CAR-T + ワクチン=Antigen Spreading (抗原拡散)(7月5日号 Cell オンライン掲載論文)

2023.07.21

何度も紹介している様に、ガンが発現する表面抗原に対する抗体をT細胞受容体の代わりに使ったキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)は、B細胞系の白血病に対して大きな効果を上げている。


しかし、たとえば小児の白血病で特に顕著だが、注入したCAR-Tを何年も維持することは簡単ではない。


他にもガンの方から抗原が消えてしまう問題、さらにはまだ固形ガンに対しては確立された方法がないなど、最初の期待と比べると、まだまだ満足できるレベルに達していないといえる。


今日紹介するMITからの論文は、CAR-Tの刺激を、ガン細胞だけではなく、ワクチンの形でリンパ節でCAR-Tをさらに刺激することで、CAR-T自身を活性化するだけでなく、他のガン抗原に対する免疫反応を誘導する抗原拡散現象が起こり、ガンの根治も可能であることを示した研究で、7月5日 Cell にオンライン掲載された。


タイトルは「Vaccine-boosted CAR T crosstalk with host immunity to reject tumors with antigen heterogeneity(ワクチンによりブーストをかけたCAR-Tはホストの免疫系と相互作用して複数のガン抗原に対するガン免疫を誘導する)」だ。


CAR-Tの維持が重要なことがわかっていて、これまでCAR-Tをワクチンを使って刺激する研究が行われてこなかったのは不思議な気がするが、ワクチンの設計が簡単ではなかったのだと思う。


この研究ではCAR-Tが認識する抗原(この研究ではグリオーマを標的にEGF受容体を抗原として使っている)に、アルブミンに結合する部位と共に直接細胞膜に突き刺さって細胞表面に提示される様にしたワクチンを設計している。


これをアルブミンとアジュバントに混ぜて皮下に免疫すると、リンパ節の抗原提示細胞で取り込まれて表面にEGF受容体が発現する。すなわち、ガン局所とは全く異なる場所で全身に分布したCAR-Tを刺激することになる。


これにより、期待通りCAR-Tを刺激し、ガンに対するキラー活性が高まっただけでなく、ミトコンドリアが増加し代謝活性が高まったCAR-T細胞へプログラムし直せるのだが、これに加えて、EGF受容体を発現しなくなったガンに対してもキラー活性が誘導できることを明らかにする。


すなわち、CAR-Tを強く刺激することで、他のガン抗原に対するキラー活性を誘導する抗原拡散が誘導できることを明らかにした。


この発見が論文のハイライトで、あとは抗原拡散が誘導されるメカニズムを詳しく解析し、さらに強力な固形ガンに対するCAR-Tデザインを模索している。


このメカニズムだが、ワクチンで刺激されたCAR―Tはガン組織にリクルートされるが、そこでγインターフェロン(IFNγ)を発現することで、ガン局所のマクロファージや樹状細胞を刺激、その結果樹状細胞からIL12が分泌される。


このIL12はCAR-Tを刺激することで、CAR-T/IFNγvs樹状細胞/IL-12というループを形成し、ガン組織で持続的な免疫の核を形成する。これに引き込まれて、浸潤してきたさまざまなガン抗原に対するリンパ球がガンに対するキラー活性を発揮し、EGF受容体を失ったガンでも傷害することが可能になるというシナリオだ。


実際、ガン免疫が成立するかどうか、ガン組織にリンパ組織様の構造形成が必要なことが指摘されているが、この核にCAR―Tと樹状細胞の相互作用が存在する可能性を示している。


以上の結果に基づき、CAR-Tが抗原刺激によりさらに強いIFNγを分泌するよう遺伝子操作すると、通常のCAR-Tでは到達できないガンの根治まで進める可能性も動物実験で示している。


以上、一石二鳥も三鳥も、ワクチンが可能にするという話で、CAR-Tの次のブレークが水面下で進んでいることがよくわかる。

 

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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