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バイオ系研究所で働くテクニシャン(技術員)でありながら漫画家として活躍するAyaneアヤネさんによる「ラボりだな日々」(※ラボりだ…ラボから離脱すること。ラボから帰ることの意を持つ造語)。
第17回のテーマは「実験と匂い」です。
こんにちは!
ラボりだな日々、第17回のテーマは「実験と匂い」です。
研究と匂い、一見無関係に思えるかもしれませんが、実験現場では匂いもまた大切な「サイン」として働いています。今回の漫画では、午前中ずっとマウスのお世話をしていたAyaneが、体中にしみついたマウスのにおいに包まれながら、仕事をこなす様子を描いています。本人は「まあそのうち取れるやろ」と楽観的ですが、染みついた匂いは案外長く残り、作業するたび、動くたびにマウスたちの存在を感じる1日になってしまいました。
(ヘビーに実験動物のお世話をする業者様などはシャワーを浴びて帰るケースもあります)
さて、今回はそんな「実験と匂い」について、少し掘り下げてみましょう。
バイオ系研究の実験現場はクリーンで無臭なイメージを持っているという方もいらっしゃるのですが、実際は使用する試薬やサンプル、作業によってさまざまな匂いが発生します。生体サンプルを扱うときの独特のにおい、試薬や培地のにおい……ウェスタンブロットのサンプルに使用するメルカプトエタノールのような時には思わず顔をしかめるようなものまで。
匂いは「異常」のセンサーでもある
実験室では、匂いが「何かがおかしい」ことを知らせる貴重な手がかりになることがあります。例えば、乾熱滅菌装置やオートクレーブの中で何か異常が起こると強烈な焦げ臭さが発生します。匂いで異常に気づき、装置に被害が及ぶ前に対処できたこともあります。(中の物品は焦げて廃棄するしかありませんでしたが……)
エタノールなど、揮発性の試薬を使っているときにツンとしたにおいを感じることもあります。これらの匂いは使用量や頻度にもよるのですが、容器から試薬が漏れていたり、管理が甘くなっている可能性を知らせてくれたりもするので、においに敏感でいることは事故防止にもつながります。
「なんとなく変なにおいがするな…」と気づくことは、ラボの安全を守る第一歩でもあるのです。
試薬によっては、「刺激臭注意」と試薬瓶に表記されているものも少なくありません。そのような試薬を扱う場合は、本来であれば、窓をあけて換気!と言いたいところなのですが、実験内容や施設内のルールなどの制限から窓から外気を入れることができない実験室もありますので、以下のような対処が必要となります。
・マスクを装着(場合によっては保護メガネも)
・換気扇やドラフトチャンバーを正しく使用する
日常に溶け込む匂い
もちろん、すべてのにおいが危険を知らせるわけではありません。マウス飼育室特有の甘いような、床敷の乾いたようなにおい。大腸菌用の培地をオートクレーブにかけた時の独特のにおい。これらは、実験をしていれば日常的に出会うもので、次第に研究生活の一部になっていきます。
匂いは、単なる不快なものでも、ただの研究者あるあるでもありません。実験室において、匂いは安全を守るための大切な「センサー」であり、また、研究の日々を象徴する「思い出の一部」にもなります。
今日もどこかの研究室で、ふわっと漂うにおいに「おっと、何かあるぞ」と気づく誰かがいるかもしれませんね。
これからも、においも含めて、研究現場ならではの空気を大切にしながら、安全に、楽しく、実験生活を続けていきましょう。