ゾウと糞虫(5月28日号 Science 掲載論文)

2026.06.16

大型哺乳類が常に絶滅の危機に瀕していることは疑う人はいない。ただ、一つの腫が絶滅することが、哺乳動物から昆虫、そして植物まで大きな影響がある。これを丹念に調べることは時間と人手と金がかかる大変な仕事だ。おそらく、トランプの科学研究費カットで最も大きな影響を受けているのではと推察する。

 

本日紹介する論文

今日紹介するプリンストン大学からの論文は、主にケニアを中心に、特にゾウの減少が動物の糞に依存して棲息している甲虫を絶滅に追いやるかについて調べた研究で、5月28日号 Science に掲載された。

 

タイトルは「Importance of elephants for dung beetle biodiversity and ecosystem functions(糞虫の生物多様性と環境での機能にゾウは重要な位置を占める)」だ。

 

解説と考察

糞虫の中でも有名なのは、ファーブルによって記述されたフンコロガシ (tunneler) だろう。しかし、糞虫には糞の中に卵を産んで幼虫を育てる dweller や、糞をそのまま埋めて処理する roller 等様々な種類が存在する。この研究ではこれらの糞虫がどの動物の糞の中に存在するのかを、ケニアのフィールドで詳しく調査し、最も多くの糞虫がゾウの糞をベースに棲息していることがわかる。おもしろいのは、このフィールドで次に糞虫の多いのがシマウマだが、その次が人間で、どのように人間の糞がこのフィールドで生産され、糞虫を支えているのか興味がわく。

 

次に、ではゾウの糞に棲息する糞虫は他の糞では棲息できないのかを調べると、かなりの腫が他の糞でもなんとか間に合わせられる。とは言え、これらの腫は基本的にゾウの糞に惹かれる。これらの生態的結果を基に、理論的シミュレーションを行い、個々の哺乳動物腫の減少と、糞虫の減少を計算すると、糞虫の生息数に最も影響するのがゾウの減少である事が確認される。

 

このような生態観察に基づくシミュレーション研究は数多くあるが、この研究の特徴は、この領域にそれぞれ1万平方メートルの完全に哺乳動物を除外したフィールド、ゾウを除外したフィールド、全く動物を除外しないフィールドを作って、15年後の糞虫の生息数や種類を調べるという大変な実験を行っている。結果はシミュレーション通りで、ゾウが除外されると糞虫の生息数は大きく減少する。中でも、糞の中に卵を産み付ける Dweller の影響が大きい。また、完全に動物をブロックした場合とゾウだけブロックした場合も、そう違いがないので、ゾウの糞が如何に重要かがわかる。しかし、これを調べるため15年も待ち続けたのは頭が下がる。

 

しかしこのフィールドのおかげで、ゾウの糞の個々の種レベルの影響がわかる。ゾウがいる場所で当然ゾウに親和性の高い糞虫が増えているが、これがゾウの侵入を防ぐと急減する。そして、この影響をそれぞれの種でプロットできる。

 

最後に、これらの種が糞の処理というエコシステムにも重要な影響があることを、どの程度の糞が地上から処理されたかを実際に調べて検証している。結果は予想通りで、このような糞虫のおかげで処理が進んでいるのだが、ゾウを減らすと糞も減ると思いきや、逆にゾウを減らすと全体の糞の処理が大きく低下したことも示している。

 

まとめと感想

以上が結果で、生態、シミュレーション、そして実際の大規模実験を組み合わせて大型哺乳動物と糞虫の関係、及び絶滅危機に関する重要なデータを生み出している。例えば、フンコロガシなどは糞を処理することで、Dweller の競争相手になるし、元々他の動物の糞でもなんとか間に合わせられる。なのに、このような結果が出たことは重要で、さらに生態を突き詰めたおもしろい研究が可能になるだろう。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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