今年注目される治験研究(2022年12月号 Nature Medicine 掲載記事)

2023.01.14

昨年のNature Medicine12月号に今年期待される治験研究がリストされていたので、紹介する。記事自体はオープンアクセスなので、気になる方は是非読んで欲しい。

  • パーキンソン病に対するExenatide:Excenatideはトカゲの毒液の中から発見されたペプチドで、インシュリン分泌作用で知られる消化管ホルモンGLP-1とほぼ同じ作用を持つ薬剤で、既に10年近く2型糖尿病治療に利用されてきた。

    この薬剤は、脳の炎症をしずめ、細胞の生存を助けることが知られ、2017年パーキンソン病に対する第二相治験で病気の進行を抑えることが示された。その後行われてきた第3相治験結果が今年発表される予定で、大きな期待を持って待たれている。

  • 卵巣ガンに対するmirvetuximab―soravtansine: 乳ガンに対する第一三共の trastuzumab deruxtecan が昨年認可され、薬剤を結合させた抗体薬に期待が集まっているが、卵巣ガンに対する葉酸受容体にPARP阻害剤を結合させた mirvetuximab-soravtasine を、プラチナ製剤耐性の卵巣ガンに使う治験が進んでおり、結果が今年前半に発表されると期待される。

    これまでの小規模な治験では、確定奏功率31.7%で、最終結果が期待される。また、これが承認されると、薬剤を結合させた抗体治療ADCは一段と加速する。

  • 筋ジストロフィーに対するCRISPR-Cas9編集: これはFirst in human治験で、6人の患者さんに対し、CRISPR-Cas9で遺伝子編集した自己筋肉幹細胞を移植することが計画されている。最初は安全性を中心に2年間の経過観察が行われる予定だ。

  • 子宮頸ガンワクチンの効果を検証する治験:様々な問題で我が国への導入が遅れたヒトパピローマウイルスワクチンは、接種が始まってから既に15年を経過しており、実際にウイルス感染が防げたのか国際治験での検証が行われる。

    またこの機会を利用して、新しい免疫プロトコルなども同時に調べられる。

  • 地中海食の心血管病予防効果に関する治験:地中海食に代表される体重管理が心血管病予防に役立つかどうかを調べた治験は以前も行われ、有名な Look Aheadプロジェクトは効果なしと中断されたが、ヨーロッパで続けられている第3相の治験が報告される予定になっている。

  • 眠り病に対するfexinidazole: トリパノゾーマ感染による眠り病は現在も有効な治療はあまりなく、副作用の強いヒ素剤arsoprol や suramin が使われている。これに対し、1978年に開発されていた fexinidazole を新しいイニシアチブ組織がサノフィ社の協力を得て利用可能にした fexinidazole の第3相治験データが今年発表される予定。

  • 末梢血中のガン細胞CTCを乳ガンの治療に利用する:血中を流れるガン細胞(CTC) を診断に用いる可能性はこのHPで何度も紹介したが、乳ガンの場合 CTC が細胞の集合を作ったまま流れている場合、転移確率が高いことが示されてきた。

    また、この集合をジゴキシン投与により分散させられることもわかっている。これにもとづいて、今年から CTC集塊が発見された場合ジゴキシン投与を行い転移を防げるかについての治験が行われる。

  • アルツハイマー病に対するLecanemab:アミロイドβ を除去する抗体、Aducamab の治験を中断後、エーザイが次の切り札として今年承認申請を行うのが Lecanemab で、既にその効果については The New England Journal of Medicine に発表され、約30%に病気進行を遅らせる効果を示した。

    一方、トップジャーナルで、脳出血が副作用として見られることが報道されている。しかし、Nature も Nature Medicine も、ADに対する最初の薬剤としては期待して見守っているようだ。

  • HIV患者さんに対するCovid-19 mRNAワクチン効果:Covid-19 の変異株は免疫不全患者さんでインキュベートされる中で生まれることが推定されている。これを止めるには、免疫不全患者さんでCovid-19特異的免疫を誘導することが重要だが、14500人の対象者について行った治験結果が今年発表される。

  • 鎌形赤血球症に対する遺伝子編集:血液幹細胞を CRISPR-Cas で遺伝子編集して赤血球を正常化し、これを移植した治験研究の中間結果が今年発表される予定で、筋ジストロフィーと合わせ、着々と遺伝子編集治療が前進していることを覗わせる。

  • 前立腺ガンのスクリーニング法の治験:前立腺ガンスクリーニングというとPSAだが、私も経験あるがガン以外でも陽性になることが多い。これをバイオプシー前にさらに絞り込むための20万人スケールの治験がフィンランドで行われている。

    基本的には PSA、kallikrein、 MRIを用いた検査を比べ、コストとベネフィットがどうバランスするかが示される。この治験終了は2032年なので、中間報告になる。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。