細胞相互作用を調べる single cell プラットフォーム(3月10日号 Science 掲載論文)

2023.03.22

昨年6月クリスパー/Casを用いて網羅的に遺伝子ノックアウトを行った細胞での転写の変化をsingle cell RNA sequencingを用いて調べるPerturb Sequencingについて述べたカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文を紹介し(https://aasj.jp/news/watch/19994)、さらにクリスパーとsingle cell sequencingが合体したまさに現代を代表するテクノロジーなのでYouTubeでも解説した(https://www.youtube.com/watch?v=-Yddv5xuPC8)。


今日紹介するハーバード大学からの論文は、この技術にマイクロ流体コントロール(マイクロフルイディックス)技術を合体させ、single cellテクノロジーと本来的に相性が悪い細胞間相互作用を研究できる様にし、多発性硬化症の炎症を抑える回路を明らかにした研究で、3月10日号 Science に掲載された。


タイトルは「Droplet-based forward genetic screening of astrocyte–microglia cross-talk(液滴培養を用いたアストロサイトとミクログリア相互作用の遺伝的スクリーニング)」だ。


細胞相互作用を調べるためには、少なくとも2種類の細胞が同時に存在する実験系が必要になる。


この研究では、マイクロフルイディクスを用いて単一のアストロサイトとミクログリアを一つの液滴の中に閉じ込める方法の条件を至適化して、2−3日間細胞培養が出来る様にし、単一細胞同士の相互作用を、そのままtwo cell mRNA sequencingで調べられる様にしている。


次に、アストロサイトにNFkBレポーターを導入、一方ミクログリアに遺伝子ノックアウト・クリスパーライブラリーを導入、それぞれを一つの液滴に閉じ込め、アストロサイトのNFkB誘導に関わる分子を探索し、4種類のミクログリア分泌分子と、それに対応する4種類の受容体が、アストロサイトの炎症反応を抑えることを発見する。


この研究では4種類のシグナルの内、Amphiregulin分子(Areg)と、その受容体EGFRに焦点を絞り、多発性硬化症モデルでAreg発現を抑えるレトロウイルスベクターを脳に注射する実験を行い、Areg発現が脳で抑制されると、炎症が高まることを明らかにしている。


一方で、アストロサイトとミクログリアが閉じ込められた液滴培養の遺伝子解析から、Aregの発現を高めるアストロサイト因子がIL33であることも明らかにしている。


主な結果は以上で、細胞間相互作用の研究をsingle cell同士のレベルで行い、その結果を網羅的に遺伝子発現として把握するこの系は、まだまだ完全でない細胞間相互作用の研究を前進させる様な気がする。


しかし、続々実現する新しいテクノロジーが、合体することでより高いテクノロジーへと発展するのを見ると、我が国の科学が元気になるためには、このような新しいイノベーションにチャレンジする若手研究者が出てくることが必要だと思う。

 

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。