蚊に刺されるとなぜかゆくなる?蚊が血を吸う方法も含めて、わかりやすく解説します

2023.07.31

 夏になると嬉しくない風物詩が2つある。うだるような暑さと、呼んでもいないのに来る台風と、安眠を妨害してくる蚊だ。……3つじゃん! 中でも特に蚊は厄介だ。指先や背中など掻きにくい箇所を刺されると、なんとしてでも叩いてやりたいと思ってしまう。血を吸うのは構わないから、痒くするな!

 しかしそもそも、私たちは蚊について知らなすぎるのではないだろうか? 蚊について知れば、羽音や痒みで目覚めることさえ愛おしくなるかもしれない。そこで今回は、蚊がどのように血を吸い、痒くしてくるのかについて解説していこうと思う。

 なお、科学的に説明する記事なので、本来ならば「蚊」ではなく「カ」と表記すべきだが、読みやすさを優先して今回は漢字で統一させてもらった。あらかじめご理解いただきたい。

 

 

少し詳しく 〜血を吸う前に〜

 よく知られた事実として、蚊は産卵のために血を吸う。そのため、蚊の主たる栄養源は意外にもチョウやハチと同じく花の蜜だ[注1]

 子孫を残すため、蚊のメスは危険を顧みず、哺乳類や両生類、そしてなんと魚類からも血を求めて日夜奮闘しているのだ。と、書くと少しだけ蚊にも想いを馳せてみたくなっただろうか?

 とはいえ、あっちでプンプンこっちでチクチクされるのは鬱陶しくて仕方がない。

 中でも個人的に特に鬱陶しく思うのが就寝中だ。真っ暗な室内で就寝中、突然猛烈な痒みに目を覚ます。慌てて明かりをつけてみれば、蚊に刺された跡がプックリと膨れていた。という経験がある人は多いはずだ。

 しかしながら、ここで一つの疑問が浮かび上がる。蚊はどのように私たちの居場所を見つけ出したのだろう?

 実は蚊が暗闇でも私たちを見つけ出せた理由は、他ならぬ私たち自身にある。

 私たちは皆、呼吸をしなければ生きていくことは出来ない。また、体温調節のためには発汗も必要だ。こうした無意識の行動によって排出されるのが、二酸化炭素やアンモニアなどの気体だ。蚊はこれらの気体を、触覚にある毛状感覚子という器官で感知して、血を吸いにやってきている[注2]

 さらに驚くべきことに、蚊は熱や湿度まで探索の指標にしている。私たちとの距離が近くなるにつれて、汗から出た湿度や体温による熱は大きくなるからだ。

 蚊は私たちの体が無意識に発している情報を目印に狙ってくることがわかった。それでは蚊はどのように刺してくるのだろうか?

 続いて蚊がどのように吸血するのかを見てみよう。

 

 

さらに掘り下げ 〜血を吸う時〜

 蚊は私たちの皮膚に、口吻こうふんというストロー状の口を突き刺して、血を吸う。一見すると口吻は一本のストローだ。しかし実際には7本(2対と3本)の別の役割を持った針から構成されている。

 6本の針は下唇と呼ばれる鞘状の構造に収められており、上唇と呼ばれるストロー状の針から血を吸っている。

 とはいえ、そんなに簡単に、私たちの皮膚に突き刺さるものなのだろうか?

 実は、蚊は口吻を刺しやすい場所に刺している。もっとも、私たちの皮膚にあらかじめ穴が開いているという訳ではない。ではどうするか。穴がなければ開けるまでだ。

 この時に使われるのが小顎だ。小顎はノコギリのような形をした針で、皮膚を掘り進める[注3]。そして掘り進めた先の血管から、上唇を通して密かに血を吸うのだ。……やってること割とえぐくない?

 とはいえ、いくら丸まっていると言っても唇は唇でストローそのものではない。ただ吸っていたのでは隙間から液漏れの可能性がある。そこで大顎を使って、上唇の丸まり具合を調節していると考えられている。

 だが少し待ってほしい。こんな乱暴な方法で血を吸われて、私たちはなぜ気がつかないのだろう? 第一、私たちの体を流れる血液は、出血すると固まる筈だ。

 これらの疑問を解決するのが、唾液だ。蚊の唾液には麻酔効果のある物質や血液の凝固を防ぐ効果がある物質など、様々な物質が含まれている[注4]。これらの物質を含んだ唾液を、咽頭を通じて時間をかけて送り込むことで、痛みを感じさせることなく血液を吸い取る、という訳だ[注5]

 

 しかしながら、蚊の唾液は私たちの体には存在しない物質だ。ワクチンの注射でアレルギー反応を起こす人がいるように、血管に異物を入れるのはそれなりのリスクとそれに付随する反応が生じる。すなわち、痒みだ。

 憎い痒みの原因は蚊の唾液によるものだとわかった。それでは唾液はどのように痒みを引き起こしているのだろう?

 続いては私たちの体で痒みがどのように引き起こされるか見てみよう。

 

 

もっと専門的に 〜血を吸ってから〜

 そもそも痒みとはどのように発生するのだろう?

 痒みは、痒み神経に痒みを伝える分子が結合することで発生する。この痒みを伝える分子を、痒みメディエーターといい、痒みメディエーターの結合により痒みは脊髄を経由して脳に伝わる。

 それでは蚊の吸血による痒みメディエーターはなんなのだろうか?

 実はなぜ、蚊に吸われることで痒くなるのかハッキリとはわかっていない。しかしながら説はある。最も有力な説は、ヒスタミンによるものだ。

 ヒスタミンは蚊の唾液中に含まれる生理活性物質で、血管拡張効果がある[注6]。蚊は、ヒスタミンを血管内に注入する事で、血管を拡張し効率的に血を吸いやすくしていると考えられている。また、蚊の唾液には、痒みを発生させるのに十分な量のヒスタミンを含んでいる。

 一方で、ヒスタミンは私たち自身の体内でも合成されている。体内のヒスタミンはマスト細胞という、炎症やアレルギーに関与する免疫細胞に貯蔵されている。このマスト細胞が、唾液中の痒みメディエーターによって直接的、あるいは間接的に刺激され、ヒスタミンを放出するというものだ。

 つまり、「根本的な原因はよく分かっていないが、ヒスタミンによって生じているのは間違いない」というところだ。

 

 ここまで、蚊がどのように血を吸い、痒くしてくるのかについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 冒頭で蚊に優しくなれるかもと書いたが、そんな日は来ないだろうなと思った[注7]。(個人の感想です。)

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが蚊の研究から発展した技術について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜生活を支える蚊〜

匂いセンサー

 病気でありたい、なりたいと願う人はどれくらいいるだろう? 心が弱っている時に、逃避のために願う事は、あるかもしれない。しかし基本的には誰だって、病気はさっさと見つけて長く健康で暮らしたいと願っているはずだ。そのためには、早期発見が欠かせない。

 消化器や呼吸器、循環器などの疾患や一部の感染症などでは、吐息(呼気)の匂いが変化することが知られている。そこで呼気に含まれる気体分子を、蚊の触覚から着想したセンサーで検出する技術が開発されている。病気の発見だけでなく、災害現場での人探しなどにも応用が期待されている。

無痛注射針

 突然だが皆さんは、注射は好きだろうか? 葉月は嫌いだ。大嫌いだ。なぜって、痛いし怖いからね。しかし、葉月のような小心者でも安心な注射針が開発されつつある。

 そもそも注射が痛いのは、針が痛覚の神経を刺激するからだ。そのため、痛覚を避けるような極細の針ならば痛みは小さくなる。しかしながら、皮膚の抵抗があるため、あまりにも細すぎる針は刺すことができない。これを解決するのが蚊が口吻を刺す機構だ。

 蚊が針を刺す時、小顎を小刻みに動かして皮膚を掘り進めることは先述した通りだ。意外に思われるかもしれないが、実は皮膚への抵抗は、針が動いていた方が小さい。これを応用して、極細の針を回転させながら刺す機構が開発されている。

参考文献

  • 大庭 伸也. 『日本の淡水生態系における蚊の生態 : 特に身近な蚊の仲間たち』. 農業および園芸 = Agriculture and horticulture 94巻・2号,p.142-150(2019-02).

  • Floris van Breugel, et al. “Mosquitoes Use Vision to Associate Odor Plumes with Thermal Targets”. Curr Biol. 2015 Aug 17;25(16):2123-9.

  • 光野 秀文ら. 『昆虫の嗅覚やその機能からセンサを再現する』. 日本神経回路学会誌 2021年 28 巻 4 号 162-171.

  • 佐々木 智基. 『衛生害虫を対象とした人体用忌避剤の有効性と安全性について』. ファルマシア 2021年 57 巻 5 号 392-395.

  • 元岡 風太ら. 『蚊の下唇の構造とメカニズムを模倣した座屈防止機構の提案』. 精密工学会学術講演会講演論文集 2019年 2019S 巻.

  • 松下 昂平ら. 『動物皮膚を用いた蚊の血管穿刺および吸血行動の観察』. 精密工学会学術講演会講演論文集 2019年 2019A 巻.

  • Dixon AR, Vondra I. “Biting Innovations of Mosquito-Based Biomaterials and Medical Devices”. Materials (Basel). 2022 Jun 29;15(13):4587.
  • 齋藤 茂, 富永 真琴. 『温度センサーTRPチャネルの生息環境に応じた機能進化と その構造基盤』. 生物物理 2019年 59 巻 1 号 005-008.
  • Rakhi Dhawan, et al. “Data from salivary gland proteome analysis of female Aedes aegypti Linn”. Data Brief. 2017 May 25;13:274-277.
  • C Machain-Williams, et al. “Association of human immune response to Aedes aegypti salivary proteins with dengue disease severity ”. Parasite Immunol. 2012 Jan;34(1):15-22.
  • 江川 形平. 『皮膚のかゆみのメカニズム』. アレルギー 2020年 69 巻 4 号 256-259.
  • Joseph Jeffry, et al. “Itch signaling in the nervous system”. Physiology (Bethesda). 2011 Aug;26(4):286-92.
  • 嶋田正和ら. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 生物図録』. 数研出版.
  • Ashley Vander Does, et al. “Update on mosquito bite reaction: Itch and hypersensitivity, pathophysiology, prevention, and treatment ”. Front Immunol. 2022 Sep 21;13:1024559.
  • 松村 年郎ら.『ヒト疾病に関する呼気中VOCs分析法と検出成分の系統的レビュー』. 室内環境 2021年 24 巻 1 号 19-31.
  • 伊藤 嘉玖ら. 『膜タンパク質を組み込んだ人工細胞膜センサ』. 表面と真空 2021年 64 巻 4 号 162-167.
  • 青柳 誠司. 『蚊の針のサイズを追求した中空マイクロニードルの微細成形加工』. 天田財団助成研究成果報告書 2021年 34 巻 117- .

脚注

[注1] 蚊を飼育する際には3 %くらいの砂糖水が必要らしい。それ以前に、家族の理解が最も困難なハードルだと思うが……。葉月は嫌だよ、家族が家で蚊を飼い始めるの。 (本文へ戻る)

[注2] 蚊の触覚には、匂いを感じる毛状感覚子のほか、触れれているかを感じる剛毛感覚子、湿度を感じる湿度感覚子など、様々な感覚を感じ取る器官がある。 (本文へ戻る)

[注3] ノコギリなのでギコギコして穴を掘るのだが、その速度は1秒間に30往復になるらしい。せっかく血を分けてるんだから、もっと繊細に扱ってほしいものだ。 (本文へ戻る)

[注4] 蚊の唾液に含まれているタンパク質は1,000種以上にものぼる。すべての機能がわかっている訳ではないが様々な生理活性物質が含まれていることが期待されている。 (本文へ戻る)

[注5] デング熱やジカ熱など、様々なウィルス性の病気の媒介を蚊が担っているという話しを聞いたことはないだろうか? ウィルスに私たちが感染するのは、唾液が送られるタイミングだ。 (本文へ戻る)

[注6] ヒスタミンは局所的なむくみも誘発することも知られている。蚊に刺されると跡がプックリと膨れるのはヒスタミンによるものだ。ちなみに、膨れたところにバッテンつけるのはダメだよ。 (本文へ戻る)

[注7]  ついでに記事の執筆中、謎の痒みに定期的に襲われ続けた。恐らく、「蚊」「痒み」といったワードを意識しすぎるあまり、感覚が敏感になっていたのだと思う。いないのに苦しめてくるって……なに? (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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