県民性の科学:心理学と脳科学からのエビデンス

2024.02.19

日本は小さな国ではあるが、全国47都道府県、様々な特色がある。このような違いは県民性という言葉で語られるが、本当のところ、都道府県による気質の違いはあるのだろうか。またあるとしたら何が原因となっているのだろうか。今回の記事では県民性に関わる心理学・生理学のエビデンスを整理し、掘り下げて考えてみたい。

 

 

県民性の心理学

人間の気質を説明するモデルとしてビッグファイブというものがある。これは人間の気質を5つの要素(外向性、開放性、協調性、誠実性、神経症的傾向)で説明するもので、その要素の高低で人格を説明するものである。

ある研究では、このビッグファイブモデルを使って、県民性の違いについて調べている。結果として、都道府県による気質の違いが確かに示されている(吉野と小塩, 2021年)。

吉野と小塩, 2021年, 図1を参考に筆者作成

 

パッと見た感じ、裏日本と呼ばれる日本海側はネガティブな気質が目立ち、太平洋側はポジティブな気質が目立つ。また東京、大阪、福岡といった大都市圏はとりわけポジティブな気質が高いように見受けられる。ちなみに上の図の内容を整理したものとしては以下の通り。

  • 外向性は首都圏や沖縄県で高く,中国地方で低い。
  • 協調性は九州東部や沖縄県で高く,北陸地方で低い。
  • 勤勉性は東北地方で低い。
  • 神経症傾向は東北地方や中国地方で高く,沖縄県で低い。
  • 開放性は九州北部で高い。

 

しかし、このような県民性の違いは何が原因となって作られるのだろうか。いくつかの研究から、環境要因が県民性に影響していることが報告されている。具体的には、日照量、緯度、歩きやすさ、人口密度などである。

例えば、ある研究では、緯度が低いほど、また、気温が高く年間日照量が多いほど、活発で積極的な気質を持つことが示されている(Inoue, 2015年)。つまり、南国には元気な人が多いということになる。また、日照量が少ない地域ほど神経症的傾向が高いことが示されている。冬は毎日曇天にさらされる裏日本と毎日カラッとした太平洋側では気質に違いが出るということだろうか。

吉野ら, 2020年, Figure 1を参考に筆者作成

 

さらに、人口密度が高いほど神経症的傾向が低いことも報告されている。人混みの少ない田舎暮らしは思ったよりは楽ではないというのもこの辺にあるのかもしれない。加えて、土地の歩きやすさも外向性と関連している(Götz, 2020年)。具体的には、公園や商業地までの距離が近く、信号が多く、人口密度が高い地域ほど外向的な人が多くなるということになる。その理由としては、歩きやすい土地で人々が交流しやすいため、外向性が促進されるのではないかと考えられている。近年スモールシティ政策が注目を浴びているが、外向的な人を呼び込むには良い方法なのかもしれない。

また、アメリカの各州を対象にした研究からは、土地の文化的環境と住人の気質が相互作用的に影響し合う可能性が論じられている(Rentfrowら, 2008年)。

Rentfrowら, 2008年, Fig.1を参考に筆者作成

 

具体的には、ある地域で開放性が高い人が多い場合、文化や科学への関心が高まり(Path A)、その結果、教育水準が上がり、文化水準が高い土地柄になる(Path B)。このような環境は他の住民にも影響を与え(Path C)、大学や文化施設の設立を後押し(Path D)、さらに開放性の高い人々の流入を促す(Path E)。すなわち開放性が高い人が呼び水となって好循環を生み出すことができるというのである。地域おこしにおいては、若者やよそ者、変わり者を招き入れることが重要であるとされているが、案外それは当たっているのかもしれない。

 

 

環境と脳の関係

県民性は自然や文化に影響されているが、私達の脳も環境によって変化する。特に教育レベルや所得などの社会経済状態は脳に大きな影響を与えている。例えば、所得が低いと不安や恐怖に関わる扁桃体の活動が高まりやすなり、報酬刺激に対して脳の反応が強くなることがわかっている。さらに、脳の大きさも貧しい地域に住んでいるか豊かな地域に住んでいるかで違ってくることが示されている(Farah, 2017年)。

Farah, 2017年, FIGURE 2を参考に筆者作成

 

さらに人間には、環境への染まりやすさと関わる遺伝子がある。これはDRD4と呼ばれるもので、社会的報酬(地位、権力、称賛など)への反応と関連するものである。このDRD4のあるタイプのものは、文化的影響を受けやすいというのである。例えば欧米人は個人独立志向で、アジア人は相互依存志向だとされるが、「染まりやすい」遺伝子を持っている人がアジアに生まれれば集団主義志向に、アメリカに生まれれば個人主義志向になることを示した研究もある(KitayamaHuff, 2015年)。面白いことにこの遺伝子を持っていない人は、アジアに生まれようとアメリカに生まれようと中立的な価値観を持っている。

KitayamaとHuff, 2015年, Figure 2を参考に筆者作成

 

ちなみにこの遺伝子は、人類発祥の地、アフリカを遠く離れるほど保有者が多くなるとも言われており、極東に住む日本人はその割合も少なくない(Kitayama, 2016年)。キャラを変えたかったら住む場所を変えるというのも一つの方法なのかもしれない。

 

県民性と幸福

できることなら幸福な人生を送りたい。では最も幸福な都道府県はどこになるのだろうか。内閣府による「満足度・生活の質に関する調査」の結果を見る限りでは、平均年齢など要因も影響するものの、近畿圏と九州北部が比較的幸福度が高いように見受けられる。

釣, 2022年, 図9を参考に筆者作成

 

しかしながら、個人レベルで見た場合、幸福度の高い土地=幸福になれる、というわけでもないらしい。例えばスイスで行われた研究によると、日本と同様に比較的明瞭な土地柄があるが、自分と土地の気質がフィットするほど幸福度が高くなることが報告されている(Götz, 2018年)。

Götzら, 2018年, FIGURE 1を参考に筆者作成

 

また日本で行われた研究でも、伝統的な価値観を重要視するほど田舎暮らしを好み、近代的な価値観を重要視する人ほど都会暮らしを好むことが報告されている(Chishimaら, 2023年)。そう考えれば自分の気質や価値観に合う土地に住むのが幸せになる方法なのかもしれない。

 

 

まとめ

では、ここまでの内容をまとめてみよう。

 

  • 心理学的に都道府県別の気質の違いが存在する。

  • 気質の原因となっているのは自然環境や社会環境、遺伝的素因である。
  • 自分の気質や価値観とフィットする土地では幸福度が高くなる。

 

このように気質の地域性というものがあり、それは環境と住人の相互作用によって育まれるものであるようである。染まりやすい遺伝子を持っていて、生まれた土地に馴染める人もいればそうでない人もいるかも知れない。私達は植物と違い、自分の自由意志で行きたいところに行き、住みたいところに住むことが出来る。どこで暮らしても一生は一生である。暮らしやすい土地を探してみるのも悪くないと思うのだが、どうだろう。

著者紹介:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

富山大学大学院 生命融合科学教育部 認知情動脳科学専攻 後期博士課程 修士(健康科学)
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、畿央大学大学院へ進学、脳波を用いた研究に携わる。現在富山大学大学院博士課程で
コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。
2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から一部上場企業を対象に学術支援業務を行う。
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。
日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」では、脳科学に関する情報を広く提供している。

【主な活動場所】 X(旧Twitter)はこちら

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【参考文献】

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Farah M. J. (2017). The Neuroscience of Socioeconomic Status: Correlates, Causes, and Consequences. Neuron, 96(1), 56–71. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2017.08.034

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Inoue, T., Kohno, K., Baba, H., Takeshima, M., Honma, H., Nakai, Y., Suzuki, T., Hatano, K., Arai, H., Matsubara, S., Kusumi, I., & Terao, T. (2015). Does temperature or sunshine mediate the effect of latitude on affective temperaments? A study of 5 regions in Japan. Journal of affective disorders, 172, 141–145. https://doi.org/10.1016/j.jad.2014.09.049

Kitayama, S., & Huff, S. (2015). Cultural neuroscience: Connecting culture, brain, and genes. Emerging trends in the social and behavioral sciences, 1-16. https://doi.org/10.1002/9781118900772.etrds0062

Kitayama, S., King, A., Hsu, M., Liberzon, I., & Yoon, C. (2016). Dopamine-System Genes and Cultural Acquisition: The Norm Sensitivity Hypothesis. Current opinion in psychology, 8, 167–174. https://doi.org/10.1016/j.copsyc.2015.11.006

Rentfrow, P. J., Gosling, S. D., & Potter, J. (2008). A theory of the emergence, persistence, and expression of geographic variation in psychological characteristics. Perspectives on Psychological Science, 3(5), 339–369. https://doi.org/10.1111/j.1745-6924.2008.00084.x

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