ヒト原腸陥入期を試験管内で再現する(6月24日Cell オンライン掲載論文)

2026.07.15

図はGPTが提案する原条が形成される前のヒト胚の構造で、次の段階で図右の平べったいエピブラストに細長い窪み、原条が現れる。この原腸陥入時期に複雑な胎児構造の基本が形成される。

 

本日紹介する論文

今日紹介する北京農業大学と中国科学アカデミー動物学研究所からの論文は、この過程をできるだけ忠実に試験管内で再現する方法を模索した力作で、6月24日に Cell にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Reconstituting human primitive streak formation through extra-embryonic cell coordination(胚外細胞の協調を通してヒト原条形成を再現する)」だ。

 

解説と考察

ヒト胚の原腸陥入はマウスとは大きく異なり、誤解を恐れず印象を述べるとニワトリの原腸陥入期に近い。図に示した胚を形成するエピブラストは胚盤を形成しており、中胚葉が発生し複雑な胎児構造が形成される。図には示されていないが、この時期にはヒポブラストから卵黄嚢へ移動した胚外中胚葉も存在する。即ち、胚盤胞からの原条及び中胚葉形成は、基本的にこれら4種類の細胞の相互作用で進むことがわかる。

 

そこで、エピブラストの代わりにES細胞を使い、胚由来の羊膜細胞、及びトロフォブラストとともに培養して、原条マーカーであるT遺伝子発現を調べると、羊膜細胞のみが強い中胚葉誘導能を持っており、逆にトロフォブラストはそれを抑制する活性があることがわかった。

 

次に、胚外中胚葉の役割を調べるため、胚外中胚葉の長期培養方法を確立した後、ES細胞と共培養する実験系で、胚外中胚葉は原条から由来する中胚葉を惹きつける働きがあることを確認している。そして、それぞれの相互作用により誘導される分化細胞が、胚に存在する細胞とほとんど同じであることを single cell RNA sequencing で確認した後、胚盤の原条形成を再現する実験システムの構築に進んでいる。

 

この実験系では、長期培養が可能なES細胞の回りにトロフォブラスト細胞、そして胚外中胚葉を配置し、その上にこれは胚由来の羊膜細胞を貼り付けたトランスウェルをかぶせている。それ以外に全く増殖因子などは加えていない。すると24時間ぐらいから美しい原条が形成され、T遺伝子の発現が誘導されていること、また原条から中胚葉がこぼれて、胚外中胚葉の方へ惹きつけられることを明らかにする。そして、この系で発生する様々な細胞はほとんど実際の胚に存在する細胞と同じであることを single cell 解析で確認している。

 

最後にこうして発生した原条を含む細胞をシャーレから剥がして浮遊培養に移すと、神経間などの次の段階の発生とともに、前後軸、背腹軸を持つ胚様構造が出来ることも示している。

 

まとめと感想

以上が結果で、オーソドックスな発生学の課題を解決しながら、試験管内でヒトの初期胚発生を再現しようする強い意志とプロの技が感じられる、試験管内発生学の鏡とも言える研究で、本当に感心した。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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