肝星細胞と肝臓ガンの進展(10月5日Natureオンライン掲載論文)

2022.10.21

先日紹介した膵臓ガンは、ガンに対する間質反応によりガンの微小環境が変化させられ、この反応によりガンの周りに集まった線維芽細胞から細胞外マトリックスやサイトカインが提供され、ガンの悪性度が増していくタイプだ。


これに対し、最初に組織の線維化が起こり、これが発ガンを促進するタイプの代表例が肝臓ガンだ。勿論、発ガン後も間質との関係は続くが、発ガン前と後では、相互作用のあり方も異なる可能性がある。


今日紹介するコロンビア大学からの論文は肝臓の線維化の鍵を握る細胞と考えられているStellate Cell(星細胞、発見者の名前をとって伊東細胞とも呼ばれる)が肝臓ガン発生過程への関与のメカニズムを明らかにした研究で、これまでほとんど知識が不足していた星細胞についてしっかりとしたイメージを形成することが出来た。


タイトルは「Opposing roles of hepatic stellate cell subpopulations in hepatocarcinogenesis(肝臓星細胞は肝細胞ガン発生過程の細胞サブポピュレーションに相反する作用を示す)」で、10月5日Natureにオンライン掲載された。


様々な組織特異的遺伝子改変法を駆使して、星細胞の活性を操作し、様々な方法で誘導する肝臓ガンに対する影響を詳しく調べた膨大な研究だ。


まず、星細胞特異的活性化シグナル、あるいは活性化抑制シグナルを遺伝子導入したマウスで、星細胞の活性化が発ガン過程を促進することを確認し、さらに星細胞自体を除去して、発ガンを促進しているのが星細胞自身であることを明らかにしている。


後は、星細胞が発ガンを促進するメカニズムを探索しており、結果をまとめると次のようになる。

  1. 星細胞は肝臓細胞増殖因子HGFを発現するサイトカイン型(cHSC)と、1型コラーゲンを発現する筋繊維型(myHSC)に分けることが出来る。

  2. cHSCはHSCを通して正常肝細胞を守る一方、myHSCはコラーゲンを分泌して、組織の硬度を高め、肝細胞でTAZの核内移行を促進し、増殖を誘導する。

  3. 脂肪肝など様々な変化により、星細胞のcHSC/myHCSバランスが変化することで、発ガン前の肝細胞の増殖が促進され、これを繰り返して発ガンする。

  4. 肝臓ガンの場合、発ガン後、myHSCはガン細胞の中に浸潤することは少ない。逆に、胆管ガンなどではmyHSCがガンの中に浸潤する。10月7日に紹介した、切断されたコラーゲンによるガンの増殖機構と同じ機構が肝臓ガンでも働いており、メタロプロテアーゼの発現が高いガンの予後は悪い。

    しかし、切断されたコラーゲンとその受容体DDR1は、成立後のガン細胞に効果があり、発ガン過程にはほとんど関与しない。

  5. 以上の結果から、肝臓ガンの発ガン過程は、脂肪肝などにより、cHSC/myHSCバランスが崩れmyHSC優位の環境が出来ると、コラーゲンが分泌され、これがHippoシグナル系を介して、TAZの核内移行を促し、増殖にスイッチを入れ、発ガンを促進する。

    発ガンが完成すると、今度はメタロプロテアーゼによりコラーゲンが分解され、DDR1シグナルを介して、ガン細胞の増殖をさらに促進する。一方、完成したガン細胞ではTAZの核内移行が見られないため、組織の硬化を感知するHippo経路は動いていない。


以上が結果で、星細胞の機能を、発ガン過程からガン成立後までにわたって、よく理解できる結果だ。


さらに、正常状態ではHGFが肝臓の増殖より、肝臓を守る働きをしていることも見事に示されており、大変勉強になった。


肝臓ガンに興味のある人には一読を勧める。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。