高齢者の感情の特徴の背景にある神経基盤(1月12日 Nature Aging オンライン掲載論文)

2023.02.03

歳をとると涙脆くなるという人もいるし、逆に鈍感になるという人もいる。ただ、うつ状態が広がっているという話を聞くと、ここでも紹介してきた何もしない時に活動し、自分自身に向いた思考を支えるdefault mode networkが老化と共に変化する可能性は高い。


今日紹介するジュネーブ大学からの論文は、人が辛い思いをしているビデオ、あるいは毎日の普通の生活のビデオを見た時の感情と、そしてそれをみた後の脳の活動を機能的MRIで調べ、若者と高齢者を比較した研究で、1月12日 Nature Aging にオンライン掲載された。


タイトルは「Exposure to negative socio-emotional events induces sustained alteration of resting-state brain networks in older adults(ネガティブな感情的出来事は高齢者特異的に見終わった後も安静状態の変化を誘導する)」だ。


まず、自己申告形式で高齢による様々な変化を調べてみると、感情の起伏が少しではあるが低下しているが、多様な見方ができなくなっているという結果だ。


次に、やはり自己申告形式で、ビデオに対する気持ちを聞くと、一見、若者と比べた時の変化は素人には大きくないように見える。ただ、いろいろ調べると、ビデオに対する共感とネガティブな気持ちがほとんど連関しない。


言い換えると、ネガティブな感情に鈍感といえる。


この変化の脳科学的背景を調べるため、社会性認知に関わる後帯状皮質および前頭前皮質、そして感情に関わる扁桃体や島皮質の活動を調べると、年齢を問わず、深い共感とネガティブな感情に襲われた時、感情に関わる扁桃/島皮質と、後帯状皮質/前頭前野の活動が連動するようになる。


ただ、感情領域自体の活動はビデオでは特に変化するわけではない。


同じビデオに、高齢者も心を動かされるというわけだが、ではなぜ高齢者でネガティブ感情が強くならないのか。


一つは、高齢者は強い共感を呼ぶビデオに対して、感情に関わる領域の反応は若者と比べて低く、逆に社会性に関わる領域の活動他高い。


さらに重要なのは、このネットワークの結合反応がビデオを見終わった後も高齢者で長く続くことで、これにより感情の時間的起伏が抑えられることになる。まさに、emotional inertia として知られる、感情変化への抵抗性が高齢者に存在することがわかる。


この結果は、ネガティブ感情を強く抱かないという自己申告結果と一致している。


以上が結果で、自分に当てはめると当たることも当たらないこともあるが、このような脳科学的知見をベースに、もう一度それぞれの感情状態を調べることは重要だと思う。


老人はキレやすいのか、キレにくいのか?この研究ではキレにくいということになるのだろう。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。