【新論文解説】市民科学で真相に迫る! アラスカ~バハ・カリフォルニア半島海域で記録されたマンボウ類

2025.09.02

海外マンボウ類情報について解説!

海外のマンボウ類の情報について、日本人が調べることはほとんどないだろう。そこで今回は2025年に出版された新しい論文を私の見解と共に解説しようと思う。今回取り上げる論文は、参考文献にあげたMowatt-Larssen et al. (2025)である。この論文を一言で言うと、生き物系の写真投稿サイトに一般人から投稿されたマンボウ科の写真を種同定して、太平洋北東部海域(アラスカ~バハ・カリフォルニア半島)に出現するマンボウ類(マンボウ属がメインターゲット)の種構造に迫った、という内容だ。海外は日本と違い、マンボウ類を基本的に食べないので、積極的には分類学的な調査はされず、未だにマンボウMola molaのみが出現するとされている地域は多い。この論文もそうだが、実際に調べ直してみると、マンボウ以外のマンボウ属の種も実はいたという話である。

この論文では、アラスカ~バハ・カリフォルニア半島の広い海域で撮影されたマンボウ類のメディア(写真、動画)について、主にiNaturalist、あと様々な伝手で収集された。iNaturalistを簡単に言うと、自然科学に貢献できる世界規模の生き物系写真投稿サイトだ。iNaturalistは世界中の生物系研究者も結構多く登録していて、投稿された写真について登録者と議論しながら種同定まで行うことができ(分類形質がよく分からない場合、属レベルや科レベルで止まることもある)、論文等にデータを引用することも可能で(写真の転載は投稿者に連絡する必要あり?)、特定の種について広範囲の分布情報を得ることができるクラウドソーシングメディアだ。日本でいうなら、WEB魚図鑑などのサイトに似ているが、iNaturalistの方がより学術的だ。

 

少し話は逸れたが、この論文で様々な伝手で収集できたマンボウ類のメディアは、合計1213個体であった。種同定は外部形態からマンボウ類を識別できる2人で写真をそれぞれ同定し、2人の意見が不一致だった場合、3人目の同定者に委ね、多数決の多い方に決定した。1213個体のうち、種レベルまで同定できたのが471個体(マンボウ423個体、カクレマンボウ45個体、ウシマンボウ2個体、クサビフグ1個体)、マンボウ属レベルまでが648個体、マンボウ属もしくはヤリマンボウという判定が83個体だった。重複したものや飼育下のもの、クサビフグなどは本研究から除外。

体サイズは画像上での全長と全高のアスペクト比から推定し、推定全長1m以下と推定全長1m以上に大きく二分した。また、マンボウ類の分布について、北緯43度を境にしてアラスカ海流系(北)とカリフォルニア海流系(南)に大きく二分した。1213個体のうち、場所とサイズの推定ができたマンボウ類が1178個体[推定全長1m以上が592個体(うち369個体は種レベル(マンボウ322個体、カクレマンボウ45個体、ウシマンボウ2個体)、187個体がマンボウ属レベル、36個体がマンボウ科レベル);推定全長1m以下が586個体(うち94個体はマンボウ、455個体はマンボウ属レベル、37個体はマンボウ科レベル)]だった。推定全長1m以下の個体は、種同定できる分類形質が未発達で、写真からの種同定は難しいことが窺える。種同定できたマンボウ属に焦点を当てると、圧倒的にマンボウの出現が多く、次いでカクレマンボウ、最後にウシマンボウだった。カクレマンボウのこの海域での出現はLove et al. (2021)によって既にアメリカのアラスカ州コディアック島~アメリカのサンタバーバラ郡のコール・オイル・ポイントまでの範囲と報告されていたが、この論文ではこの海域からのカクレマンボウ6個体のDNA解析が行われ、遺伝的にも明確に出現が確認された。一方、ウシマンボウはLove et al. (2021)にもリストされておらず、これまでこの海域からの記録はなく、太平洋北東部海域で初記録となった。このように、ちゃんと調べてみると、数は少ないなりにマンボウ以外のマンボウ属も出現していたのである。

論文からの情報を基に私がGoogle地図に記した上の図を見て欲しい。イメージが湧きやすいように白い点線でこの論文の調査範囲の北限と南限を示し、白い点線は日本近海側まで伸ばしたが、日本よりも遙かに広い海域の調査であった。一般的に南半球の種と考えられてきたカクレマンボウがまさかアラスカまで出現していたとは非常に驚きで、緯度的に考えると日本近海でカクレマンボウが見付かってもおかしくなさそうだが、不思議なことに、現状日本近海からのカクレマンボウの出現情報は皆無、ゼロだ!

 上述したようにこの論文ではミトコンドリアDNAのCO1領域で、この海域産の形態的にカクレマンボウと同定された6個体(カリフォルニア州から4個体、アラスカ州から2個体)のDNA解析も行われたのだが、先行研究の南半球の個体と入れ子状態で、カリフォルニア産の個体がペルー産の個体と系統的に近いなど不思議な感じもするが、カクレマンボウのクレードに入ることは確実に確かめられた。なので、カクレマンボウは北半球と南半球で別の遺伝的な集団に分かれる感じでもないようだ。カクレマンボウは南半球に広く分布している一方、日本近海では全く見付からないように北半球では一部の海域でしか見付かっていないことから、おそらく北半球に分布拡大しているのだと推察された。しかし、カクレマンボウは南半球では主に温帯域に分布し、熱帯域では見付からないことから、どうやって赤道を越えて北半球に進出してきたのかはよく分からない。等温潜水(海面が熱くても深く潜れば赤道も冷たいので、潜って赤道を越える可能性)もしくは熱帯域の水温が低下する現象(ラニーニャなど)が起きた時に進出してきた可能性が推察された……が、詳しいところは今後の研究に委ねられている。

興味深いことに、この論文でDNAサンプルが取られたカクレマンボウ6個体(うち計測された5個体の全長範囲は168-205 cm)はすべてメスであった。また、アラスカ海流系のマンボウ類の種構成とカリフォルニア海流系のマンボウ類の種構成を比較すると、アラスカ海流系でカクレマンボウが占める種構成の割合はカリフォルニア海流系よりも少し高かった(つまり、北方にいくほどカクレマンボウの出現率が少し高くなる)。この論文ではアラスカ海流系でカクレマンボウの出現率が上がりマンボウの出現率が下がることについて(ただし研究バイアスの結果こうなった可能性も示唆)、2種の間で好む水温、生息地、食性、採餌行動が異なる可能性が推察された。推定全長1m以上のマンボウとカクレマンボウの行動が異なる可能性は、カクレマンボウが海面で遭遇する確率がマンボウより低いことからも示唆される(つまりカクレマンボウはこの海域ではあまり昼寝行動をしない可能性)。

2海流系の比較において、この論文ではもう一つ興味深いデータが示されている。科レベルの集団で捉えた場合、アラスカ海流系のマンボウ類は、カリフォルニア海流系のマンボウ類より体サイズが大きく、マンボウ類は成長と共に北方へと生息地を拡大させ、行動が変わる可能性が示唆された推定全長1m以下のマンボウ類はカリフォルニア州の中部沿岸で遭遇率が高いことから生育場として機能していることが推察された一方、カクレマンボウにおいては体サイズが大きいのでカリフォルニア海流系が生育場として機能しているかどうかは不明とした。この論文では明確に書いていないが、種同定された推定全長1m以下の個体はすべてマンボウであり、マンボウのみに焦点を当てても、大型個体ほど北方に進出していると言えそうだ。

この論文では澤井ら(2011)は引用されていないが、実はこれと同じ現象が確認されている。澤井ら(2011)では、三陸海域において、マンボウとウシマンボウを完全に識別し、ほぼ全個体の全長を計測して様々な比較を行った結果、マンボウは大型個体ほど先に三陸海域に来遊し、その後入れ替わるように小型個体の来遊が増え大型個体がみられなくなった。これは、マンボウは大型個体ほど冷たい海域を好むor進出することを示している。太平洋北西部で見られた現象が太平洋北東部でも観察されたことは、海域に関係無く、マンボウは成長にしたがって、より冷たい海域に進出するのだろう、と私は思った。

 アラスカ~バハ・カリフォルニア半島はマンボウ類を食べる地域ではないので、マンボウ類が漁獲されても海に戻されるため、形態や生態の研究が難しい。クラウドソーシングメディアを活用して市民科学でマンボウ類の謎に迫るのは良い試みだ。今後も継続的な調査が望まれる。

 

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