蜘蛛の夢(8月8日 米国アカデミー紀要 掲載論文)

2022.09.14

昨日パーキンソン病を睡眠中の呼吸運動から診断するという論文を紹介した後、急に無脊椎動物は寝るのか?ということが気になって調べてみた。


結構多くの論文があり、節足動物はもとより、線虫やクラゲでも、それを眠りと呼んでいいのかわからないが、寝て休んでいるような状態があることは広く認められているようだ。


とはいえ、さすが夢を見ているかどうか調べた研究はないだろうと思って見てみると、なんと先月ワシントン大学の研究者が、米国アカデミー紀要に発表した、ハエトリグモのREM睡眠についての研究があったので紹介する。


タイトルは「Regularly occurring bouts of retinal movements suggest an REM sleep–like state in jumping spiders(定期的に起こる網膜が動く発作はハエトリグモのREM睡眠状態の存在を示唆する)」で、8月8日米国アカデミー紀要に掲載された。


夢の研究をする前に必要なのは、蜘蛛の睡眠だが、2021年このグループは蜘蛛が一本の糸で枝からぶら下がって、足を縮こめて寝るという行動を報告している。


ただ、寝ていると言っても外敵に備えているようで、振動を感じると必ず地上に落下する。一方、起きているとき振動を感じると、糸を伝って登る行動をとる。


この研究では、まだ色素が皮膚を覆っていない、若い蜘蛛を用いて、糸を伸ばして休んでいるときビデオ撮影を行い、4種類の目の中で大きな3種類について網膜の動きを追跡している。


我々と違って蜘蛛には眼球がないため、動眼筋肉で目の方向を決めるのではなく、網膜を動かせて見る方向を決めている。


さて結果だが、休息中は基本的に目は全く動かない。しかし、15−20分に1回、規則的に網膜が動くことが観察される。さらに、網膜が動くときに、足も発作的に動くことが観察された。


結果は以上で、休息中に網膜が規則的に動くことは、我々のREM睡眠と同じで、蜘蛛の休息も、non-REMとREMに分けることが出来ると結論している。


網膜の動きは若い蜘蛛でないと観察できないのだが、成熟個体でも睡眠中規則正しく手足縮める発作が見られることから、これがREM睡眠状態に対応すると結論している。


これが正しいとすると、線虫やショウジョウバエでも休息中にピクッと動くことが観察されているので、REM睡眠は多くの無脊椎動物で観察できるのかもしれない。とすると、蜘蛛の夢とは何かを明らかにするのが、次の課題になる。


以前紹介したように、マウスでも動眼運動の追跡から夢を解読できる可能性がある(https://aasj.jp/news/watch/20414)。おそらく蜘蛛の夢の解読は、もっと簡単ではないだろうか。


蜘蛛の夢が解読できれば、イグノーベル賞は間違いない。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。