創造性と脳科学:そのメカニズムと高め方

2023.05.18

"創造性"が流行りである。子供の教育だけでなく、ビジネスの場でも創造性の重要性が説かれている。しかし創造性とはどのようなものなのだろうか。また、創造性を高めることで人間は本当に幸せになれるのだろうか。今回の記事では創造性のメカニズムについて考えてみたい。

創造性とはなにか?

最も一般的に認められた創造性の定義は、新奇性と有用性、適切性を兼ね備えていることである(Walia, 2019年)。


わかり易い例としてノーベル賞とイグノーベル賞を考えてみよう。

ノーベル賞は新奇性と有用性、適切性をすべて兼ね備え、社会を大きく変えるものに贈られる。iPS細胞然りLED然りである。しかしイグノーベル賞はそうではない。新奇性はあっても有用性や適切性に欠けた研究に贈られる。

また有用性と適切性に対する評価は、社会背景によっても変わってくる。例えば、かつてノーベル賞を受賞したロボトミー手術は多くの悲劇を生み出した。そのため現在では創造的であるとはみなされない。あるいは逆に、ゴッホのように生前認められなくとも死後、創造的と評価されるような例もある。このように、創造性は新奇性、有用性、適切性が重なるところに生じるが、その判断は社会背景にも影響されるため、絶対的なものではない。

創造性に必要な6つの要素

では創造性に必要な要素とはどのようなものなのだろうか。創造性についての世界的大家、コーネル大学のスターンベルグ教授は6つの要素を上げている(Sternberg, 2006年)。

1) 知的能力

知的能力は具体的には3つの能力に分けられる。一つは今までの枠組にとらわれず柔軟に考える力、もう一つは社会のニーズを捉え、分析できる力、さらにもう一つは自分が創造したものを高い値段で売りつける交渉能力である。

2) 知識量

知識量が多いほど創造性は高くなる。人間ゼロから何かを産み出すことは出来ない。あらゆるアイディアは既存の知識の組み合わせから生まれるからだ。そうであれば知識が多ければ多いほど、創造性も高くなる。料理でも冷蔵庫の食材が乏しいよりも豊富な方が作られる料理が多い。多くの組み合わせを生み出すためにも知識量が大いに越したことはない。

3) 法曹的な思考スタイル

法曹的思考スタイルというのは新しく法を作ったり、法解釈をしたりするような能力である。憲法解釈を巡る議論も、遠足のバナナがおやつかどうかを巡る議論も、ともに創造的な営みである。一つの事象を様々な角度から見て検討する必要があるからだ。その意味で法曹的思考は創造性に重要な役割を果たす。

4) 挑戦的な性格

創造的であるためには挑戦的な性格が望ましい。何かを産み出すことはリスクを伴う。今まで誰もやったことがないことをやる必要があるからだ。失敗するかもしれないし、社会的に孤立する可能性もある。そのためリスクをいとわず挑戦できる性格が創造的であるために重要になる。

5) モチベーション

モチベーションには、外的報酬によって引き起こされる外発的モチベーションと、自己発火的な内発的モチベーションがある。内発的モチベーションは、何かをすることで生じるワクワク感によって引き起こされる。何かを産み出すことは楽ではない。心が折れそうになることもある。それでも止まずにチャレンジし続けるために内発的モチベーションが高いほうが有利になる。

6) 社会的環境

創造性が発揮されるためには社会的環境が重要である。どんな天才も社会的な接点がなければ、その能力が生かされることはない。創造性が真に発揮されるためには、それが評価され、吟味され、社会に流通させる必要があるからだ。そのため、自分の能力が開花できるような場所に身をおくことが重要となる。

このように創造性に必要な要素として、知的能力、知識量、法曹的な思考スタイル、挑戦的な性格、内発的モチベーション、社会的環境がある。そのうち5つは個人的なものだが、最後の1つは社会的なものである。創造的であるためには、身を置く場所を選ぶことも大事になってくるのかもしれない。

知能と創造性

ペンシルバニア大学のフリス博士らは、知能と創造性の関係について調査を行っており、下の図はその結果を示したものである(Frithら, 2021年)。

見てもらえばわかるように、知能と創造性は高い相関を示すことが示されている。では創造的であるためには、どの程度の知性が必要なのだろうか。統合失調症の世界的権威であるアイオワ大学の神経生理学者、アンドリアセン教授は、創造的であるためには、IQ120前後があれば十分ではないかと論じている。ちなみにIQ120はおおよそ上位10%前後の知能の高さとなる。その意味では、創造的であるためには必ずしも天才である必要はないとも言える。

創造性の種類とパーソナリティ

創造性には大きく分けて2種類ある。一つは収束的思考であり、もう一つは発散的思考である。収束的思考は雑多な事象の中から本質的な事実を見出すものである。砂の中から砂金を洗い出すように、物事の本質を捉える思考で、科学者やコンサルタントなどに求められる資質である。それに対して発散的思考は、従来の枠組みを離れて自由に発想する思考で、芸術家や起業家に求められるような資質である。

また収束的思考は性格的には自閉症的傾向や抑うつ傾向と関連し、発散的思考は統合失調症的傾向と関連しているとも言われている(Thysら,2013年)。これを裏付けるように芸術家や創業者の家系には精神疾患患者が多いことも報告されている(Kyagaら, 2018年Freemanら, 2019年)。

さらに創造性が高いものは、しばしば反社会的気質、すなわちサイコパスの傾向があることも知られている。その理由としてドーパミン濃度が関係しているのではないかという仮説がある(Galang, 2010年)。

ドーパミンは気分を高揚させ、心のブレーキを外す役割がある。これが良い方向に向けば創造性な思考に繋がり、悪い方に向けば、タガの外れた行動につながる。このように創造性は精神疾患や反社会性との関連も強く、協調性と共存させることが難しい気質であるかもしれない。

創造性と脳活動

創造性が高い人と低い人では脳活動はどのように違うのだろうか。脳はいくつかのネットワークでできているが、その中でも大きなものにデフォルトモードネットワークエグゼクティブネットワークセイリエンスネットワークがある(BresslerとMenon, 2010年)



デフォルトモードネットワークは内向きの思考に関係するもので、ぼんやりと何かを考えているような時に活動する。それに対してエグゼクティブネットワークは外向きの思考に関係するもので、仕事や勉強に集中しているような時に活動する。そしてセイリエンスネットワークはこの2つの切り替えに関わっている。

興味深いことに、創造性が高い人はデフォルトモードネットワークとエグゼクティブネットワークのつながりが強いことが分かっている(Beatyら, 2018年)。これは、内向きの思考と外向きの思考がいったりきたりしやすいといえないこともない。

Beatyら, 2018年、Figure 2.を参考に筆者作成

 

また創造性課題を行う時に、考え始めにはデフォルトモードネットワークとセイリエンスネットワークの活動が強く、考え終わりにはエグゼクティブネットワークの活動が強くなることも報告されている(Yehら, 2019年)。これは最初はデフォルトモードネットワークによる発散的思考でアイディアを生み出し、その後エグゼクティブネットワークによる収束的思考でアイディアのブラッシュアップを行っているとも考えられる。

創造性の高め方

では創造性というのはどのようにして高めることができるのだろうか。意外なことに運動が創造性を高める上で有効であることがわかっている。大人を対象にした研究では中等度の強度の運動を30分ほど行うことで、その後2時間は創造性が高まることがわかっている(Netzら, 2009年)。海外のエグゼクティブは、朝、仕事に行く前にジムで汗を流してから会議に臨むとも聞くが、その意味では理にかなっているのかもしれない。また高強度の運動を数週間から数ヶ月行うことで創造性が高まることも報告されている(Ruiz‐Arizaら, 2017年)。

経営者の人は筋トレが好きな人が多いが、創造性を高める上では間違ってはいないのだろう。

 

さらには子供時代のスポーツへの関わり方が、成人した時の創造性に影響することも報告されている。具体的には、子供時代にストリートバスケのような自由なスポーツを行う時間が長いほど成人期の創造性が高くなるが、管理されたフォーマルなスポーツを行う時間が長いほど創造性が低くなることが示されている(Bowersら, 2014年)。子供については、自由に遊ばせて汗を流させるのが、創造性を高めるためにはよいかもしれない。

まとめ

では、ここまでの内容をまとめてみよう。

・創造性は、新奇性と有用性、適切性を兼ね備えたものである。
・収束的思考と発散的思考があり、それぞれに関連する脳内ネットワークがある。
・収束的思考は自閉症的・抑うつ的気質、発散的思考は統合失調的気質と関連する。
・運動で創造性を高めることができる。

しかし、創造的な人生とは、いったいどのようなものなのだろうか。1970年代のヒッピームーブメントに大きな影響を与えたある人物は、創造的な人生とは、詩や絵画を作ることではなく、自分自身の人生を一篇の詩や絵画のように生きることではないかと述べている。私たちの人生は自分自身のものである。他者から評価され、他者の欲望を叶えるためのものではない。

私自身の絵がどんなものになるかは分からない。しかし、味わい深い作品に仕上げたいものである。

 

【参考文献】

Beaty, R. E., Kenett, Y. N., Christensen, A. P., Rosenberg, M. D., Benedek, M., Chen, Q., Fink, A., Qiu, J., Kwapil, T. R., Kane, M. J., & Silvia, P. J. (2018). Robust prediction of individual creative ability from brain functional connectivity. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 115(5), 1087–1092. 

Bowers, M. T., Green, B. C., Hemme, F., & Chalip, L. (2014). Assessing the relationship between youth sport participation settings and creativity in adulthood. Creativity Research Journal, 26(3), 314-327. 

Bressler, S. L., & Menon, V. (2010). Large-scale brain networks in cognition: emerging methods and principles. Trends in cognitive sciences, 14(6), 277–290. 

Freeman, M. A., Staudenmaier, P. J., Zisser, M. R., & Andresen, L. A. (2019). The prevalence and co-occurrence of psychiatric conditions among entrepreneurs and their families. Small Business Economics, 53, 323-342. 

Frith, E., Elbich, D. B., Christensen, A. P., Rosenberg, M. D., Chen, Q., Kane, M. J., Silvia, P. J., Seli, P., & Beaty, R. E. (2021). Intelligence and creativity share a common cognitive and neural basis. Journal of experimental psychology. General, 150(4), 609–632. 

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Galang A. J. (2010). The prosocial psychopath: explaining the paradoxes of the creative personality. Neuroscience and biobehavioral reviews, 34(8), 1241–1248. 

Kyaga, S., Lichtenstein, P., Boman, M., Hultman, C., Långström, N., & Landén, M. (2011). Creativity and mental disorder: family study of 300,000 people with severe mental disorder. The British journal of psychiatry : the journal of mental science, 199(5), 373–379. 

Netz, Y., Argov, E., & Inbar, O. (2009). Fitness's moderation of the facilitative effect of acute exercise on cognitive flexibility in older women. Journal of aging and physical activity, 17(2), 154–166. 

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アリス・W・フラハティ(2006).書きたがる脳 言語と創造性の科学 ランダムハウス講談社

坂本一寛(2019).創造性の脳科学 複雑系生命システム論を超えて 東京大学出版会

塚田稔(2015).芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム ブルーバックス

勅使河原真衣(2022).「能力」の生きづらさをほぐす どく社 

ナンシー・C・アンドリアセン、長野敬・太田英彦訳(2007).天才の脳科学 創造性はいかに創られるか 青土社

茂木健一郎(2005).脳と創造性 「この私」というクオリアへ PHP研究所

OSHO、山川絋・山川亜希子訳(2017). Creativity 創造性 Kadokawa Shoten
マイケル・フィッツジェラルド著、石川好樹・花島綾子・太田多紀訳(2008).アスペルガー症候群の天才たち 自閉症と創造性 星和書店

W・ランゲ=アイヒバウム、島崎敏樹・高橋義夫訳(2000).天才 創造性の秘密 みすず書房

 

著者紹介:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

富山大学大学院 生命融合科学教育部 認知情動脳科学専攻 後期博士課程 修士(健康科学)
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、畿央大学大学院へ進学、脳波を用いた研究に携わる。現在富山大学大学院博士課程で
コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。
2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から一部上場企業を対象に学術支援業務を行う。
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。
日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」では、脳科学に関する情報を広く提供している。

【主な活動場所】 X(旧Twitter)はこちら

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