触れるだけで微小な音や振動を検出できる超広帯域センサ(1Hz以下~300kHz以上)

2024.08.08 By 埼玉大学

数理科学

技術概要

 疎水性のフッ素樹脂層表面に孤立したシリカ凝集体を形成することで,耐熱性および耐リフロー性に優れるエレクレットを製造できる。このシリカ凝集体エレクレットは,センサとしたときにギャップ部のスペーサとしても用いることで,広帯域のAEセンサを製造できる。

用途・応用

音響,超音波,振動,AEセンサ

背景

帯電された電荷を半永久的に保持し続けるエレクトレットは、ECMを始めとして、超
音波センサ、加速度センサ、地震計、発電素子、エレクトレットフィルターなどに広く用
いられている。図24は、ECMの構造の一例を示している。このECMは、音圧で振動
する振動電極10と、スペーサリング14で保持されるギャップを介して振動電極10に
対向するエレクトレットフィルム11と、エレクトレットフィルム11の背面に固定され
た背面電極12と、背面電極12から出力される信号を増幅するFET13と、振動電極
10と電気的に接続する金属ケース15とを備えている。

 なお、本明細書では、図24に示されたようなエレクトレットフィルム11と、それに
一体化された背面電極12との構造体及びこれに類似の構造体を「エレクトレット構体」
と称する。

 エレクトレットフィルム11及び背面電極12には、振動電極10の振動を抑制しない
ように、ギャップ空間に通じる孔16a,16bが設けられている。又、金属ケース15
は接地され、FET13を駆動する直流電源Eが抵抗Rと共に外付けされている。FET
13のゲート電極は背面電極12に接続し、ソース電極は金属ケース15を通じて接地さ
れ、増幅された音声信号を出力するドレイン電極は、結合容量Cを介して外部機器に接続
している。エレクトレットフィルム11には、高い電荷保持特性を持つフッ素樹脂のフィ
ルムが広く用いられている。代表的なエレクトレット材料としてポリテトラフルオロエチ
レン(PTFE)、パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオ
ロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエ
チレン(PCTFE)などのフッ素樹脂が挙げられる。

 このECMの製造過程で、背面電極12を取り付けたエレクトレットフィルム11に対
し、コロナ放電やプラズマ放電により負電荷が注入される。この負電荷は、エレクトレットフィルム11の表面や内部にトラップされ、エレクトレットフィルム11は、この負電
荷を保持し続ける。エレクトレットフィルム11にトラップされた負電荷から電界が生じ
るため、振動電極10及び背面電極12により、外部からのバイアス電圧の印加を必要と
しないコンデンサが形成される。振動電極10が音圧で振動すると、このコンデンサの静
電容量が変化し、それによって生ずる振動電極10と背面電極12との間の電圧変化がF
ET13で増幅されて外部に出力されることで、音声信号を電気信号として取り出すこと
ができる。

 しかし、エレクトレット材料としてフッ素樹脂フィルムを使用したECMは、基板への
実装に際して、Pbフリー半田を用いたリフローが実施できない、と言う欠点がある。図
25は、携帯電話等の基板に部品を実装する際に用いられるリフローの温度プロファイル
の一例を示している。近年、有害物質除去の観点からPbフリー半田を用いたリフローが
行われているが、この場合、実装部品は、リフロー過程で、217〜260℃に30〜6
0秒程度保持され、260℃において5〜10秒程度加熱される。フッ素樹脂フィルムは
、このように250℃を超える高温に晒されると、トラップしていた負電荷を保持するこ
とができず、その多くが失われる。

 このフッ素樹脂の高温における電荷保持率の低下を抑えるため、放射線を照射してフッ
素樹脂を改質したり(特許文献1参照。)、フッ素樹脂に無機微粒子を含めたりする(特
許文献2参照。)試みが行われている。又、フッ素樹脂に代えて、高温でも良好な帯電安
定性を有するシリコン酸化膜をエレクトレット材料に用いたECMも提案されている(特
許文献3参照。)。なお、本発明の発明者は、先に、背面電極を下面に有するエレクトレ
ット層の上面にエレクトレット絶縁層を接合し、振動電極の下面に振動電極絶縁フィルム
を設け、エレクトレット絶縁層と振動電極絶縁フィルムとの間に粒径が10nm〜40μ
mの絶縁体の微粒子をスペーサとして介在させた機械電気変換素子を提案している(特許
文献4参照。)。

 エレクトレットフィルム11の電荷保持率は、高温時に、次のような原因で低下する。
図26に示すように、エレクトレット構体1pを構成するエレクトレットフィルム11に
トラップされた負電荷aは、高温時に、エレクトレットフィルム11の欠陥準位を経由し
て、その一部がエレクトレットフィルム11の表面方向に拡散し、電荷保持率が低下する
。又、トラップされた負電荷aの他の一部は、高温時に、エレクトレットフィルム11の
欠陥準位を経由して、エレクトレットフィルム11の厚さ方向に拡散する。一方、背面電
極12に誘起された正電荷bは、背面電極12とエレクトレットフィルム11との界面欠
陥(又は背面電極12の表面粗さに起因する電界集中部)からエレクトレットフィルム1
1に注入され、厚さ方向に拡散する。拡散した負電荷と正電荷とが結合すると、負電荷は
消滅し、電荷保持率が低下する。

 又、特許文献3には、従来のシリコン酸化膜エレクトレットについて、耐湿特性が大き
く低下し、実用に耐えない、と記載されている。これは、親水性が高いシリカの性質が影
響している。空気中の水分は、親水性が高いシリコン酸化膜に吸着され、この吸着水を介
して電極の正電荷がシリコン酸化膜の表面を経由して拡散し、負電荷と結合して負電荷が
消滅する。
【先行技術文献】
【特許文献】

【特許文献1】特開2006−287279号公報
【特許文献2】特開2009−253050号公報
【特許文献3】特開2002−33241号公報
【特許文献4】国際公開第2009/125773号パンフレット

課題

本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、高温でも高い電荷保持率を維
持できる新たなエレクトレット構体、このエレクトレット構体の製造方法、さらに、この
エレクトレット構体を用いた静電誘導型変換素子を提供することを目的としている。

手段

本発明の第1の態様は、フッ素樹脂フィルムと、フッ素樹脂フィルムの一方の面に形成
された電極と、フッ素樹脂フィルムの他方の面に形成されたシリカ(酸化ケイ素、SiO
x 、x=1〜2)層とを有するエレクトレット構体であることを要旨とする。本発明の第
1の態様に係るエレクトレット構体のシリカ層は、互いに孤立した状態でフッ素樹脂フィ
ルムを被覆する複数の島状シリカ領域からなり、この島状シリカ領域に負電荷が付着され
ている。ここで、第1の態様に係るエレクトレット構体の「電極」とは、例えば、本発明
のエレクトレット構体をエレクトレットコンデンサマイクロフォン(ECM)に適用した
場合には、ECMの「背面電極」又は「振動電極」のいずれか一方の、エレクトレット構
体を構成する側の電極が対応する。

 コロナ放電やプラズマ放電により島状シリカ領域に注入された負電荷は島状シリカ領域
の深いトラップ準位に固定されるため、リフロー処理温度においても、負電荷がフッ素樹
脂フィルムに拡散することはない。その結果、図26に示す負電荷の表面及び厚さ方向へ
の拡散が発生しない。そのため、島状シリカ領域で保持された負電荷の消失は、電極から
拡散する正電荷(正孔)との結合による消失だけとなり、高温時の電荷保持特性が向上す
る。さらに、島状シリカ領域は、表面抵抗が高いフッ素樹脂フィルム上で各々が孤立して
いるため、室温において、図26に示す負電荷の表面方向への拡散は殆ど発生せず、又、
室温における電極からの正電荷の拡散は、フッ素樹脂フィルムにより遮られる。そのため
、高湿下においても島状シリカ領域の吸着水による耐湿特性の低下は生じない。

 本発明の第2の態様は、第1の態様で説明したフッ素樹脂フィルムと、フッ素樹脂フィ
ルムの一方の面に形成された電極と、フッ素樹脂フィルムの他方の面に形成されたシリカ
層とを有するエレクトレット構体の製造方法に関する。第2の態様に係るエレクトレット
構体の製造方法は、非晶質シリカの微粒子が溶媒に分散してなるシリカゾルをフッ素樹脂
フィルムの他方の面に吹き付けて、複数の島状シリカ領域を互いに孤立した状態で他方の
面上に形成し、複数の島状シリカ領域によってシリカ層を形成し、島状シリカ領域に負電
荷が付着させることを含むエレクトレット構体の製造方法であることを要旨とする。

 本発明の第3の態様は、第1の態様で説明したフッ素樹脂フィルムと、フッ素樹脂フィ
ルムの一方の面に形成された電極と、フッ素樹脂フィルムの他方の面に形成されたシリカ
層とを有するエレクトレット構体の製造方法の製造方法に関する。第3の態様に係るエレ
クトレット構体の製造方法は、物理的気相堆積(PVD)又は化学的気相堆積(CVD)
により非晶質シリカ又は多結晶シリカの薄膜からなる複数の島状シリカ領域をフッ素樹脂
フィルムの他方の面上に互いに孤立した状態で形成し、複数の島状シリカ領域によってシ
リカ層を形成し、島状シリカ領域に負電荷が付着させることを含むエレクトレット構体の
製造方法であることを要旨とする。

 本発明の第4の態様は、第1の態様で説明したフッ素樹脂フィルムと、フッ素樹脂フィ
ルムの一方の面に形成されたシリカ層と、フッ素樹脂フィルムの他方の面に形成された電
極とを有するエレクトレット構体の製造方法の製造方法に関する。第4の態様に係るエレ
クトレット構体の製造方法は、フッ素樹脂フィルムの一方の面にシリカ層を構成する複数
の島状シリカ領域を互いに孤立した状態で形成し、その後、フッ素樹脂フィルムの他方の面に電極を溶着で形成するときに、同時に、島状シリカ領域への負電荷の付与を行うこと
を含むエレクトレット構体の製造方法であることを要旨とする。

 本発明の第5の態様は、フッ素樹脂フィルムと、フッ素樹脂フィルムの一方の面に形成
された背面電極と、フッ素樹脂フィルムの他方の面に形成されたシリカ層と、フッ素樹脂
フィルムの他方の面上のシリカ層に対向して配置された振動電極と、この振動電極のシリ
カ層への対向面に設けられた絶縁層と、を備える静電誘導型変換素子であることを要旨と
する。第5の態様に係る静電誘導型変換素子のシリカ層は、互いに孤立した状態でフッ素
樹脂フィルムを被覆する複数の島状シリカ領域からなり、島状シリカ領域に負電荷が付着
されている。第5の態様に係る静電誘導型変換素子では、音圧で振動電極が振動し、振動
電極側の絶縁層が島状シリカ領域に接触した場合でも、島状シリカ領域の深いトラップ準
位に付着した負電荷は絶縁層に拡散せず、ECMの劣化が回避できる。そのため、ECM
の最大許容音圧を大幅に向上させることができる。

 本発明の第6の態様は、フッ素樹脂フィルムと、フッ素樹脂フィルムの一方の面に形成
された背面電極と、フッ素樹脂フィルムの他方の面に形成されたシリカ層と、フッ素樹脂
フィルムの他方の面上のシリカ層に対向して配置された振動電極と、を備える静電誘導型
変換素子であることを要旨とする。第6の態様に係る静電誘導型変換素子のシリカ層は、
互いに孤立した状態でフッ素樹脂フィルムを被覆する複数の島状シリカ領域からなり、こ
の複数の島状シリカ領域のフッ素樹脂フィルム上での分布密度が、振動電極の周辺部に対
向する領域で高く、振動電極の中央部に対向する領域で低いことを特徴とする。第6の態
様に係る静電誘導型変換素子における島状シリカ領域の配置は、インクジェットプリンテ
ィングやスクリーン印刷で任意に設定することができる。周辺部の島状シリカ領域の面密
度を高めると、周辺部の電界が中心部よりも高くなるため、ECMの有効エリアが振動電
極の周辺部にまで広がり、静電容量の変化が増大する。その結果、ノイズの低減や感度の
向上が可能になる。

効果

 本発明によれば、高温でも高い電荷保持率を維持できる新たなエレクトレット構体、こ
のエレクトレット構体の製造方法、さらに、このエレクトレット構体を用いた静電誘導型
変換素子が提供できる。

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特許情報

特許第6214054号

JPB 006214054-000000