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愛とは一体どのような感情なのだろうか。愛と一言で言ってもその姿は様々である。恋愛初期の燃えるような感情も愛であるし、子供に向ける温かな気持ちも愛である。愛の違いは脳科学的にはどのように説明できるのだろうか。脳の働きに大きく作用するものとしてホルモンがある。よく聞くドーパミンやセロトニンと呼ばれる生理活性物質である。今回の記事では、このホルモンと愛の関わりについて深堀りしてみたい。
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ホルモンの話に入る前に、まず愛とは何かについて整理してみたい。これについては様々な理論があるが、その中でも有名なものに、愛を魅了、性欲、愛着の3つの要素で説明するものがある。進化心理学的に考えた場合、愛の効用は子孫を増やすことにある。子孫を増やすためには、パートナーを射止め、生殖し、子供を育てる必要がある。そこで必要なのが、魅了、性欲、愛着の3つであるというのだ(Fisherら, 1998年)。
魅了とは相手に夢中になる心持ちである。恋に落ちると居ても立ってもいられない気持ちになる。四六時中相手のことばかりを考えるようになり、どんなに遠く離れていても飛んで駆けつけるような心持ちになる。この心持ちがあるおかげで、今いる社会を飛び出して、新しいパートナーと新たな生活を打ち立てることができる。加えて言えば、これは恋愛相手だけに生じるものではない。生まれたばかりの赤ちゃんに夢中になる母親も同様である。このことで十分なケアが行われ、子どもの生存確率が高められることになる。
性欲も愛の重要な要素の一つである。愛する相手に対しては男女ともに性欲が高まりやすい。このことで生殖確率が高められ、子孫を増やしやすくなる。
そして愛着とは相手とのつながりの感覚である。いっしょにいることで心が穏やかになり、幸福感に満たされる。この愛着の気持ち、つながりの気持ちがあるからこそ、パートナーや自分の子供を大事にしようとする。
愛は複雑な感情ではあるが、これら3つの感情の複合体として説明することができる。あなたが今愛しているものは下の図に当てはめるならどのような形をしているだろうか。

人は何かに強く惹かれたり、魅了されたりすると、脳の中の報酬系と呼ばれる部分が活発に働く。脳は視覚や聴覚など、様々なネットワークから成り立っているが、その中でも欲望に関連するネットワークが報酬系である。報酬系は、欲しいものを手に入れるために、心と体の働きを活性化させる役割を持っている。

魅力的な対象を目にすると、頭の回転が速くなり、気分が高揚し、疲れも感じなくなる。これは、報酬系が心と体の状態を変化させ、欲しいものを獲得しやすくするためである。そして、この報酬系を駆動しているのが、ドーパミンというホルモンだ。
恋愛の初期段階では、ドーパミンの分泌量が増加し、報酬系が活性化する。さらに、ドーパミンの増加は、興奮や覚醒を促進するアドレナリンの分泌も高める。一方で、心を落ち着かせる働きを持つセロトニンのレベルは低下する。そのため、恋する人は感情の起伏が激しくなる(SayinとSchenck, 2019年)。
恋人のことが頭から離れなかったり、頻繁に連絡を取ったりする行動は、強迫神経症に似ている。実際、恋愛初期のセロトニンレベルは、強迫神経症の患者と同程度に低いという報告もある(Fisherら, 1998年)。
このように、恋愛の初期段階で相手に強く魅了されている時は、ドーパミンとアドレナリンの働きが強まり、セロトニンの働きが抑制されることが明らかになっている。
愛する相手には性欲も高まるが、これに関わるのがテストステロンやエストロゲン、プロゲステロンといった性ホルモンである(Gibsonら, 2023年)。テストステロンは主に精巣から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の一種で、思春期に急激に分泌が高まる。しばしば思春期に色気づくと呼ばれるが、恋愛感情の背後にはテストステロンが関係しているのであれば、これは自然なことであろう。テストステロンは性欲だけでなく、男性の攻撃性を引き上げ、リスク選好性を高めることも知られている。不倫をしている男性は仕事ができるが、不倫が破局したあとはぱっとしなくなるというようなエピソードも聞くが、恋と攻撃性にはテストステロンという共通項がある。

一方、女性ではエストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンが卵巣から分泌され、月経周期に伴って変動する。排卵期にはエストロゲン分泌が増加し、性的興奮が高まることが知られている。エストロゲンは脳の扁桃体や視床下部に作用して、性行動を活性化させると考えられている。
恋人と一緒にいる時の満ち足りた感情は愛着感情とも呼ばれる。この愛着感情は自分と他者がつながっている感覚で、性欲や魅了とは異なる独立した感情であると考えられている。そしてこの愛着感情にはオキシトシンやバソプレシンというホルモンが重要な役割を果たしている(Gibsonら, 2023年)。
生物学的にはオキシトシンの歴史は古く、哺乳類の誕生と同じ時期まで遡れると考えられている。オキシトシンのもともとの働きは母子の絆を強めることだったが、これが進化の過程でオスとメスの絆を強めることにも転用されたのではないかと考えられている。
脳の中心部には視床下部と呼ばれる自律神経やホルモン調整の中枢がある。オキシトシンはこの視床下部で作られ、全身に運ばれる。特に出産前後の時期に急激に分泌が高まり、女性の母性を高めることが分かっている。また母性だけでなく、配偶者との絆を強める働きがあることがヒトや動物を対象とした研究で報告されている。

バソプレシンも視床下部で作られ全身に運ばれるホルモンだが、動物実験ではオキシトシンと並んで配偶者との絆の形成や維持に重要な役割を果たすことが示されている。人におけるバソプレシンの働きはまだ十分解明されていないが、オキシトシンと協調して愛着の形成に関わっている可能性が指摘されている。
愛情には様々なホルモンが関与しているが、これらのホルモンを適切に調整することで、愛情を深めることが可能である。
魅了に関わるドーパミンやアドレナリンは、恋愛以外の状況でも分泌される。例えば、吊り橋効果と呼ばれる現象がある。これは、吊り橋を渡る際のドキドキ感が恋のドキドキと同様に感じられ、一緒に渡っている相手に恋愛感情を抱くというものだ。また、壁ドンもドーパミンやアドレナリンの分泌を促す行為である。これらのことから、ドキドキ感を生み出す状況を作り出すことは、愛情を育むのに効果的だと言えるだろう。
性欲に関わるテストステロンは、筋トレによって分泌を促すことができる。ただし、過度の筋トレは免疫機能を低下させる可能性があるため、注意が必要だ。適度な運動習慣を維持することで、性欲をコントロールすることができる。
愛着に関わるオキシトシンは、ボディタッチによってその働きを高められる。また、一緒に食事をしたり、仕事をしたりすることでも分泌が促進される。結婚前であっても結婚後であっても、二人で一緒に食事をすることはオキシトシンの分泌を促すのに有効だ。さらに、同じチームで活動することもオキシトシンの働きを高めるため、ゲームセンターなどで二人一組のゲームをするのも良い方法かもしれない。
愛情を深めるためには、これらのホルモンを適切に調整することが重要である。日常生活の中で、ドキドキ感を味わったり、適度な運動を心がけたり、パートナーとのスキンシップを大切にしたりすることで、愛情を育むことができるだろう。
ではここまでの内容をまとめてみよう。
・愛は、魅了、性欲、愛着の3つの要素から成り立っている。
・魅了にはドーパミンやアドレナリン、性欲にはテストステロンやエストロゲン、愛着にはオキシトシンやバソプレシンが関わっている。
・これらのホルモンは恋愛以外の文脈でもコントロールすることができる。
このように愛にはホルモンが関わっており、それはある程度コントロールすることができる。では恋愛特有の狂おしい感情はコントロールできるのだろうか。この点について、マルティン・ルターは、恋の病を癒やすには結婚が一番の妙薬であると述べている。恋は荒馬である。落とされぬよう、その手に手綱を握りしめて上図に乗りこなしたい。
Fisher, H. E. (1998). Lust, attraction, and attachment in mammalian reproduction. Human Nature, 9(1), 23–52. https://doi.org/10.1007/s12110-998-1010-5
Gibson, L. S. (2023). The science of romantic love: Distinct evolutionary, neural, and hormonal characteristics. International Journal of Undergraduate Research and Creative Activities, 7(1), 6. https://doi.org/10.7710/2168-0620.1036
Sayin, H. Ü., & Schenck, C. H. (2019). Neuroanatomy and neurochemistry of sexual desire, pleasure, love and orgasm. SexuS Journal, 4(11), 907-946. https://www.academia.edu/download/59526044/sayin-schenck-nchemistry-desire-pleasure-org-SexuS-Winter-2019-V-4-No-11-part-220190604-80480-15sl9lq.pdf