腸内細菌叢からの短鎖脂肪酸はアルツハイマー病を促進する(1月13日号 Science 掲載論文)

2023.01.24

どんな病気も詳しく調べてみれば、腸内細菌叢によって何らかの修飾を受けることが示されてきたが、アルツハイマー病も例外ではない。ただ、メカに済みについては、腸での変化が神経炎症を高めるといったレベル以上に明らかではなかった。


今日紹介するワシントン大学からの論文は、Tau による神経変性が促進される突然変異が起こったヒトTau遺伝子と、アルツハイマー病(AD)のリスクを高める APOE4遺伝子を導入したマウスを用いて、腸内細菌叢が明らかにTau異常を促進することを示した研究で、1月13日号 Science に掲載された。


タイトルは「ApoE isoform– and microbiota-dependent progression of neurodegeneration in a mouse model of tauopathy(ApoEアイソフォームと細菌叢により Tau異常症モデルマウスの神経変性が進む)」だ。


この研究のハイライトは、変異型 Tau+ApoE4 という最強の組み合わせを持ったマウスの神経変性でも、無菌マウスでは完全ではないにしても、進行が遅れ、さらにこれと対応して、異常Tau の指標であるリン酸化Tau の量が低下することを示したことだ。


さらに、無菌マウスでの神経変性改善効果は、マウスの細菌叢移植により元に戻る。以上の結果から、一般的なマウス細菌叢が Tau異常症を促進していることが明らかになった。実際、写真で示された海馬萎縮を抑える効果は絶大と言えるほどの効果だ。


次に、この効果が神経炎症促進の結果かどうかを調べ、アストロサイトやミクログリアの活性化が無菌化によりつよく抑えられることを示している。


異常のことから、APOE4 は、例えば脳血管異常等を介して Tau異常症を促進するが、これに腸で細菌叢により変化した免疫システムが、脳内神経炎症を悪化させる原因として働く可能性を示している。


ただ、腸内での免疫系の解析は詳しく行われていない。


無菌的に生きるというのは臨床的に難しいので、次に成長期に短期間抗生物質を投与し、腸内細菌叢を変化させたときに AD 進行を遅らせられないか調べている。結論的には無菌マウスと同じ効果はない。


ただ、なぜカオスマウスでTau異常症を少し抑える効果は認められる。


とすると、より詳しく細菌叢を操作して、AD を抑える腸内細菌叢が実現できればいいことになる。その結果、腸内細菌叢の中で短鎖脂肪酸を合成する系統を抑えることで、AD の進行が抑えられることがわかった。


これを確かめるために、3種類の短鎖脂肪酸をマウスに摂取させると、グリア増殖とリン酸化 Tau の増加による海馬の萎縮が進むことがわかった。


以上が結果で、腸内細菌叢が神経炎症を高めて Tau 異常症、AD を進行させるという話は、特に驚きはない。しかし、一般的に代謝の改善にいいとされ、多くの食品メーカーが良い菌叢の指標として宣伝している短鎖脂肪酸が、AD の進行を促進することになると、これは大変だ。


もしこの結論が正しいとすると、短鎖脂肪酸の元になる食物繊維は危険という話になってしまう。


このように、細菌叢の研究は複雑で難しいことを知ると、間違っても「善玉菌」とか「悪玉菌」のような言葉を使うことを戒めていく必要があることを痛感する。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。