「寂しさ」と「孤独」を考える。2つの感情の違いとは?

2024.01.05

 最近、「寂しい」という感情についてあれこれと考えた。精神科ナースとして働いているが、私は人の感情にあまり敏感ではない。自分の感情にも。ただ、鈍感とはいっても自分の発言に失敗したと思ったり、こう言えばよかったと後から考えたり、一人反省会はよくする。その反省会で、私があまり「寂しい」と思わないことで、人を傷つけてしまったんじゃないかと思ったことがあった。今回はそんな経緯で、人間にとっての「寂しさ」について、考えてみる。

※これは精神疾患の臨床現場で活動する個人の見解であり、精神科分野での学術的な研究結果ではありません。

「寂しさ」とは何か?

 まず、看護論で有名な、ペプロウという人がいた。看護学生や看護を志した人ならどこかの段階で耳にする名前だ。このペプロウの記述では、「寂しさ」と「孤独」は別で書かれている。ペプロウは「寂しさ」についてこう述べる。

 寂しさは、ありふれた体験である。寂しさを感じている人は、身近に他者を感じていたいという願望を意識しており、それを一つの感情として述べることができる。(中略)寂しさは、人と別れたときに生じやすいが、集団のなかで他者が近くにいるにもかかわらず生じることもある。

 これはなんとなくわかる。寂しい気持ちに疎い私でも、友達や恋人との別れ際に相手が出している雰囲気で、寂しい気持ちを察したことがある。この説明にもし共感できなかったとしても、定義として理解できる人は多いのではないか。一人の時だけに体感するものではない、二人以上でいるときに感じる「寂しさ」の方が、より寂しいと思ったことがある人も少なからずいると思う。

 

 

「孤独」とは?

 ペプロウは一方、「孤独」についてはこう書いている。

 孤独は、人が自分で選べる状況ではない。しばしば孤独の人は、自分がそういう状況を体験する理由を意識しない。(中略)
 孤独は、当人には感知されていないことが多い。代わりにその人は、説明のつかない恐怖、自暴自棄、極度の落ち着きのなさの感情をもつ。これらの感情は非常に激しく、また耐えがたいので、否応なく自動的行動が生じ、そうした自動的行動のために他の人々は孤独の人と接触せざるをえなくなる。

 これもなんとなくわかる。孤独は、寂しさよりも恐ろしい気がする。寂しさに比べて実態が見えない。「当人には感知されていないことが多い」というところも、孤独が実態のないものと感じるのを助長させているのではないだろうか。人を恋しく思って寂しさを感じているのとは違う、もっと根本的で、けれど自分ではどうにもできない領域に立たされている感覚だ。

 精神科で関わっている人々は、寂しさよりも孤独を感じている人が多いように思う。孤独の「体験する理由を意識しない」という部分の影響もあるかもしれない。私がよく関わる統合失調症の人たちは、自分が統合失調症であると意識しない人も、それなりにいる。はっきりした幻聴やリアルな妄想によって、生活を維持できなくなることもあるのだから、それが現実だと信じるのは自然だ。けれどその人が体験していることは、当人しか体験できない。体験を共有できないことは、孤独の始まりに思える。ペプロウが言う、後半部分の「自動的行動」に関しては、統合失調症だけでなく神経症や気分障害の人の方も、多く当てはまるだろう。

 

 

「寂しさ」は必要なのか? なぜ「寂しさ」を感じるのか?

 話を戻すと、「寂しさ」は人間にとって必要な感情だと思う。寂しいと思うからこそ、家族や友人や恋人を失わないように、相手を大切にして心を通わせようとするのではないだろうか。しかし私のように寂しさを感じにくい人は、家族や家庭を持とうと思わず、生物としては淘汰されていく可能性が高い遺伝子なのかもしれない、とぼんやり考えていた。

 脳科学者の中野信子さんは、「人間は脆弱だから、集団でいるという選択を生存戦略としてとる。本能的に、誰かと一緒にいさせようとするために、脳が寂しさを感じるホルモンを作っている。」とラジオで話していた。脳の機能ならばもう少し楽しい感情で過ごさせて欲しかったと思う反面、危険な自然界ではそんなこと言っていられない。「寂しいと感じて家族を欲したり集団に属したりしようとする」というのは人間という生物として自然なことであり、そうして人は生き延びてきたようだ。


 人はきっと寂しさからは逃れられないが、それによって得るものが、寂しさをなるべく上回って欲しいなと思う。

 

 

参考文書

『ペプロウ看護論 看護実践における対人関係論』訳 池田明子・他(1996)医学書院

『脳の闇』中野信子(2023)新潮新書

【著者紹介】山川 うみ

都内にある看護大学を卒業後、精神科看護師として勤務。主に慢性期の病棟で日々精神科看護に従事しています。尊敬する師は中井久夫先生、宮子あずさ看護師です。