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PD-L1 は PD-1 のリガンドとして、T細胞の免疫抑制に関わることは一般にも広く知られ、PD-L1 に対する抗体も、PD-1 に対する抗体と同じようにチェックポイント治療に使われている。ただ最近になって、PD-L1は細胞膜だけではなく核に移行して転写に関わったり、小胞に移行して小胞と細胞骨格との相互作用に関わることが示されてきた。
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今日紹介するロサンゼルスにある Cedars-Sinai 医学センターからの論文は、PD-L1 が微生物を取り込んだ時にできる小胞、ファゴゾームに発現して、マクロファージの酵母やカビ特異的反応の受容体として働いているという意外な機能を明らかにした研究で、6月5日 Nature にオンライン掲載された。
タイトルは「Profiling phagosome proteins identifies PD-L1 as a fungal-binding receptor(ファゴゾーム内のタンパク質をプロファイルする過程で PD-L1 がカビを認識する受容体であることが明らかになった)」だ。
このグループは、マクロファージが貪食した時にできる細胞内小胞、ファゴゾーム内での過程を研究するために、取り込んだ微生物の分子と直接相互作用する細胞側の分子を網羅的に調べるための PhagoPL という方法を開発して研究をしていた。微生物にパーオキシダーゼを発現させ、この酵素を用いてファゴゾーム内で微生物に直接相互作用するホスト側の分子をビオチンラベルする方法で、ファゴゾームで取り込んだ微生物を処理するための一般的分子とそれに加えて微生物の種類ごとに特異的に発現する分子を網羅的に調べることができる。
この実験を出芽酵母、黄色ブドウ球菌、そして大腸菌について行うと、PD-L1 が特に出芽酵母を食べさせたファゴゾーム内に移行して、しかも出芽酵母の分子と直接相互作用していることを発見する。この発見が研究のハイライトで、なぜ PD-L1 が出芽酵母のファゴゾームへ優先的に移行するか、不思議な現象だ。
ただ、この研究では PD-L1 と出芽酵母との相互作用に焦点を当てて研究を進めている。まず、出芽酵母のどの分子と相互作用するのかを調べ、なんと出芽酵母の膜上に発現したリボゾームタンパク質の一つ Rpl20b と直接結合することを発見する。リボゾームタンパク質が場合によっては細胞膜上に発現されることも初耳で、いろいろ不思議なことが起こっている。
ただ、これは出芽酵母に限るわけではなく、カンジダでも Rpl20b が膜上に発現すると PD―L1 と結合するので、カビ類に広く見られる現象だと結論している。面白いことに、Rpl20b と相互作用する能力はもう一つのファミリー分子 PD-L2 にも認められる。
最後に、酵母の Rpl20b の分解を人為的に分解できるようにした方法を用いて貪食後に分解させたとき、ホスト側に起こる変化を調べ、Rpl20b と PD-L1 の相互作用の機能を調べている。この実験では、最初からサイトカインや自然炎症に関わる分子に焦点を当てて検索し、特にマクロファージの IL-10 や IL-6 分泌が少し低下することを発見する。
最近の研究で PD-L1 は STAT3 と相互作用することがわかっているが、Rpl20b の過剰発現実験などから、PD-L1 と相互作用して生成する STAT3 のレベルが上がることから、おそらくこの経路が IL-10 転写抑制に関わると結論している。
残念ながらカビの感染時に何が起こるのかを示すことはできていないが、PD-L1 がカビのセンサーとして働いていることは、分子進化を知る上でも面白く、また意外な現象だと思う。