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アカデミスト株式会社は2021年9月1日、若手研究者を対象とした月額支援型クラウドファンディングのプロジェクト「academist Prize」を開始しました。アズワン株式会社は日本の未来を支える若手研究者を応援したいという思いに共感し、今回のプロジェクトにスポンサーとして参画しております。
「academist Prize」に採択された若手研究者の研究内容や研究に対する思いなどをインタビューしましたのでその内容をお届けします。
今回は海洋微生物が作るカロテノイドで生活習慣病の予防を目指されている高谷さんの研究のお話を伺いました。
CONTENTS
カロテノイドは自然界に広く存在する色素成分で、植物や微生物によって作られます。
一方、我々ヒトをはじめとする動物はカロテノイドを自ら作ることができませんが、食物から容易に摂取されます。体内に吸収されたカロテノイドは酸化や還元など様々な代謝変換を受け、体の健康を維持するために必要な栄養素として働きます。
例えば、ニンジンなど多くの野菜や果物に豊富なβ-カロテンと呼ばれるカロテノイドは、生体内でビタミンAへと変換されます。また、エビやカニ、微細藻類などに含まれる赤色カロテノイドであるアスタキサンチンは、強い抗酸化作用を持つことが知られています。
近年の研究から、ある種のカロテノイドは“抗炎症活性”を発揮して、生活習慣病の予防・改善に効果を示す可能性が明らかになってきています。糖尿病をはじめとする生活習慣病は世界的に増加の一途をたどっており、国際糖尿病連合(2019)によると、糖尿病患者は2050年には7億人に達するとされ、その予防・改善が喫緊の課題となっています。
一方、世界保健機関(WHO)によると、生活習慣病に起因する糖尿病、がんや心血管疾患などの非感染性疾患(NCDs)が世界の死因の70%以上を占め、この低減を持続可能な開発目標(SDGs)3.4に据えています。
近年、このようなNCDsを引き起こす生活習慣病の背景に、「慢性炎症」が潜むことが明らかになってきました。慢性炎症とは、臓器において低レベルの炎症が長年にわたり持続している状態で、このくすぶるような炎症が細胞死や細胞損傷を誘発し、最終的に臓器機能が損なわれると考えられています。
そこで、慢性炎症を抑制する化合物として、“抗炎症活性”をもつカロテノイドが有効ではないかと考え、より優れた活性を示すカロテノイドを自然界から探し出すことを通して、将来的に生活習慣病の予防・改善に貢献したいと考えています。
海洋微生物からの生理活性カロテノイドの探索を行っています。海洋微生物は量や種類が非常に多く、ある調査では海洋バイオマスの90%以上を占めると推定されています。
また、海洋微生物は多様な構造のカロテノイドを作ることが知られています。したがって、海洋微生物の種多様性とそれらが作るカロテノイドの構造多様性を勘案すると、海洋には膨大なカロテノイドが存在すると予想されます。
そして、カロテノイドの生理活性はその分子構造に依存するため、ユニークかつ多様な構造のカロテノイドを作る海洋微生物はまさに、「生理活性カロテノイドの宝庫」といえます。
現在、北海道から沖縄に至る様々な海域で採取した海藻や海水などの海洋サンプルから、海洋微生物を分離・培養しています。微生物から抽出した色素成分について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析(MS)、核磁気共鳴分光分析(NMR)により、カロテノイドの分子構造解析を進めます。
このような方法で、海洋微生物から2’-isopentenylsaproxanthinを世界に先駆けて同定するとともに、抗炎症活性や抗酸化活性を持つことを明らかにしました。さらなる生理活性カロテノイドを求めて、海洋微生物からのカロテノイドの抽出ならびに細胞試験によるスクリーニングを実施しています。
生活習慣病を「かつて」の病に! が本研究の目指す究極のゴールです。
そのゴールを実現するため、生活習慣病の発症背景にある慢性炎症に対して、より強い抑制活性を示すカロテノイドを海洋微生物から発掘したいと考えています。
海洋微生物を使うメリットとして、陸上生物には見られないユニークな分子構造のカロテノイドを作ることに加えて、培養が簡便で増殖が速いという点が挙げられます。また、ゲノムサイズが小さく遺伝子の解析が比較的容易で、生合成遺伝子を同定しやすいという特長があります。有用カロテノイドの生合成に関わる遺伝子が特定できれば、メタボリックエンジニアリング(代謝工学)を通して、カロテノイド大量生産系への展開の可能性も期待できます。
新たに見出されたカロテノイドについては、慢性炎症に深く関係する免疫細胞に対する抗炎症活性を評価するとともに、有望なものについては肥満や糖尿病モデル動物を使った作用評価試験に移行します。これらの試験で好成績を収めたカロテノイドは、最終的に生活習慣病の予防・改善に繋がる機能性食品や医薬品開発に向けた応用研究へと発展していきます。これらを通して、将来的には生活習慣病が過去のものとなり、QOL(生活の質)の高い社会の創出に貢献したいと思っています。
生理活性カロテノイドを海洋微生物から発掘するためには、たくさんの海洋サンプルが必要になりますが、昨今の感染症拡大を受けてサンプリングが滞っている現状が挙げられます。
幸いにも、在籍している函館キャンパスからは歩いて数分で海に行くことができるため、海水などを採取するなどして対応しています。また、キャンパス内では船に乗って海洋調査に出る研究者も多くいるので、その際にサンプリングをお願いするという手段もあります。
また、スクリーニングに係る各工程において、微生物培養培地や分析溶媒などの試薬類が大量に必要になる中で、限られた研究費をやり繰りするのも苦労の一つです。
理由の一つ目は、研究遂行に必要な費用を調達するためです。上述のように、カロテノイドの探索研究では、微生物培養培地やカロテノイド分析溶媒など消耗品が多く必要になります。その費用が足りないため、ご支援を頂きたく思います。
理由の二つ目は、研究者の芽である若い世代に向けて研究の魅力を発信したいためです。近年、博士課程学生が減少傾向にあると言われていますが、研究活動の発信を通して自然科学に関する問題提起や興味関心を引き出せればと思っています。また、時代が移り変わる中で、クラウドファンディングを含め研究費獲得手段も多様化しています。そこに柔軟に対応し発信することで、研究者を取り巻く環境の改善や支援の輪の拡大に少しでも繋がればと考えています。
先ずは安定した雇用を拡充することが重要と考えます。私も含め、おそらくほとんどの若手研究者の懸念点は、「食べていけるかどうか」ということと思います。特に、若手研究者は多くのライフイベントを経験する世代です。目まぐるしく変わる自身と周囲の環境の中で、しっかりと腰を据えて研究に専念するには生計の確保が何よりも重要です。この点については、研究機関のみならず、企業においても積極的な博士課程雇用の拡充を期待しています。
一方、研究を進める上で必要な研究資金の調達は、各種民間財団や科研費など国からの助成が主要な方法となりますが、アカデミアにおける若手研究者と企業との共同研究についてもこれまで以上に増えることを期待しています。産学の連携は両機関における研究者同士のネットワーク形成を通して、相乗的な技術発展をもたらすことが期待されます。
これらの即時実現には困難も多いと思いますが、若手研究者を「育てる」風土の醸成が挑戦と活躍を後押しし、ひいては日本の科学技術力の飛躍に繋がると確信しています。
いかがだったでしょうか?
海洋微生物が作る高活性カロテノイドの探索を行い、生活習慣病の予防への貢献を目指されている高谷さんの研究は非常に興味深いですね。海洋微生物のおかげで多くの人の命が救われる未来の実現に期待したいです!
高谷さんの研究を応援したい!という方はぜひアカデミストのサイトより支援をお願いいたします!
高谷さんのTwitterはこちら ⇒https://twitter.com/Takatani_N