような場面に対する解説は、「乳酸が溜まって足が動かなくなってきていますねぇ」と言われることが多いと感じますし、みなさんも聞いたことがあるのでは?と思います。

(このようなコメントをするのが、著名な方だったりする...)

 

こういった解説を聞く度に、正しいスポーツ科学が伝わらないなぁと感じてしまいます。

 

激しい運動をすると乳酸が作られる、という事実を、多くの方が知っていることかもしれません。

ですが、「なぜ激しい運動をすると乳酸が作られ」「作られた乳酸がどうなるのか」までは考えないと思います。さらに、「乳酸は老廃物で疲労を引き起こす物質だ」と信じている方も多くいるのだろうと思います。

 

スポーツ科学的な考えでは、「乳酸は疲労物質ではない」というのが結論です。

 

今回コラムを通じて、みなさんの持っている「乳酸」のイメージが変わると良いなと思います。

★本コラム中に出てくる「疲労」は運動性の疲労を指します

 

糖 (ブドウ糖) のエネルギー代謝

乳酸の話をする前に、少しだけエネルギー代謝の基本を考えましょう。エネルギーは、糖質、脂質、たんぱく質 (これらをエネルギー産生栄養素と呼ぶ) から作られます。今回は、糖質 (ブドウ糖) からエネルギーを産生する流れを示します (図1)。

 

  1. 解糖系: ブドウ糖をピルビン酸に分解する
  2. クエン酸回路: ピルビン酸がクエン酸回路に入り、エネルギーを産生する準備をする
  3. 電子伝達系 (酸化リン酸化): クエン酸回路などで生成されたNADHやFADH2が酸化リン酸化され、多量のATPが産生される

★ヒトの体を動かすエネルギーをATP (アデノシン三リン酸) と呼ぶ。

ブドウ糖は、解糖系に入り、ピルビン酸に分解されます。ピルビン酸は、アセチルCoAという物質に変換されてから、クエン酸回路に入り、電子伝達系で多量のATPを産生する準備が行われます。最終的に、電子伝達系で多量のエネルギーが産生されます。

 

一方、乳酸は、解糖系でブドウ糖から作られたピルビン酸が、クエン酸回路に入らなかったときに作られます。ピルビン酸から乳酸を産生して得られるエネルギーは電子伝達系と比較すると少量ですが、ピルビン酸から速やかにエネルギーを得ることができます。

 

解糖系から電子伝達系までの代謝がスムーズに回ること、大量のエネルギーが供給されます。基本的に、運動をしていない状況でも、している状況であっても、筋を動かすためのエネルギーを得るために、代謝経路が動いています。

 

運動時のエネルギー供給の種類

次に、運動時のどのようなエネルギー供給機構が動いているのかについて整理しておきましょう。運動時のエネルギー供給は、3つあります。

 

  1. ATP-PCr系: クレアチンリン酸からエネルギーを産生する → 一瞬で無くなる
  2. 解糖系 (無酸素系): 糖質からエネルギーを産生する → 酸素を必要としない
  3. 有酸素系: 脂質からエネルギーを産生する → 酸素を必要とするが、長くエネルギーを供給できる

 

ATP-PCr系からのエネルギー供給は素早いものの、供給量は糖質や脂質と比較するとごく少量です。よって、短時間運動のときに動員されますが、クレアチンリン酸の体内貯蔵量は少ないため、一瞬で無くなってしまいます。

 

解糖系は、糖質からエネルギーを産生する機構で、今回のテーマである乳酸産生に関わる代謝経路です。エネルギー供給機構として、解糖系がメインとなる競技の例としては、陸上競技の200から800m、スピードスケートの500から1500mのような、スピードと持久力が合わさった活動がイメージしやすいかもしれません。

 

一方で、持久系のスポーツ競技でも解糖系からのエネルギー供給が高まり、乳酸が作られることがあります。これは、有酸素系だけのエネルギー供給では間に合わず、代謝回転の早い解糖系からのエネルギー供給を増やしている、ということになります。マラソンにおけるラストスパートがイメージしやすいでしょう。

 

以前は、解糖系からのエネルギー供給を有酸素系の対義語のような形で、無酸素系や無酸素性代謝と呼びました (現在もそのように書かれることはある) 。しかし、体内が無酸素になることはありえず解糖系は酸素の有無に関わらず動くので、無酸素系や無酸素性代謝というような呼び方は誤解を招くため、ふさわしくないと思われます。

今回のコラムでは、解糖系 (乳酸系ということもある) を用いてお話をしております。

 

図2に運動強度とエネルギー供給の模式図を示しました。図2をみるとわかるように、ヒトは運動強度に合わせて、エネルギー供給の質、つまり、糖質と脂質の利用の仕方が変化します (たんぱく質からもエネルギー供給されますが、ここでは一旦おいておきます)。

さらに、運動中は、1つだけのエネルギー供給源で活動しているわけではないということを理解してもらえると良いでしょう。

 

[乳酸性作業閾値] 運動を低強度から高強度に徐々に上げた時に、乳酸を測定して変化を見ると、低強度では乳酸の生産量と利用量が同等なので大きな変化はしません。

運動の強度が上がると、乳酸は上昇し始めます。この時、顕著に上昇する部分 (下図の矢印部分) を乳酸性作業閾値と呼びます。

乳酸は糖 (ブドウ糖) からエネルギーを産生するときに作られる

乳酸は、ブドウ糖を分解するときにできる有機化合物の1種です (図1)。日常生活においても乳酸は産生されていますが、産生量と処理 (利用) 量のバランスが取れているため、見かけ上、血中濃度は上昇しません (図3の最初のポイント)。

 

では、運動時、特に高強度運動を行ったときに、なぜ乳酸がたくさん作られるのでしょう?

 

図4に乳酸が作られる模式図を示しました。

通常 (図4左) であれば、解糖系とクエン酸回路の代謝回転はバランスが取れており、産生されたピルビン酸の量に応じて、クエン酸回路が代謝してくれます。

 

一方、高強度運動のように急激にエネルギーをたくさん必要な状況 (図4右) になると、解糖系の代謝回転が高まり、ピルビン酸を多量に産生していきます (コントロールされていない)。しかし、クエン酸回路は、解糖系のように急激に代謝回転が上がりません。したがって、解糖系とクエン酸回路の代謝回転の差が生まれ、ピルビン酸が余っていきます。

★クエン酸回路は、ミトコンドリアという細胞内にある小器官内に存在し、代謝量がコントロールされています

 

余ったピルビン酸はエネルギーのもとですので、どうにか利用したいのですが、クエン酸回路には入れない。そこで、乳酸を産生することになります。

ピルビン酸から乳酸を産生することによって、エネルギーを速やかに得ることができます

 

しかし、乳酸を産生して得られるエネルギー量は少量です。したがって、余っているピルビン酸を大量に消費してエネルギーを産生していくこととなり、結果として乳酸が大量に産生されることとなります。

 

乳酸は、老廃物ではなく、エネルギーを作るときにできる中間物質であり、エネルギー源となる物質であることがわかります。

 

それでは、大量に作られた乳酸は、体内でどのように利用されていくのでしょうか?

 

乳酸はエネルギー源として利用される

乳酸は、解糖系で大量に産生されたピルビン酸をもとにして、速やかにエネルギーを得るために作られることが理解できたのではないでしょうか。では、大量に作られた乳酸がどのように利用されていくのかを考えましょう。

 

作られた乳酸がどこで利用されるのかを図5に示しました。

まず、骨格筋には、速筋と遅筋の2種類 (正確には3種類: 速筋が2つに分けられる) があります。

 

速筋 (白色): 収縮スピードが速い。瞬時に大きな力を発揮できる。収縮を保ちにくく披露しやすい。解糖能力が高い (糖を分解する能力が高い)。

 

遅筋 (赤色): 収縮スピードが遅い。瞬時に大きな力を発揮できない。繰り返し収縮しても疲労しづらい。酸化能力が高い (酸素を使ったエネルギー産生能力が高い)

 

乳酸は、主に骨格筋で産生されます。骨格筋のなかでも、解糖能力が高い速筋線維で乳酸が産生されます。産生された乳酸は、血液に乗って酸化能力が高い遅筋線維にたどり着き、乳酸をピルビン酸に変換してエネルギーを作り出します。

 

つまり、乳酸は、速筋線維で産生され、遅筋線維で利用されるという流れとなります。

★重要なことは、エネルギー産生の場となるミトコンドリアの量で、速筋にはミトコンドリアが少なく、遅筋には多いというのが重要です。

 

いわゆる、「乳酸がたまる」という現象は、「産生量>使用量」となったときに生じる現象です。運動を中止すると、産生量が減り、使用量が増えるため、増加した乳酸が通常の値 (血中濃度はおおよそ1.2mmol/L前後) に戻っていくことになります。

 

運動によって産生された乳酸は、一時的に高値となりますが、エネルギーとして利用されるため、長くとも1時間以内には通常の値に低下します。

よって、疾患等がない限り「乳酸が高値の状態のまま」になることはありません。

(疾患により乳酸が高値のままになることはあります)

 

乳酸と栄養素の摂取

ここまで、乳酸は、運動時の重要なエネルギー源であることを述べてきました。

 

次に、乳酸を速やかにエネルギーを変えるために、栄養学的な対策ができるのか?について着目してみたいと思います。

 

糖質のエネルギー代謝には、ビタミンB群が関わっています。特に、ビタミンB1はブドウ糖をピルビン酸に変換するための補酵素として重要な働きをします。また、ビタミンB2は、ミトコンドリア内でピルビン酸からエネルギーの元を作り出すときの補酵素として働きます。

さらに、ナイアシンは、ピルビン酸⇔乳酸の代謝に関わっています。

 

ビタミンB群の不足によって、糖質からのネルギー産生の効率が下がることは明らかになっています。しかし、ビタミンB群を多量に摂取することによって、乳酸の代謝が高まる、という知見は得られていません。

 

つまり、ビタミンB群、特に糖代謝、乳酸代謝に関わるナイアシンやビタミンB1、B2をサプリメント等で多量に摂取しても、乳酸からのエネルギー産生効率を上げることは期待できないと考えられます。

 

しかし、先程も述べたように、ビタミンB群が不足しているとエネルギー代謝効率は低下する可能性が高いので、不足するリスクがある場合には、食事やサプリメントから摂取することは有効に働くでしょう。

 

特別なことをする前に、日常の食事をしっかり取ることが重要です。

疲労の原因はなにか?

さいごに、乳酸が運動時の疲労の主因でないのならば、なにが疲労の原因なのでしょうか?

 

運動時の疲労の原因は、なにか一つだけで説明することができず、複合的な要因である、というのが適切な理解であると思います。

 

[疲労の原因として考えられるもの]

  • 脱水 (耐水分の減少)
  • 筋のカリウムの流出
  • リン酸の蓄積 (筋収縮に必要なカルシウムとくっつく: リン酸カルシウムの産生)
  • 活性酸素の多量発生
  • 体温の過剰上昇
  • グリコーゲンの低下
  • 血糖値の低下
  • エネルギー産生の低下   など

 

これらも含めて、様々な要因が複雑に発生し、疲労すると考えることが適切であると考えられます。

以前は、発生した乳酸によって、筋内のpHが極度に低下し疲労 (筋が動かなくなる) を引き起こすと考えられていました。しかし、乳酸が多量に発生したとしても、筋内のpHはある程度一定範囲に保つように調整 (ホメオスタシス、恒常性) されるため、疲労を引き起こすと考えられるほどの低下は発生しないと考えられます。

 

繰り返しになりますが、運動時の疲労の原因は、上記の様々な要因によって引き起こされると言って良いでしょう。

 

まとめ

乳酸は、1780年にスウェーデンの化学者が牛乳の発酵飲料の中から発見したそうです。その後、1800年初頭に筋中に乳酸に似た物質があることが発見 (このときには乳酸と断定されていない) され、約70年後に筋中にも乳酸があると証明されました。

 

乳酸と疲労の関係は、かなり昔から注目されており、2000年初頭まで「乳酸は疲労の原因だ」と思われてきました。

 

しかし、2004 年にAllen と Westerblad(筋疲労の研究分野の第一人者) によって、「Lactic acid : the latest performance-enhanced drug」というタイトルの論文がScience誌で発表されました。本論文は、乳酸に対するこれまでの考え方に異を唱えるような内容であり、栄 養太郎も読んだときには大きなインパクトがあり、乳酸に興味を持つきっかけになりました。

 

近年も、乳酸に関連する新しい知見が発表されており、体内における乳酸産生の重要性が様々明らかになっています。乳酸の歴史が変わっていくのを楽しく、そして興味深く観察しているところです。

 

「乳酸が溜まって足が動かなくなってきていますねぇ」という解説者のコメントにツッコめるようになると、スポーツの味方も変わるかもしれませんね (大げさ)。

 

参考文献

WEB

文献

  • 八田秀雄. 乳酸はエネルギー源で, 適応を起こすシグナルである. 日本スポーツ栄養研究誌, 2013, 6: 3-9.

    八田秀雄. 新たな乳酸の見方. 学術の動向, 2006, 11.10: 47-50.

    和田正信; 三島隆章; 山田崇史. 筋収縮における乳酸の役割. 体育学研究, 2006, 51.3: 229-239.

    末梢性疲労モデルから中枢性疲労モデルへの仮説の移行

    ALLEN, David; WESTERBLAD, Håkan. Lactic acid--the latest performance-enhancing drug. Science, 2004, 305.5687: 1112-1113.

    WEBSTER, Michael J. Physiological and performance responses to supplementation with thiamin and pantothenic acid derivatives. European journal of applied physiology and occupational physiology, 1998, 77: 486-491.

    若林秀夫. 乳酸. 有機合成化学協会誌, 1990, 48. 2: 164-166.

書籍

東京大学身体運動科学研究室: 身体運動・健康科学ベーシック, 2022, 東京大学出版会

ダン ベナードット (著), 寺田新 (訳), スポーツ栄養学ハンドブック, 2021, 東京大学出版会

八田秀雄: 乳酸をどう活かすかII, 2016, 杏林書院

八田秀雄: 乳酸 「運動」「疲労」「健康」との関係は? (からだワンテーマシリーズ), 2007, 講談社

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【著者紹介】栄 養太郎

管理栄養士、公認スポーツ栄養士。
専門分野は、スポーツ栄養、健康科学、学位 [博士 (学術)] 取得後、栄養系の大学教員になりました。
現在は、ジュニアアスリートを中心に、スポーツ栄養教育の実施と選手から得られたデータを評価・分析する研究を行っています。
スポーツ栄養に関する情報を様々な形で発信したいと思い、活動しています。