「病は気から」がガンの治療成績として見える治験(11月13日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2023.12.03

ストレスを与えると免疫が低下して、例えばガンの治りが悪いということはさまざまな動物実験で示されている。この原因として最も研究されているのが、さまざまなストレスホルモンで、人間でも肺ガンのチェックポイント治療に βアドレナリン阻害剤を組み合わせると、ガンの進展を抑えることができることも示されている。

 

このように、クヨクヨすると病気が治りにくいと言われても特に驚くわけではないが、しかし今日紹介するオランダ ガン研究所からの論文の様に、チェックポイント治療の治験期間に、数回、精神的なストレスを客観的に測定し、病気の経過を調るよく計画された治験で、「クヨクヨ」しないほうが病気の治りが良いことを示した研究は初めて見た。

 

本日紹介する論文

タイトルは「Association between pretreatment emotional distress and neoadjuvant immune checkpoint blockade response in melanoma(治療前の精神的ストレスとチェックポイント阻害のネオアジュバント治療に対する反応)」で、11月13日 Nature Medicineにオンライン掲載された。

 

この研究の目的は、メラノーマの手術前に PD-1 および CTLA4 抗体を組み合わせたチェックポイント治療を行うネオアジュバント治療効果を調べることだが、2回の抗体投与を受けた患者さんについては EORTC QLQ-C30 と呼ばれる質問形式の調査を行い、精神的ストレス度を測定し、ストレスのある群とない群に分けている。ガンになれば誰でもクヨクヨすると思うが、それでもクヨクヨしない患者さんが28人おり、このグループと精神的ストレスを感じた60人を比較している。

 

基本的には、クヨクヨする人とそうでない人で、ガンのタイプや年齢にはあまり違いはなく、精神的苦痛の強さの影響を見ることができていると判断できる。

 

結果は驚くもので、まずネオアジュバント治療後切除したガンの病理組織を見ると、腫瘍の大きさが10%以下になった割合は、ストレス群の46%に対し、ストレスのない群ではなんと65%に達している。

 

そして再発なしに2年目を迎えた割合は、ストレス群の74%に比して、ストレスのない群では91%と、母数が少ないと言え、優位の差が認められている。また、転移なしで経過する確率も、ストレス群で78%に対し、ストレスのない群では95%になっている。

 

この原因を探るべくさまざまな相関を調べているが、一つ明確なのはストレス群ではさまざまな免疫細胞の数が低下しており、クヨクヨすると免疫が落ちることが原因と思われる。しかし、これまで言われていた様なストレスホルモンの分泌に関しては差が認められていない。

 

結果は以上でメカニズムははっきりしないが、治験のプロトコルを工夫することで、「病は気から」が確かにガンの免疫治療の結果に影響することがわかった。

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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