GoT(Genotyping of transcriptomics)を用いた血液クローン増殖の解析(9月22日 Nature Genetics オンライン掲載論文)

2022.10.04

正常に見えても、高齢者の血液の中に、ガンで見られる体細胞突然変異が入ったために、完全に正常な細胞より少し増殖性が高くなって、PCR などでクローン性増殖が頻発することがわかってきた。


恐ろしいことに、このクローン増殖の程度は、強くその後の余命と関わっている。


これまでの研究で、様々な遺伝子がクローナル増殖に関わることがわかっているが、中でも DNA メチル化に関わる DNMT3A や TET の変異の頻度が高い。


これまで、これらの遺伝子変異とクローン増殖の関係は変異を誘導したモデル動物を用いた研究が中心だったが、Genotyping of transcriptomics (GoT) と呼ばれる方法が2019年に報告され、変異を持つ細胞を single cell level で特定して、他の single cell データと統合することが可能になり、人間の血液を用いて変異による細胞学的変化を特定できるようになった。


今日紹介するコーネル大学からの論文は GoT を開発したグループが、この方法を用いて、DNMT3A変異による細胞学的変化を解析した論文で、9月22日 Nature Genetics にオンライン掲載された。


タイトルは「Single-cell multi-omics of human clonal hematopoiesis reveals that DNMT3A R882 mutations perturb early progenitor states through selective hypomethylation(人間のクローン造血の単一細胞マルチオミックス形跡は、DNMT3A R882変異が未熟な前駆細胞を選択的低メチル化誘導により阻害することを明らかにした。)」だ。


Gotは2019年に発表されているのに全くキャッチできていなかった。


これはバーコードを付加して single cell RNAsequencing 様サンプルを作成した後、次にプライマーを代えて機能の知りたい突然変異を持つ遺伝子を PCR 増幅して、single cell RNA データとともに、特定の遺伝子の突然変異を正確に特定して重ね合わせることが出来る技術で、かなり役に立ちそうな気がする。


この方法で、DNMT3aのR882変異を持つクローン増殖を示す血液を用いて、R882の作用を調べたのがこの研究だ。


ただ、末梢血の分化しきった細胞では機能を調べるのが難しいので、患者さんに GCF を投与し、未熟細胞を末梢へと誘導した後の血液を使っている。


この結果、

  • 調べたケースでは、DNMT3a 変異は多能性幹細胞で既に起こっており、分化した細胞へと受け継がれている。

  • DNMT3a の変異があると、分化が白血球、巨核球へとバイアスがかかることが明らかになった。すなわち、メチル化の変化によりこの系統への分化が起こりやすくなっている。

  • 変異により、Myc とその標的遺伝子の発現変化を中心に、多くの遺伝子発現の変化が起こる。

  • DNAメチル化を single cell level で調べる方法に、single cell RNA seq と GoT を組みあわせ、ポリコム遺伝子を中心に選択的低メチル化が誘導され、これが転写に影響することが明らかになった。

  • DNMT3a 変異は CpGpT 配列のメチル化を低下させる。この配列は、MycやHIF などガン化に重要な遺伝子の結合配列に存在し、このメチル化が低下することが、これらの分子による増殖促進に関わる。

今日の論文紹介は、基本的に GoT についてなので、この程度の紹介で十分だろう。


体細胞突然変異による前がん状態からガンまでの過程を追いかけるかなり有望な方法になるように思う。Single cell RNAseqは様々な副産物を生んでいる。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。