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「クリオネオロジー(Clioneology)」という言葉を知っているだろうか?クリオネは結構メジャーな生き物なので知らない人はあまりいないと思うが、半透明の十字架みたいな形のプランクトンだ。クリオネオロジーは、「クリオネ(Clione)」と「~学」を意味する接尾語(-ology)を組み合わせた造語で、「クリオネ学」を意味する。つまり、クリオネ研究を表す言葉だ。X(旧Twitter)上で「クリオネオロジー」で2026年9月24日に検索してみたところヒットしなかったので、どうやらこの言葉でポストした人はまだいないようだ。ある意味最新の造語である。

私もマンボウ研究を表す言葉として、マンボロジーという造語を思い付いたことがあったが、似たようなセンスを持っている人がいるものだなと思い、気になった本があった。それが2025年に出版された『Clioneology(クリオネオロジー) クリオネのはなし 世界で初めてのクリオネ専門書』である。本書はその名の通り、クリオネに関する様々な知見を一般向けに解説した専門書だ。専門用語が出てきて少し難しい部分もあるが、専門用語の意味を分かりやすく解説してくれていたので、初めてクリオネのことを学ぶ人にも良い本だと私は感じた。ちなみに私はクリオネオロジー初心者である。

世界で初めてのクリオネ専門書と謳っているように、これまでクリオネオンリーの特化した本は出版されたことはなかったようだ。本書を読み始める際、まずは156ページに載っているクリオネ年表を見ることをおススメする。クリオネと人類の関わって来た歴史が短くまとめられていて、本の内容をざっくり俯瞰することができる。本書は全7章で構成されている。各章の内容を簡単に紹介すると、第1章はクリオネの分類と歴史について。第2章はクリオネの形態と生態について。第3章はクリオネと環境問題について。第4章はオホーツク海におけるクリオネについて。第5章はクリオネの採集方法と調査方法について。第6章は日本でクリオネが知れ渡ることになった経緯について。第7章はクリオネの芸術や啓発活動について。科学から芸術までクリオネについて幅広くトピックを取り揃えてある。種は違えど、私の著書『マンボウのひみつ』と同じニオイを感じた。私も初めてのマンボウ本を書く時、分類や形態を中心にして、幅広いマンボウのトピックを扱った。読者に基礎的な知見を押さえてもらいつつも、多様なマンボウの情報を知ってもらいたかったのだ。
本書の内容で私が面白いと感じたところをいくつか紹介したい。クリオネClioneという名前は実は和名ではなく、属名を表す学名だ。そのままの学名読みすればクリオネ属となるが、クリオネという学名に対する和名は「ハダカカメガイ」という名が与えられているので、和名にするとClione=ハダカカメガイ属になる。ハダカカメガイは種名でもあり、ハダカカメガイ科ハダカカメガイ属ハダカカメガイClione elegantissimaという種がいる。なので、クリオネは単体の種を指す名前ではなく、厳密にはハダカカメガイ属の総称なのだ。ハダカカメガイという和名よりクリオネという属名の方が一般名として普及しているのはなかなか珍しい。本書では種に焦点を当てる時以外は基本的にクリオネという総称を用いて話を進めている。うーむ、この使い分けができるのは結構羨ましい。私の研究対象の場合、「マンボウ」という名前はマンボウ科マンボウ属マンボウMola molaという種を指す場合と、マンボウ属もしくはマンボウ科の総称を指す場合があり、一般的にごちゃ混ぜにして使われている。種を指す場合をマンボウ、総称を指す場合をモラと使い分けてもいいのだが、クリオネのような名前の普及は今更難しいと思う。むむむ。
クリオネ、つまりハダカカメガイ属内には現在5種が有効種として認められている。本書ではナンキョクハダカカメガイ、ハダカカメガイ、ダイオウハダカカメガイ、ダルマハダカカメガイの4種の和名が紹介され、あと1種は新種として現在論文投稿中と書かれていた。この新種はその後、論文が出版され、2026年3月にはニホンハダカカメガイと標準和名が提唱された。それにしてもクリオネの分布は結構不思議だ。見事なまでに北方と南方の極域周辺の冷たい海域にしかいない。クリオネ5種の内、4種が北半球のだいたい日本以北、1種が南半球の南極海に分布。南極海は調査が十分ではないため、クリオネの新種が今後見付かる可能性もあるようだ。クリオネは真ん中の温帯・熱帯海域には分布せず、同じ属の生物が北方と南方の極域に生息しているというのはどういう進化の道筋を辿ったのか……非常に興味をそそられる。マンボウは世界中の広い範囲に分布しているが冷たい海域にはあまりいないので、時期的にもクリオネを食べている可能性はかなり低いと思う。しかし、地理的には分布が重なっているところもあるので、クリオネを食べたマンボウがいたとしてもおかしくはない。海洋生態系の中でクリオネとマンボウも少しは繋がっている……かもしれない。
2021年1月、私はスーパーで生きているクリオネが入った瓶が売られているのを見て驚いたことがあった。北海道産と書かれていた。本書やニュースによると、北海道近海に分布しているクリオネはハダカカメガイ、ダルマハダカカメガイ、ニホンハダカカメガイの3種。ダルマハダカカメガイやニホンハダカカメガイは体全体が赤みやオレンジ色を帯びているとのこと。分かりづらいが写真の瓶詰のクリオネは胴体に半透明な部分があるように見えるので、ダルマハダカカメガイやニホンハダカカメガイの特徴とは一致しない。そうなると、この瓶詰のクリオネはおそらくハダカカメガイだ! 深入りするつもりはないが、クリオネも知識が増えると面白く感じてくる。

本記事で紹介した内容はクリオネオロジーのまだまだ浅い部分だ。本書にはクリオネのもっとディープな内容が書かれている。それこそクリオネが好きというだけで共著者に入っている気象予報士もいるくらい、本書はクリオネ愛に溢れていてアツい。気になった方は是非一度クリオネオロジーに触れてみて欲しい。
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