漆インタフェース:電子回路を組込んだ漆による優しい手触りのIoTシステム

2022.09.09 By 筑波大学

電気・電子工学

技術概要

漆の電気絶縁性をレジスト材として利用した積層回路。優れた耐性による電子回路の強化、安心安全ンで心地よい手触り、積極的に魅せる回路。

用途・応用

電子回路埋め込み食器や医療機器

背景

 従来、一般的に、各種の製品及びその製造技術については、コスト、耐久性等の優位さが追求されてきたが、これらに加わって、近年、特に、デザイン性、環境負荷の軽減、人への優しさ、安全性の向上等の要請が高まっている。

 環境負荷の軽減に関しては、例えば、各種の電子製品に組み込まれている回路構造体についてみると、従来は、その製造工程において、エッチング等において使用する各種の薬品、化学剤の後処理等、環境に対する負荷が高い。

 このような負荷を軽減するために、回路構造体の製造において、レーザーを用い、その構成要素である、例えば、絶縁材等の切断、孔開け等、基板を直接加工する技術が登場し(特許文献1、2、3参照)、製造による環境負荷は低下しつつある。

 また、人への優しさ、安全性の向上に関しては、例えば、近年の電子デバイスの分野で、 主 に 人 ヘ ル ス ケ ア 等 の Q O L ( Quality of Life、 生 活 の 質 ) の 向 上 を 目 的 と し た 、 肌と の 接 触 時 間 が 非 常 に 長 い ウ ェ ア ラ ブ ル 機 器 ( W earable機 器 : 身 に つ け て 持 ち 歩 く 機 器 )が近年急激に広まっている。

 例えば、人の手首につけて、ジョギング、ウォーキング、ダンス、あるいは日々の生活等で消費するカロリーを計測できるアームリストが知られている(特許文献4参照)。

さらに、口部という最もデリケートな部分に焦点を当てた試みも増加している。例えば、味覚器に電気刺激を与えて電気味覚を呼び起こすという原理に基づき、その手段としてフォークや箸に電極を付して、水分を含む食物に電気を流して食べるという考えも知られて い る ( 非 特 許 文 献 2 参 照 ) 。

 また、家庭内には人とコミュニケーションを行うロボットが入り込み、機械が人と密接に触れ合う機械が劇的に増加している。これらのデバイスでは、人の汗等の水分や衝撃等の過酷な環境に耐え、人に対する衛生面やアレルギー等に対して極め安全であることが必要となる。

 そのために、従来は、このような製品が出てもプロトタイプに留まっているか、デザインや使用可能な素材、その用途が大幅に限られている。以上のような観点から、各種の素材の開発は当然のこととして、既知の素材についても新たな加工技術、利用技術を開発していくことは、きわめて重要なことである。

 と こ ろ で 、 漆 芸 は 日 本 独 特 の 装 飾 美 を 持 ち 、 世 界 か ら 「 Japan」 と 呼 ば れ る 等 、 日 本 を代表する伝統工芸である。漆器に使用されている漆は、塗料として、耐薬性、防水防腐性、抗菌性、堅牢性等の耐性において、非常に優れた特性を持ちあわせており、人や環境に対して優しい無公害の天然樹脂塗料である。こうした特色から、古くから食器等の日用品から家具、船舶、建築等に至るまで広範囲に用いられてきた。

 そして、漆については、「漆の主成分であるウルシオールはベンゼン環や複数の二重結合を持つため,紫外線が当たるとα水素が励起され,酸化を受けやすい。漆塗膜中のウルシオール成分は紫外線を受けると次第に分解して低分子化し,炭酸ガス,低分子有機酸等に変化して大気中に揮散する。漆のその他の成分はビヒクル成分であるウルシオールがなくなると,雨等によって流されるので,漆塗膜は表面から劣化していき,だんだん膜厚が薄くなっていく。これが漆塗膜の劣化の機構である」という点が知られている(非特許文献3、4参照)。

 なお、漆塗膜上に導電体でパタンを形成し、それをタッチセンサとして用いるアート作品は知られている(非特許文献5参照)。ただし、本作品は漆塗膜自身に対する加工は行っておらず、漆を装飾用塗料として用いているにすぎない。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平07-030212号公報
【特許文献2】特開2001-237524号公報
【特許文献3】特開2005-197273号公報
【特許文献4】特開2013-140158号公報
【非特許文献】

【 非 特 許 文 献 1 】 Nike, Inc., “NIKE+FUELBANDhttp://www.nike.com/us/en̲us/c/nikeplu
s‑fuelband”
【非特許文献2】中村、宮下、「電気味覚を活用した味覚の増幅と拡張」、インストラク
シ ョ ン 2011, pp.461‑ 464, 2011.
【 非 特 許 文 献 3 】 江 頭 俊 郎 、 梶 井 紀 孝 、 「 屋 外 用 漆 塗 膜 に 関 す る 研 究 」 、 www.irii.jp/th
eme/h18/pdf/study14.pdf
【 非 特 許 文 献 4 】 佐 藤 弘 三 、 漆 膜 の 劣 化 原 因 、 塗 料 物 性 工 学 、 p.225‑228
【 非 特 許 文 献 5 】 http://yurisuzuki.com/works/urushi‑musical‑interface/

課題

 上記レーザーを用い基板を直接加工する従来の技術は、確かに製造による環境負荷は低下させる。しかしながら、このような技術は、出力の大きなレーザーが必要であり、そのため、経済的に好ましくはないだけでなく、レーザーを基板に照射した際に生じる熱で、基板及び基板に設けた部品等を物理的に変形、変質させる懸念もある。

 即ち、レーザーを用い基板を直接加工する技術では、強力なレーザーによる高出カエネルギーによる基板の物理的な破壊を行っているため、加工に伴って生じる熱により、基板や基板に設けた部品の変形等、信頼性が損なわれる危険性が存在する。

 漆は、その表面は美しく、上記のとおり非常に優れた特性を持ちあわせており、人や環境に対して優しい無公害の天然樹脂塗料である。しかしながら、漆塗膜に所定のパターンやデザインを付与すること(非特許文献5参照)は、重ね塗り等の面倒な技術を必要とし、また蒔絵の製作工程等からみても、きわめて面倒な芸術的技能を要する。漆塗膜にシルクスクリーンで模様を印刷することは可能であり、蒔絵に比較すると容易であるが、蒔絵のような繊細さを出すのは難しい。

 本発明は、各種の耐性及び電気絶縁性を有し、人や環境に対して無害でやさしい特性を有する漆を、漆工芸の分野において一層活かすことはもちろんのこと、先端技術と融合させて新たな産業を創出することを目的とするものである。

 そのために、本発明は、紫外線によって、従来技術と比較して小さな出力で紫外線を照射することで加工でき、照射される部材及び照射対象部分以外に、熱による変形や変質等の悪影響が与えない漆塗膜の 加 工 方 法 を 実 現 す る ことを課題とする。

手段

 本発明は上記課題を解決するために、漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する漆塗膜の加工方法であって、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜に、前記パターンを形成することを特徴とする漆塗膜の加工方法を提供する。

 本発明は上記課題を解決するために、漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する漆塗膜の加工方法であって、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜に、前記パターンを形成し、前記パターン内に配線を装填し、絶縁材である漆塗膜に付加して、前記配線に接続された又は前記配線を構成要素として有する電子回路を実装することを特徴とする漆塗膜の加工方法を提供する。

 漆塗膜として、第1漆塗膜を形成し、第1漆塗膜の上に電子回路を形成し、第1漆塗膜及び電子回路の上に第2漆塗膜を形成し、第2漆塗膜に前記パターンを形成し、該パターン内に配線を装填して、前記電子回路と、第2漆塗膜の上に形成される別の電子回路とを電気的に接続し、絶縁材である漆塗膜に付加して電子回路を実装するようにすることが好ましい。

 漆塗膜として、第1漆塗膜を形成し、第1漆塗膜に前記パターンを形成し、該パターン内に配線を装填し電子回路を形成し、第1漆塗膜及び電子回路層の上に第2漆塗膜を塗布し、絶縁材である漆塗膜に付加して電子回路を実装するようにすることが好ましい。

 前記電子回路と前記漆塗膜は、回路構造体を構成する構成としてもよい。

 本発明は上記課題を解決するために、漆塗膜に、該漆塗膜の一部が除去されて成る所定のパターンを形成する漆塗膜の加工方法であって、漆塗膜の表面に紫外線を照射することにより、漆の主成分であるウルシオールを分解して除去し、漆塗膜に、前記パターンを形成し、前記パターンは、漆塗膜を備えた製品の外観の装飾デザインとなることを特徴とする漆塗膜の加工方法を提供する。

 前記パターンとして、凹部及び孔、又は凹部若しくは孔を形成するようにしてもよい。

効果

 本発明によれば次のような顕著な効果が生じる。
(1)本発明において漆塗膜を加工する方法は、従来のレーザーによる加工方法とは根本的に異なり、熱による分解ではなく、紫外線により漆の主成分であるウルシオールの化学反応による分解を利用する。従って、照射する紫外線の出力(エネルギー密度)は、従来のレーザー加工技術に比べて、比較的少なくてよい。そのため、熱による、照射部分以外への熱による変形、変質、損傷等の悪影響を低減することが可能となる。

(2)漆の有する耐薬性、防水防腐性、抗菌性、堅牢性、電気絶縁性等、耐性に優れた特性によって、漆を用いた機器等の信頼性、安定性、安全性、人や環境に対する優しさを向上することができる。

 特に、漆塗膜は、1回塗りの薄さの限界である5μm程度の薄さでも、電気絶縁性を発
揮するので、電子機器の絶縁材等に使用すると、機器全体の小型軽量化に寄与する。また、漆は各種の耐性にすぐれ、特に抗菌性を有し、人が身につける各種のウェアラブル機器に適用すれば、その工芸的な美に加えて、人にも優しいという効果を発揮する。

(3)漆は、ほぼすべての素材に塗布可能であり、従来からの伝統工芸に欠かせない素材であり、このような漆と電子デバイスを組み合わせることで、伝統工芸にハイテクを融合した新たな産業分野を創出することができる。

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特許情報

特許6308493 号

JPB 006308493-000000