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2023年もよろしくお願い致します!恐竜を研究する学問【古生物学】の普及活動や恐竜好きな方へのサポートを行っている「恐竜のお兄さん」加藤ひろしと申します。
今年2023年の恐竜イベントと言えば、3月14日(火)~6月18日(日)に東京・上野の国立科学博物館、7月7日(金)~9月24日(日)に大阪・大阪市の大阪市立自然史博物館にて開催される【恐竜博2023】です!
メインビジュアル決定🎉#恐竜博2023 の主役は鎧竜ズール。日本初公開となる実物化石と全身復元骨格が登場するデザインにご注目ください🔍
— 恐竜博2023 (@dinoexpo2023) December 13, 2022
本展では「攻・守」をキーワードに恐竜学の最前線を解説します!
本アカウントや公式サイトでは、見どころ・最新情報を更新していきますのでお見逃しなく🦖 pic.twitter.com/lWa80KEtXf
この恐竜博2023は「攻・守」という観点から恐竜の進化を紐解いていく特別展になりますが、その宣伝ポスターにもでかでかと登場している恐竜こそ、恐竜博2023の「守」の代表でもある鎧竜類のズール・クルリヴァスタトル Zuul crurivastator(推定全長:約6m)です。
「鎧竜類」と言えば、最大級の鎧竜でもあるアンキロサウルス・マグニヴェントリス Ankylosaurus magniventris (推定全長:約8~10m)が最も有名な恐竜でしょう。しかしこの知名度の高さに反して、アンキロサウルスの化石は他の鎧竜と比べてそれほど多く発見されておらず、骨化石を詳細に記載した論文も現時点では1908年・2004年・2017年に出版された3本となっています。

アンキロサウルス・マグニヴェントリスの3D復元
その点、今回の恐竜博2023で実物化石が日本初公開されるズールの場合は骨同士が繋がった化石が産出しており、鎧竜類の化石の中でも屈指の保存状態の良さを誇ります!
ということで今回は、恐竜博の目玉であるズールの基礎情報や展示を見る時の注目ポイント、そしてアンキロサウルス科の仲間について解説していきます。
CONTENTS
2014年5月16日、民間の化石発掘会社Theropoda Expeditionsの発掘隊がアメリカのモンタナ州に分布する白亜紀後期の地層であるジュディス・リバー層 Judith River Formationで発掘作業を行っていた最中、隊員が操縦していたスキッドステアローダー(アメリカの化石発掘作業ではよく使われる、積み込み作業に適した建設機械)が鎧竜類の内でもほとんどのアンキロサウルス科に見られる尾のクラブを掘り当てました。そのアンキロサウルス科の化石は発掘された後、2016年の6月にカナダのトロントにあるロイヤルオンタリオ博物館に引き取られ、そこで本格的なクリーニング作業が行われました。
そして研究の結果、新属新種であると分かったこのアンキロサウルス科についての原記載論文が2017年5月10日に出版され、ズール・クルリヴァスタトル Zuul crurivastator と命名されました。属名のズールは1984年の映画『ゴーストバスターズ』に登場する門の神「ズール」と頭の形が似ているのが由来であり、種小名のクルリヴァスタトルは「(襲ってきた肉食恐竜の)脛を破壊する者」という意味で、とても綺麗に保存された尾のクラブに言及したものになります。
まずはズールの分類について調べていきましょう!ズールの分類を鎧竜類 Ankylosauria から更に細かくすると、アンキロサウルス科 Ankylosauridae、アンキロサウルス亜科 Ankylosaurinae、アンキロサウルス族 Ankylosauriniとなります。
【鎧竜類 Ankylosauria】には[尾のクラブを持つアンキロサウルス科]と[尾のクラブを持たない代わりに肩に大きな棘を持つノドサウルス科(サウロペルタ、ボレアロペルタ、エドモントニア、デンバーサウルス等)]の二大グループが含まれ、尾のクラブを持つズールは前者の[アンキロサウルス科]に含まれます。
【アンキロサウルス科 Ankylosauridae】は[白亜紀前期のモンゴルに生息していたシャモサウルス達]と[シャモサウルス達以外のメンバーが含まれるアンキロサウルス亜科]に分かれます。
【アンキロサウルス亜科 Ankylosaurinae】は[白亜紀後期のモンゴルに生息していたサイカニア、タルキア、ピナコサウルス達]や[白亜紀後期の北アメリカに生息していたアンキロサウルス族]に分かれ、恐竜図鑑等で「アンキロサウルスの仲間」と紹介される事も多い恐竜が含まれるグループです。
そして【アンキロサウルス族 Ankylosaurini】には[アンキロサウルス、スコロサウルス、ディオプロサウルス、エウオプロケファルス、ズール達]が含まれます。先述の通りアンキロサウルス族の恐竜は全て白亜紀後期の北アメリカに生息していましたが、このアンキロサウルス族の中でズールと最も近縁と考えられている恐竜はカナダのアルバータ州に分布するダイナソー・パーク層から化石が産出したディオプロサウルスです。ちなみにアンキロサウルス科の恐竜に見られる尾のクラブが最初に発見されたのは、このディオプロサウルスになります。

アンキロサウルス族に分類されるエウオプロケファルス・トゥトゥス Euoplocephalus tutusの3D復元
更に、3月14日(火)~6月18日(日)までの恐竜博2023の開催地となる国立科学博物館の地球館地下一階の常設展示にはズールと同じアンキロサウルス族に分類されるスコロサウルス・カトラーリ Scolosaurus cutleri の実物を組み込んだ骨格が展示されています。ですから、恐竜博2023の展示を楽しんだ後に常設展に行けば、ズールの実物化石とスコロサウルスの骨格の比較観察も出来ます!

国立科学博物館の地球館地下一階に展示されているスコロサウルス・カトラーリの実物の骨格(手前、筆者撮影)
冒頭で紹介した通り、ズールの化石は鎧竜類の化石の中でも素晴らしい保存状態で発見されましたが、その素晴らしさの一つが「多くの胴体や尾の鎧がバラバラにならずにそのままの位置で残っていた」という点です!
鎧竜類が持つ“鎧”は鱗だけではなくその外皮の下に生える骨「皮骨 Osteoderms」で出来ています。この皮骨は恐竜の中では鎧竜類だけではなく剣竜類や一部の竜脚類、獣脚類のケラトサウルスにも見られ、今生きている動物ではワニやトカゲ、アルマジロ等も皮骨を持っています。この皮骨の役割については、鎧竜類の場合「防御やディスプレイ、体温調節にも使われた」と考えられていますが、外皮の下に生える骨である為に化石になる途中でバラバラになってしまう事がほとんどです。
しかしながら、ズールの化石に残されていた皮骨の多くはそのままの位置で残っており、イギリスのロンドン自然史博物館に展示されているスコロサウルスの実物化石の保存状態の良さを上回る、北アメリカで発見されたアンキロサウルス科の化石の中で最も良い保存状態になります。
素晴らしい保存状態の良さを誇るズールの化石を研究することでアンキロサウルス科の恐竜について新しく分かる事は、これからも増えていくでしょうが、2022年に早速「ズール達が持つ尾のクラブの使い方」についての研究論文が出版されました。この2022年の研究はズールの皮骨の中で、一部が折れている皮骨の位置と状態を調べ、その皮骨が胴体の側面(脇腹)にあり、尚且つ折れた場所の傷が治った跡が確認された為「ズール達アンキロサウルス科の恐竜は仲間同士で尾のクラブを使って戦っていたのではないか」と考察したものになります。
ズールの種小名であるクルリヴァスタトルは「(襲ってきた肉食恐竜の)脛を破壊する者」という意味ですが、ズール達アンキロサウルス科と共存していて成長した彼らを襲う事が出来ると考えられる大きさと力を持つ肉食恐竜と言えばティラノサウルス科の恐竜でした。確かに、ティラノサウルス科の脛の骨(腓骨)の中で怪我の跡が見られる物を調べた2008年の研究では「この怪我の理由の可能性として獲物からの反撃が考えられる」と考察しましたが、2022年のズールについての研究論文では「アンキロサウルス科よりも背が高いティラノサウルス科の恐竜が負わせた傷であるならば、ズールの体全体にランダムに傷が残るか、高さの関係で背中、若しくは急所である首周りに傷が残るだろう」「成長したズールよりも若い個体の方に傷が多く見られるだろう」と予想した上で、「当時の北アメリカにおいてアンキロサウルス科は比較的数が少ないので、恐らくティラノサウルス科の主な獲物ではなかった」等の考察を行いました。
また2021年の研究論文では白亜紀後期のモンゴルに生息していたアンキロサウルス科の恐竜であるタルキア・トゥマノヴァエ Tarchia tumanovae を命名・骨化石を記載し、左右2本の肋骨と尾の骨の周りにある骨化した腱のそれぞれに折れた後に治った跡が見られ、尾のクラブの両脇の一部が欠けて溝状になっていた為に「同種間(仲間同士)での争いの証拠である」とし、この研究論文でも「アンキロサウルス科の恐竜は仲間同士で尾のクラブを使って戦っていたのではないか」と考察しました。
今回紹介した“仲間同士での戦い”も“肉食恐竜に対する反撃”も一連の行動になってしまう為「アンキロサウルス科の尾のクラブを使った戦い」に対する明らかな証拠は生きているアンキロサウルス科の恐竜を観察してみない限り分からないでしょう。しかしながら、彼らの彼らの尾のクラブが生み出す衝撃を推定した2009年の研究論文では「成体(大人)の大きな尾のクラブは相手の骨を砕く程の力を生み出せただろう」と推定した為、尾を振り回されたらかなり危険な恐竜達であった事は確かなようです。
また、国立科学博物館の地球館地下一階に展示されているスコロサウルスの尾のクラブは比較的小さめなので「アンキロサウルス科の尾のクラブが成長に伴ってどの様に大きくなっていくのか」を観察する事も出来ます!

国立科学博物館の地球館地下一階に展示されているスコロサウルス・カトラーリの実物の尾(筆者撮影)
「保存状態の良い化石」は、美しいだけではなく、多くの研究の対象として使う事が出来るので学術的な価値も非常に高いです。恐竜博2023はそんな素晴らしいズールの実物化石をしっかりと観察出来るチャンスですので、可能であるならば何回も通う事をオススメします!