著者紹介:西川 伸一
京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。
【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。
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CONTENTS
本日紹介する論文
パーキンソン病を始め、レビー小体認知症そして多系統萎縮とシヌクレインの凝集による神経変性疾患の表現は複雑だが、今日紹介する上海復旦大学、上海交通大学、そして中国アカデミーの有機化学研究所からの論文を読むまで、もう一つの分子オリゴデンドロサイトにより合成されるTPPP/p25と呼ばれる微小管結合タンパク質が、シヌクレイン症で問題になっていたことは全く知らなかった。この分子は、レビー小体、多系統萎縮ではグリア細胞封入体にシヌクレインと共凝縮していることが知られている。論文は5月26日 Cell にオンライン掲載され、
タイトルは「TPPP/p25 amyloid seeding activity as a specific biomarker for multiple system atrophy(TPPP/p25アミロイドのシード活性は多系統萎縮特異的マーカーになる)」だ。
解説と考察
TPPP/p25はそれ自体で繊維状に凝集することが知られている。研究では、まずどの部分が凝集に関わるか、ドメン除去などの実験を繰り返して、最終的に中央部のコア部分が凝集に関わることを特定する。即ち、他の部分はコア部分の凝集を抑える役割がある事を示唆しており、構造解析などの結果からN末端やC末端の構造が凝集を防ぐ役割を持っていることを明らかにする。
次にパーキンソン病の患者さんで特定された119番目のアラニンがバリンに変わった変異タンパク質を比べると、このコア部分の変異により、プロテクトする領域があるにもかかわらず凝集能力が高まる。変異タンパク質も加えたクライオ電顕構造解析から、コアタンパク質が凝集するのに必要な複雑な構造変化を明らかにしている。
これらの知見に基づいて、凝集しやすいコア部分をシードとするTPPP/p25の凝集を誘導するアッセイシステムを開発し、これを用いてコホート研究で蓄積された脊髄液の凝集されやすさを測定している。すると驚いたことに、多系統萎縮の脳脊髄液だけが、コントロールと比べシードに反応して凝集しやすい。同じシヌクレイン症でしかもレビー小体にはTPPP/p25も共沈殿しているのに、パーキンソン病やレビー小体認知症では、他のコントロールと同じで凝集誘導されるのに時間がかかる。
まとめと感想
結果は以上で、地道にTPPP/p25の繊維状凝集過程を探る中で、シヌクレインと別に多系統萎縮と、他のシヌクレイン症との違いを決めている新しいメカニズムにたどり着いたことになる。残念ながら、何故このような現象が起こったのかについては全く不明だ。しかし、おもしろい手がかりが見つかったことは間違いない。