アルツハイマー病を血液細胞で調べる|トンデモ研究かと思いきや・・・な解説(2月9日 Neuron オンライン掲載論文)

2024.02.24

現在ほとんどの病気で血液検査が行われる。脳血液関門で独立した脳の病気でも、何かの痕跡が血液に流れてくる可能性があり、同時に身体をモニターするという意味でも、精神疾患でも血液検査が行われる。しかしこれらは血液検査と言っても血清中の様々な分子の話で、脳神経疾患の変化が直接血液細胞にも反映しているとは思わない。

 

本日紹介する論文

ところが今日紹介するシカゴの Northwestern 大学からの論文は、アルツハイマー病(AD)の血液細胞を徹底的に調べれば AD と相関する変化が見られるという研究で、2月9日 Neuron にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Epigenetic dysregulation in Alzheimer’s disease peripheral immunity(アルツハイマー病の末梢免疫で見られるエピジェネティック調節異常)」だ。

 

解説と考察

研究では健常人26人、AD29人を、さらに AD リスク遺伝子の筆頭 APOE のサブタイプに分け、それぞれの血液細胞のエピジェネティックスを徹底的に調べている。しかも、各細胞系譜に分けて調べるため、単一細胞レベルでクロマチン状態を ATACseq 、転写を RNAsequencing で調べている。

 

膨大なデータなので、様々な情報処理法を駆使して、
1)AD でエピジェネティックスが変化する血液細胞は存在するか
2)どの遺伝子が変化しやすいか
3)APOE タイプと相関するエピジェネティック変化はあるか

などを調べている。

 

一昔前、AD を血液細胞で調べるなどと言うと、的外れで「トンデモ論文」と思ったが、ここまで徹底的にやると形になってくる。

 

まず、AD で特異的にクロマチンが変化する領域は存在し、特に CD8T細胞で多くの変化が検出できるが、他の細胞でも再現性のある変化が検出できる。

 

まず単球についてクロマチン構造が変化し、それに応じて遺伝子発現も変わる遺伝子を調べていくと、NFκB2遺伝子のイントロン RELA 結合サイトに明確なクロマチン変化が見られ、その結果下流の炎症遺伝子の発現が高まっている。

 

次に CD8T細胞を調べると、様々な遺伝子のプロモーター領域でクロマチン変化が起きているが、特にケモカイン受容体 CXCR3 プロモーターの変化に着目している。というのも、CXCR3 遺伝子は AD リスク遺伝子として特定されているためで、組織学的に調べるとAD脳のミクログリアと、脳軟硬膜のCD8T細胞で発現の上昇を確かめている。

 

次にこれまでの結果を APOE タイプと相関させると、AD で起こるクロマチン変化が、リスクの上昇とともに全ての細胞で変化が大きくなる。

 

特に単球ではこれまで AD のミクログリアで見られるケモカインなど炎症に関わる遺伝子のクロマチン変化がはっきりと見られることから、単球とミクログリアが体内の局在を問わず AD と APOE の影響下でエピジェネティックな変化が誘導されるのがわかる。

 

CD8T細胞で APOE リスクを相関させると、今度はやはり AD リスク遺伝子として知られる BIN1 と呼ばれる遺伝子調節領域でクロマチン変化が起こり、発現が高まることがわかった。

 

最後に、これらのエピジェネティック変化が T細胞機能に影響するかどうかを調べるため、抗原受容体遺伝子の解析からクローン増殖を行った細胞を特定して解析すると、APOE リスクと相関する遺伝子変化により、T細胞の増殖が高まっていることを確認している。

 

まとめと感想

結果は以上で、的外れに思える研究でも徹底的に調べると、AD を誘導する様々な要因との相関が見られるという結果だ。元々 AD のリスクファクターとして炎症は指摘されており、APOE も関わることから、その範囲で解釈できるが、ひょっとしたらもっと面白いことが的外れな研究から生まれるかも知れない。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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