【2022年の締めくくり!】ティラノサウルスについてバズった2022年のネタの真実とウソを徹底解説!

2022.12.30

こんにちは!恐竜を研究する学問【古生物学】の普及活動や恐竜好きな方へのサポートを行っている「恐竜のお兄さん」加藤ひろしと申します。

前々回前回と【恐竜に関するSNSで広まった(バズった)ネタ】を紹介しましたが、ネタはまだまだ沢山あります!そしてやはりと言うべきか、最大級の肉食恐竜であるティラノサウルス・レックス Tyrannosaurus rexについては、今年だけでも2つの話題がバズりました。

 


そんな2022年も終わりが近いので、今回は【2022年の締めくくり!】ティラノサウルスについてバズった2022年のネタの真実とウソを徹底解説!と題して、今年2022年にSNSで広まった(バズった)ティラノサウルスの話題を取り上げながら「研究論文と照らし合わせると、どこまで正確な話なのか」を調べていきます!


「ティラノサウルスは3種いた」はウソ?ホント?


 生物の全世界共通の名称である学名。私達人間の学名はホモ・サピエンス Homo sapiensですが、もし「人間以外の生き物の学名を1つ挙げよ」という質問があれば、多くの人々はティラノサウルス・レックス Tyrannosaurus rex (短縮してT. rex)と答えるでしょう。少なくとも恐竜の中では一番、ひょっとしたらホモ・サピエンスよりも有名な学名かもしれません!
 そんなティラノサウルス・レックスについて、ティラノサウルス属はレックス種だけではなく他にもう2種、ティラノサウルス・インペラトル Tyrannosaurus imperatorティラノサウルス・レジナ Tyrannosaurus regina の3に分類される」とした研究論文(本文はこちら)が3月に出版され、このセンセーショナルな研究に関するニュースは日本でも大きく取り上げられた上にTwitterでもバズりました。

 

 しかしながらこの研究論文の内容を確認すると、ティラノサウルス・インペラトルとティラノサウルス・レジナの「種としての特徴」はかなり疑わしい物である事が分かります。この研究論文で述べられた、ティラノサウルス・インペラトルの特徴は[一般的にがっしりしていて、成体の大腿骨長/円周の割合は2.4かそれ以下; 大抵2本のほっそりした切歯状の前部歯骨歯を持つ]であり、一方のティラノサウルス・レジナの特徴は[一般的に華奢で、成体の大腿骨長/円周の割合は2.4以上; 大抵1本のほっそりした切歯状の前部歯骨歯を持つ]でした。歯骨歯はどこの歯かと言うと下顎の歯になります。因みにティラノサウルス・レックスの特徴は[一般的にがっしりしていて、成体の大腿骨長/円周の割合は2.4かそれ以下; 大抵1本のほっそりした切歯状の前部歯骨歯を持つ]とされました。
つまりこの研究論文では「ティラノサウルス属の3種それぞれの特徴は【がっしり型か華奢型か】、大腿骨、及び下顎の切歯状の歯の数に現れる」としています。

 「この程度の違いなら個体差で良いんじゃない?」と思われた方もいらっしゃるでしょうが、正にその通りです。まず、種の特徴を記載する文の中で「一般的に(generally)」と「大抵(usually)」が記述されているという事はそれぞれの種同士の特徴が重複するという事も示唆しますから、種内の個体差を考慮しても、種の記載として適切な記述ではありません。
また「ティラノサウルスには【がっしり型】と【華奢型】の二形が見られる」という事については1990年に研究論文が出版され、2001年2008年に追加の研究が行われましたが、ティラノサウルスの成長についての2020年の研究論文で「【がっしり型】と【華奢型】をはっきりと分ける事は出来ない」とされていました。
 そして、先述の2020年の研究論文を発表した研究者を筆頭著者とした、3種のティラノサウルス分類についての問題点を一つ一つ丁寧に指摘する反論コメントを載せた研究論文が7月に出版され、現時点では「ティラノサウルス属はやはりレックス種のみである」と考えられています

 得てしてそういうものですが、世間のイメージを覆す様な「意外な新発見!」を思わせる研究はバズりやすい一方で、「やっぱりそうだったんだ!」と思わせる様な研究も世間のイメージを覆す様な研究と同じ位に重要な物ですが、世間を驚かせる様な意外性は弱くなってしまうので拡散されにくいのかもしれません。こちらの反論コメントを載せた研究論文に関しての記事は日本で大きく取り上げられることはなく、Twitterで見る限りでも「バズり」とはほど遠い状態にあります。

 恐竜の分類については、今生きている動物とは違って遺伝子を利用した分類は使えず、骨(しかも全身の骨が発見される事は稀)の形態を利用した分類が行われている為、「恐竜の分類は、今生きている動物の分類とは違って制約だらけ」という事を改めて思い出させてくれるケースと言えるでしょう。

「ティラノサウルスは噛みつきの衝撃で目玉が飛び出す恐れがあった!?」はウソ?ホント?

 成体(大人)のティラノサウルスの噛む力については2012年の物2017年の物等の多くの研究論文が出版されており、その力の数値は3t以上になります。そんな成体のティラノサウルスが恐竜の中で一番強い噛む力を生み出せるのはバナナの様に太くて頑丈な歯」・「強力な顎の筋肉」・「噛む力の衝撃に耐えられる頑丈な頭骨」、この全てを備えていた為です。
 
 このネタの元となったのは、8月に出版された【恐竜、翼竜、ワニを含むグループである竜様類 Archosauromorpha の眼窩(目玉が入る穴)の形態の多様性】についての研究論文でした。恐竜の中でも肉食恐竜を含むグループである獣脚類の眼窩の形態については19982003年にも研究論文が出版されていましたが、この研究論文は研究対象を恐竜以外にも広めたものになり、それによると、ほとんどの植物食の主竜様類や小型の主竜様類、及び大型の主竜様類の幼体(子供)や亜成体(若者)の眼窩は円形でしたが、頭骨の長さが1mを超える大型で肉食の主竜様類、特に大型の肉食獣脚類の眼窩は楕円形か鍵穴状であった事が分かりました。
話を大型肉食獣脚類のティラノサウルスに戻しましょう。改めて成体のティラノサウルスの眼窩の形を見てみると、やはり鍵穴状になっています。実は、ティラノサウルスタルボサウルスゴルゴサウルスの成長についての研究論文によって「ティラノサウルス科の恐竜の眼窩の形は成長と共に円形から鍵穴状に変化する」事が分かっています(例外的にダスプレトサウルスの眼窩の形は楕円形に変化)。そして8月に出版された研究論文ではこのティラノサウルス科の成長に伴う眼窩の変化についてもコンピューターモデルによる解析や考察を行いました。

 

幼体(子供)のタルボサウルスの頭骨(筆者撮影) 骨同士が少しずれているものの、円形の眼窩に注目!

亜成体(若者)のティラノサウルスの頭骨レプリカ(筆者撮影) 円形の眼窩に注目!

成長したタルボサウルスの頭骨(筆者撮影) かなり歪んでいるものの、鍵穴状の眼窩に注目!

成体のティラノサウルス スーの頭骨レプリカ(筆者撮影) 鍵穴状の眼窩に注目!

 

 どのような解析かというと、成体のティラノサウルスの頭骨のコンピューターモデルを2つ(1つは鍵穴状の眼窩を持つそのままの頭骨のモデル、もう1つは幼い頃の様な円形の眼窩を持つ頭骨のモデル)作成し、物を噛む時に頭骨に掛かる力に対する強度を解析するというものです。そこから更にその2つのモデルの強度を比較したところ、そのままの形、つまり鍵穴状の眼窩を持つ頭骨のモデルの方が眼窩周りの強度が高かったのです。その解析からも「成体のティラノサウルスの眼窩が鍵穴状なのは、物を噛む時の衝撃を軽減させる働きがあった」と考察されました。正に、先述した肉食恐竜において強力な噛む力を生み出すのに必要な3つの組み合わせの内「噛む力の衝撃に耐えられる頑丈な頭骨」についての更なる研究と言えます。

 では、そんな頑丈な頭骨を持っていたにも関わらず、何故「ティラノサウルスは噛みつきの衝撃で目玉が飛び出す恐れがあった!?」という見出しがバズってしまったのでしょうか?情報源となった研究論文の中にも「目玉が飛び出す恐れがあった」という記述はどこにもありません。この見出しについては、前々回に取り上げた「ティラノサウルスは走れない」や前回の「トリケラトプスはいなかった」と同じく、恐らくは「話題性重視のネガティブな印象を与える表現が研究紹介で使われた」事例となるでしょう。

今回最初に取り上げた「3種のティラノサウルス」についての話題は、ネット上で拡散された研究の内容とその研究への反論を載せた論文があまり拡散されていない事を問題視していましたが、2つ目のこのネタについては、論文が日本語訳され紹介された一部の記事やツイートで明らかに間違った見出しが書かれていた、という点で違いが見られます。見出しのインパクトは確かに大切ですが、間違った見出しは研究紹介において考えものですね。

 

まとめ

 今年もそうでしたが、一年間の間には色々な恐竜ネタがバズります。恐竜は一つのコンテンツとして話題性や人気もありますが、研究が紹介される時には注意が必要です。同じ研究についての複数のニュースをチェックするのもオススメしますが、やはり【ホントかな?と思う気持ち】はとても大切です。
【恐竜を好きでいる気持ち】を持ちながら、研究に関するニュースを見た時には【ホントかな?と思う気持ち】の事も大切にしてみてくださいね!

【著者紹介】恐竜のお兄さん 加藤ひろし

恐竜についての難しい研究論文について、わかりやすく解説しています。
そのほかにも、動物園・博物館・恐竜イベント等をさらに楽しむ為に注目すべきポイントについて紹介します。幅広い知識を子供から大人まで、ご要望に応じた層に分かりやすく対応いたします!
出身地:東京都
誕生日:1993年10月28日
身長:167cm
資格:学芸員資格(博物館資料の収集・整理・保管・展示・調査など)
   大型特殊自動車免許(ブルドーザー・ショベルカー・クレーン・除雪車など)
   車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削)運転技能講習修了

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