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長いこと自分のことを草食系だと思っていた。しかし、案外そうでもないようだ。親になって気づいたのだ。親が子を思う気持ちは肉食獣じみている。子どもたちには幸せになって欲しい。
その意味でも学力を気にしないわけにはいかない。学力はお金とよく似ているからだ。お金は人間を自由にする。お金がなくても牛丼は食べられるかもしれないが、お金があれば牛丼もステーキも食べられる。これと同じ図式は学力にも当てはまる。学力があれば、人生の選択肢がより広がって、より自由に生きることができる。
その意味でお金も学力もあるに越したことはない。しかしどうすれば学力を上げられるのだろうか? 今回の記事では、学力について脳科学的な観点から説明をしていきたい。
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学力というのは一体何で決まるのだろうか?まず思い浮かぶものに知能がある。確かに知能の効果は大きい。ある研究では、70,000人以上のイギリスに住む少年少女を対象に知能と成績の追跡研究を行っている。この研究の結果から、11歳の時の知能は16歳時点の学力と高く相関(相関係数0.8)することが示されている(Dearyら、2007)。
ちなみに相関係数というのは2つのデータの関係性を示すものである。この数字は1に近いほど似た関係であることを示している。実生活で相関係数0.8に近いものとしては「体重と身長」がある。つまり「知能と学力」は、身長と体重くらい密接な関係があるということになる。
しかし身長が高くても痩せている人もいるように、知能と学力の関係も決してイコールではない。他にはどのような要因があるのだろうか。
ペンシルベニア大学の心理学教授ダックワースは、自己規律性が知能以上に学力に影響を与えることを報告している(DuckworthとSeligman, 2005)。この研究では140名の中学2年生を対象に、自己規律性や知能がどの程度学力に影響するかについて調べている。結果によれば、驚くことに、知能よりも自己規律性が学力に影響することが示されている。たしかに「玉磨かざれば光なし」という言葉もある。持っている知能を活かす意味でも自己規律性が大事なのかもしれない。

学力には知能と自己規律性が影響する。では知能と自己規律性は変えられるのだろうか?
結論から言うと両方とも変えることができる。
知能については幼少期に十分な教育を与えることで向上することが知られている。しかしその効果は限定的である。ある研究では 7584名のデータを元に、幼児教育の効果がどの程度持続するかについて検討を行っている(Protzco, 2015)。結果を示すと幼児教育の効果は年令を重ねるごとに消えていくことが示されている。

Protzco, 2015, Figure 4.を参考に筆者作成
しかし就学年数そのものは知能を押し上げ、なおかつ生涯にわたって維持されることが知られている。ある研究では、400,000人のデータを解析して、就学期間がどの程度知能に影響するのかについて調べている。結果を示すと、知能が高い人も低い人も、就学期間が1年伸びることにIQが1-5ポイント増加し、それが生涯にわたって続くことが示されている(RitchieとTucker-Drob, 2018)。

RitchieとTucker-Drob, 2018 Figure 1.を参考に筆者作成、図はベースラインのIQで効果調整済のもの
つまり幼少期に重点的に教育することで知能は改善するが、その効果は徐々に薄れていく。しかし、就学期間が増えると、知能が改善し、生涯にわたりその効果が持続するということになる。こういった結果を見ると、本人にその気があるならできるだけ大学には行かせたほうがいいのかないいのかな、といった気分になってくる。
では学力に影響を与えるもう一つの要因である自己規律性は、どのようにして向上させられるのだろうか?
自己規律性理論の第一人者であるボーマイスターはその論文の中でいくつかの方法を紹介している(Baumeisterら、2006)。
まず一つ目は体を鍛えることである。例えば、大学生を対象にウェイトリフティング、レジスタンストレーニング、有酸素運動を2ヶ月間にわたって行わせた実験では、運動をすることで自己規律性が全般的に向上し、学習時間が増えること(Oaten とCheng、2004)が報告されている。

Oaten とCheng、2004、Figure 6.を参考に筆者作成
またお金の管理を通じて自己規律性が高まることが報告されている。例えば、大学生を対象にお金の管理プログラム(家計目標の設定や家計簿の記帳など)を4ヶ月行うことで自己規律性が高まることが分かっている。具体的にはこのプログラムに参加することで、学習習慣が改善しただけでなく、タバコやコーヒー、アルコールの摂取量が大幅に低下することが報告されている(Oatenと Cheng, 2007)。
更に、計画的に勉強することでも自己規律性が高まることが分かっている(Oatenと Cheng, 2006)。大学生を対象にした実験では、学習プログラム(学習目的と学習計画の設定、学習記録の提出、課題締切の前倒しなど)を行わせることで、生活全般にわたって自己規律性が高まることが報告されている。
このように、よく運動をして、お金や勉強の自己管理を促進することで、自己規律性は高められるようである。
知能や自己規律性を高める取り組みで脳が変化することも報告されている。
ある研究ではワーキングメモリ課題を繰り返し行うことで知能が高まることをが報告されている(Jaeggiら、2008)。ちなみワーキングメモリというのは、一時的に情報を保持する記憶で、電話をかける時にも必要とされるものである。小学生がよくやる百ます計算も、ある意味ワーキングメモリ課題といえるかもしれない。

Jaeggiら、2008、Fig 3.を参考に筆者作成
ではなぜワーキングメモリ課題で知能が上がるのだろうか。この研究では、ワーキングメモリ課題では知能に関連する神経回路が使われるためだと考えられている。具体的には、脳全体の指揮を取る前頭前野と感覚情報が集約される頭頂葉外側のつながりが、課題を行うことで強化され、知能が向上するとされている。

また自己規律性に関連する脳領域としては右下前頭回と呼ばれるものがある。衝動的な行動を抑える認知課題でこの脳領域を鍛え、小児の抑制機能を高めようとする取り組みが行われている(Berkmanら、2012)。
Anatomography, CC BY-SA 2.1 JP , ウィキメディア・コモンズ経由で
なお、一人称的な視点でのシューティングゲームを日常的に行っている子供は抑制機能が高いことも報告されている(Colzatoら、2010)。案外そういうこともあるかもしれないが、ゲームの依存性を考えると、私自身としては、この取組みはやや怖い気もする。

ではここまでの内容をまとめてみよう。
・知能と自己規律性が学力に影響を与える。
・知能と自己規律性は教育や訓練で向上させることが出来る。
・知能には前頭前野と頭頂葉、自己規律性には右下前頭回が関連している。
このように学力は工夫次第で伸ばすことができる。とはいえ、私たちは生身の人間であり、そこには当然限界もある。また、学力があれば、必ずしも幸せになれるわけでもない。親バカという言葉もあるように、親が子供のことを考えるときには思考能力は低下し、考え方も短絡的になりがちである。子供の幸せとはなんだろうか。そもそも幸せとはなんだろうか。知能と自己規律性が必要なのは私かもしれない。立ち止まって考えるためには、この2つが必要なのだから。
【参考文献】