グリコーゲン合成が、脂肪肝を抑える仕組み(2月16日 Science掲載論文)

2024.02.29

私たちの身体は余ったエネルギーをグリコーゲンと脂肪に変えて蓄積している。この経路はリン酸化されたグルコースG6Pからそれぞれの経路に分離していくが、それぞれの経路のバランスがどう調整されているかはよくわかっていない。

 

本日紹介する論文

今日紹介する中国科学技術院基礎医学研究所からの論文は、グリコーゲン合成への経路で発生する中間体 uridine disphosphate glucose(UDOG) が脂肪合成系を抑制するメカニズムを明らかにした研究で、2月16日 Science に掲載された。

 

タイトルは「Hepatic glycogenesis antagonizes lipogenesis by blocking S1P via UDPG(肝臓でのグリコーゲン合成はUDPGによるS1P阻害を介して脂肪合成を抑制する)」だ。

 

解説と考察

研究では、マウス肝臓細胞を培養し、グルコースを加えた時、まず1時間ぐらいでグリコーゲン合成が始まり、脂肪合成は1時間遅れることを確認し、グリコーゲン合成が始まると、それ自身が脂肪合成を抑える可能性を示した。

 

次に脂肪合成阻害活性のある代謝物を探索し、最終的にグリコーゲンになる前の段階の代謝物UDPGが脂肪合成を抑えることを発見する。

 

次にUDPGが脂肪代謝を阻害する仕組みを様々な細胞学的テクノロジーを駆使して探索している。ただ、かなり専門的なので、詳細を省いて明らかになった抑制メカニズムだけを紹介する。

 

  1. グルコースが取り込まれるとG6Pが合成されG1PからUDPGを経てグリコーゲンが合成される。これは細胞質で行われるが、UDPGはゴルジ体の膜に発現しているキャリアー分子SLC35を介してゴルジに輸送される。
  2. ゴルジ体に輸送されたUDPGはまずSite 1プロテアーゼ(S1P)と結合しS1Pの蛋白分解活性を抑える。
  3. 脂肪合成に必要な遺伝子はいくつかのSREBP転写因子により調節されているが、S1Pがゴルジ膜上のSREBPをを切断して核移行を可能にすることがSREBを活性化させる。この活性化に必須のS1Pが抑制されると、当然脂肪合成のための遺伝子発現が抑えられ、グリコーゲン合成が低下しUDPGが低下するまで脂肪合成が抑えられる。

 

以上のメカニズムに基づき、UDPGを脂肪合成を抑える治療薬として使う可能性を、マウスで調べている。正常マウスにUDPGを投与すると、脂肪合成を抑えることが出来る。次に、高脂肪食を摂取させて誘導する脂肪肝モデルを用いてUDPGを投与すると、脂肪肝を誘導したマウスでは血中UDPGがほとんど0に低下しており、これにUDPGを投与すると脂肪の蓄積を抑えることが出来る。

 

最後に、人間の正常肝臓細胞の培養で、UDPGが脂肪合成を抑えて、グリコーゲン合成を高めることを確認している。そして、非アルコール性肝炎の患者さんの肝臓細胞を用いて、脂肪合成が亢進している患者さんの肝臓細胞ではUDPG量が低下しており、また試験管内で脂肪を投与して起こる肝臓細胞での脂肪蓄積も抑えられることを明らかにしている。

 

まとめと感想

以上が結果で、これまで別々に理解していた代謝経路を見事に連結させ、脂肪肝の抑止方法を明らかにした、オーソドックスな代謝研究だ。現在のところ経口可能ではないと思うが、ここが突破されると、サプリで出てくる気がする。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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