死細胞の除去(エフェロサイトーシス)を促進する新しいテクノロジー(12月23日号 Cell 掲載論文)

2023.01.11

エフェロサイトーシスについては1度このブログで紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/19743)、マクロファージが細胞死が始まった細胞を見分けて組織から除去するプロセスのことで、これがうまくいかないと、死にかけの細胞により修復が遅れたり、炎症が起こったりする。


勿論老化にともなうゼノリシスにも関わる。


エフェロサイトーシスは死にかけの細胞を区別するところから始まるが、これには健康細胞では細胞内にとどまっているフォスファチジルセリンが細胞膜上に出てくるので、これを BAI1 や TIM4分子が認識し、細胞の貪食を誘導することが知られている。


このことからフォスファチジルセリンが老化予防のサプリとして売られている。


今日紹介するバージニア大学からの論文は、BAI1 や TIM4分子の細胞内シグナル経路をショートカットできるように遺伝子操作し、エフェロサイトーシスを高めることで、様々な炎症や組織障害を抑制するのに大きな効果があることを示した研究で、12月22日号 Cell に掲載された。


タイトルは「Chimeric efferocytic receptors improve apoptotic cell clearance and alleviate inflammation(エフェロサイトーシスに関わる受容体キメラは死細胞の除去を高め、炎症改善する)」だ。 この論文の筆頭及び責任著者は米国で活躍している森岡さんで日本の研究者だ。


この研究の発想は極めてストレートだ。BAI1 が貪食とそれに続く処理機能を誘導するためには、フォスファチジルセリンと結合した後、ELMO分子、Dock180、そして Rac1 とシグナルカスケードが続くが、この中で反応効率を左右する ELMO分子との相互作用をスキップして、直接 Dock180 を活性化したら、エフェロサイトーシスを高められるのではと着想した。


そこで ELMO の Dock180 結合領域を BAI1 の細胞内ドメインに直接結合させたキメラ分子を作成し、これを試験管内で細胞に導入するとふぁごサイトーシスをなんと5倍に高められること、そして細胞の貪食だけでなく、貪食した細胞の処理も上昇するという、願っても無い効果があることを確認している。


その後、生体内でこのキメラ蛋白が機能することをゼブラフィッシュで確認した後、細胞特異的に発現を誘導できる系を用いてトランスジェニックマウスを作成している。


そしてこのマウスを用いて、組織障害後に発生する 1)腸炎モデル、2)肝炎モデル、そして 3)腎炎モデルを用いて、キメラ分子が炎症を抑え修復を早める効果を確かめている。


全てのモデルで、組織内のエフェロサイトーシスが2−3倍に高まり、炎症性サイトカインの分泌を強く抑制、逆に炎症を抑える IL10のようなサイトカインの分泌を高められ、炎症を抑制できることを示している。


さらに、組織に存在する死細胞の数を調べると、キメラ分子を発現したマウスではほぼ完全に死細胞が覗けていることもわかった。


この驚くべき効果のメカニズムを探るべく遺伝子発現を調べ、炎症反応が抑えられるだけでなく、ERでの蛋白質分解処理を高めて ERストレスを抑えていることを明らかにしている。


すなわち、Rac1 によりアクチン系を活性化してファゴサイトーシスを高めた後、その細胞をスムースに処理するだけの細胞側の耐性が準備されていることを明らかにしている。


最後に、臨床応用を目指すため、BAI1 の代わりに TIM4 にELMO の Dock180結合部位を結合させた、少し小さな分子量のキメラ分子を作成、これをアデノウイルスに運ばせて、虚血による腎障害後の炎症を抑制できるか調べている。


クレアチニンの上昇や、死亡率で見ても明確な効果が見られており、この発見が臨床にも応用可能であることを示している。


以上、細胞死研究は我が国の強い分野だが、新しい世代もしっかり育っていることがよくわかった。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。