電話の準備はいい? ノーベル賞ってなんだ?

2023.10.02

 10月に入り、今年も残すところ100日を切った。え、ホントに? 自分で書いていて恐ろしくなったが、どうやら本当のことらしい。一年があっという間に過ぎ去っていく……。

 時間の経過速度についてはさておいて、ここは科学記事の集まるLab-BRAINS、科学に携わる場として10月初頭と言えば外せないイベントがある。そう、ノーベル賞の受賞者発表だ。特に自然科学分野の3部門である物理学賞、化学賞、医学生理学賞については注目している方も多いだろう。

 ノーベル賞が優れた発見・発明をした科学者に贈られる賞であることは皆さんご存知の通りだろう。しかしながら、ノーベル賞がどういった経緯や理念で設立された賞なのか改めて問われると言葉につまる。そこで今回はノーベル賞とはどういった賞なのか、あらためて解説していく。

 

 

少し詳しく 〜創設の経緯

 もしもあなたの大切な人が、危険物の事故で命を落としてしまったとしたら、あなたならどうするだろうか?

 ノーベル財団の創設者アルフレッド・ノーベルの物語は、そんな一幕から始まる。

 1864年9月3日。当時、ノーベルが働いていた父の工場で爆発事故が起きた。原因は、当時まだ安全に扱う方法が確立されていない爆薬ニトログリセリンの誤爆によるもの。この事故により、ノーベルは10歳年下の末弟エミール・ノーベルを喪う。

 事故から2年後の1866年、ノーベルはニトログリセリンをより安全に扱えるようにしたダイナマイトを発明する。さらに5年後の1871年には、より改良したダイナマイトの特許を世界50の国で取得した。

 ダイナマイトの登場により、世界の土木工事は一変する。

 それまでチマチマと掘り進めていた硬い岩盤や地盤を、一気に破砕することが可能になったのだ。世界中のトンネル、鉱山、石材など様々な事業者がこぞって買い、ノーベルは一躍富豪の仲間入りを果たす。しかしながら、ダイナマイトが最も利用されたのは戦場であった。

 1870年7月に開戦された普仏戦争により、ダイナマイトは多くの兵士の命を奪う。弟の死を機に研究した安全な爆薬が、結果的に多くの人の命を奪うのはなんという皮肉だろうか[注1]

 世界的な富豪である名誉と同時に、『死の商人』という不名誉も背負うこととなったノーベルは晩年、のちのノーベル財団となる基金の創設を遺言として遺す[注2]。この遺言に従い、ノーベルの死から5年後の1901年第1回ノーベル賞が発表され、今日こんにちまで続いているというわけだ。

 ノーベル賞がダイナマイトの開発を機に創設されたものだということがわかった。しかしながら、そもそもノーベル賞とはどんな意味を持つ賞なのだろうか?

 続いてノーベル賞の理念について解説していこう。

 

 

さらに掘り下げ 〜遺言と理念

 もしもあなたがこだわっている仕事を途中で誰かに託さなければならなくなったとき、誰を選ぶだろう?

 引き継いでもらえるなら誰でも良いという人はあまりいないだろう。あなたのこだわりを理解し、尊重し、遂行出来る人にこそ、頼みたいと思うはずだ。

 ノーベルもまた、同様だった。

 ノーベルは生前にしたためた遺言に次のような事を記した。

 まず、人類の発展や平和に貢献する優れた活動をした人に対して、物理学賞、化学賞、医学生理学賞、文学賞、そして平和賞を毎年贈り讃える事を決めた[注3]。すなわちノーベル賞である。受賞者の選考にあたっては、国籍もスカンジナビア人かどうかも考慮せず、功績によってのみ選ぶ事とした[注4]。また、受賞者の選考については、ノーベル自身が以下の機関を名指しで指定し選考させる事とした。

                                                        物理学賞、化学賞:スウェーデン王立科学アカデミー

                                                        医学生理学賞:カロリンスカ研究所

                                                        文学賞:スウェーデン・アカデミー

                                                        平和賞:ノルウェー政府議会

 

 これが1901年の第1回から現在まで続くノーベル賞の基本理念である[注5]

 

 

 賞の運営に関して、ノーベル自身の遺志が隅々まで尊重されていることがわかった。それでは、具体的な選考プロセスはどのようになっているのだろう?

 続いて受賞者の選考プロセスについてみてみよう。

 

 

もっと専門的に 〜選考のプロセス

 実を言うと、ノーベル賞の具体的な選考プロセスについては明らかにされていない。したがって残念ながら葉月が解説できることは何もない

 

 

 

 

 

と、いうわけでは実はない。

 確かに、選考機関がどのような基準や手続きで受賞者を決定しているかについては、明らかになっていない。しかしながら、一般に公開されているルールもある。

 受賞者の選考についてはまず、毎年9月に世界中から推薦文を募集するところから開始する。続いて、集まった推薦内容に基づいて、各部門の選考機関が受賞者を選定する。ここが明らかになっていない部分で、対立候補の名前すらも50年間秘匿されるという徹底ぶりだ[注6]

 受賞者の決定は当日行われ、受賞内定者には電話で伝えられる[注7]。電話のやりとりで、双方の同意を得られると晴れてノーベル賞受賞者というわけだ。受賞者は授賞式へ招待され、賞状とメダル、そして賞金が贈られる。

 

 ここまで、ノーベル賞がどういった賞なのかについて解説してきたが、いかがだっただろうか? ノーベル賞の受賞者発表を見る際には、その内容がどのように人類の発展や世界の平和に繋がるのか想像してみるのも良いかもしれない。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが世界の学術賞について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜研究者を讃える

Japan Prize/日本国際賞

 今回、ノーベル賞について散々解説してきたわけだが、そうなると「日本にもノーベル賞みたいな大きい賞無いのかな?」と思われる方もいる事だろう。安心してほしい。あります! その名も『日本国際賞』という。科学技術の進歩と、人類の繁栄と平和に貢献した研究者に贈られる賞で、理念としてはノーベル賞と似ているかもしれない。研究内容に対して贈られるノーベル賞と異なり、研究分野に対して贈られるのが特徴で、毎年2つの分野に対して各分野1〜2の研究者が対象となる。

 実は葉月、この日本国際賞の授賞式に参加したことがある。とはいえ、もちろん受賞者としてではなく、受賞の様子を見守る観客としてだ。広い会場の奥の隅の席だったのだが、当時まだ天皇皇后だった上皇、上皇后両陛下がすぐ目の前を通って登壇されたのを今でも覚えている。ちょっとした学生時代の思い出語り。

イグノーベル賞

 スウェーデン国王からメダルを授与されるノーベル賞や、天皇皇后両陛下がご臨席される日本国際賞など、学術賞やそれに付随する研究はまるで遠い世界の出来事のように思えてしまう。しかしながら、全ての学術賞がそうではない。それを示す最も良い例は、やはりイグノーベル賞だろう。

 ノーベル賞に対してイグノーベル賞。なにやらノーベル賞に関係ありそうな名前の賞だが、ノーベル財団が一切関与しない全くの無関係な賞である。「人々を笑わせ、考えさせる」研究に対して贈られる、ユーモアある賞だ。と言っても笑わせるのは研究内容だけでない。授賞式で紙飛行機が飛ぶ、受賞者が愉快に歌い出す、スピーチが長いと少女に退屈と言われるなど、終始人を笑わせることをメインテーマにした授賞式の様子は、学術賞という言葉のイメージからは程遠い存在だろう。

参考文献

脚注

[注1] とはいえ、ノーベル自身はダイナマイトが戦争利用されること自体については最初から理解していた様でもある。彼は自身の秘書ベルタ・フォン・ズットナーに「戦争そのものの抑止力になるような強力な兵器を作りたかった」という旨を語っている。ダイナマイトは残念ながら抑止力にはならなかったが、後年、私たち日本人は抑止力となる兵器の登場をよく知るところとなる。 (本文へ戻る)

[注2] ダイナマイトの発明前から多くの命を奪ってきたニトログリセリンだが、もう一つの顔について医療に携わる方ならご存知かもしれない。すなわち狭心症の発作に対する薬だ。ノーベルの生前からこの事は知られていたが、ノーベルは自身の心臓病への処方を断ったらしい。 (本文へ戻る)

[注3] 先のラインナップに経済学賞が含まれていない事にお気づきになっただろうか? 実は経済学賞は、スウェーデン中央銀行の働きかけによって新設された賞だ。そのため、賞金の資金がスウェーデン中央銀行から間接的に支払われている、正式名称がノーベルが指示した5部門とは違う等様々な差異がある。

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[注4] ノーベルの出身であるスウェーデンはスカンジナビア半島にある国なので、つまりは「地元民だからって贔屓しないでね」という事だ。葉月にそんな言葉が果たして遺せるだろうか? そもそも地元民が贔屓されるなんて思い至らないかもしれない。 (本文へ戻る)

[注5] 第1回ノーベル賞は5部門に対して1名ずつ計5人に与えられた。そのうち、物理学賞の受賞者は現代を生きる私たちも名前を聞いた事があるはずだ。もっとも、人名として認識しているかどうかは微妙だが……。気になった人は、アズワンコに訊いてみよう。 (本文へ戻る)

[注6] とはいえ、広く知られた選考基準もある。受賞決定時点で存命であることや、1部門につき3名まで同時受賞可能、などの基準はご存知の方もおられるのではないだろうか? (本文へ戻る)

[注7] 大学院出てるし、文章書けるし、喧嘩なんてしたこと無いから、葉月がどれかの賞を受賞しちゃうのも時間の問題だな! 受賞決定の電話待ってるぜ! (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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