T細胞は標的細胞との結合部位を切り出して標的から離れる(5月26日号 Science 掲載論文)

2023.06.12

キラーT細胞は標的とT細胞受容体(TcR)コンプレックスを用いて結合し、細胞傷害因子を標的に注入すると、速やかに標的を離れ、次の標的へと移行する。


この時、一旦形成されたTcRと標的側のMHC/抗原ペプチドとの結合(免疫シナプスと呼んでいる)は、次の標的へ移動するためには完全に解消する必要がある。この過程はこれまでTcRごと細胞内へ取り込まれるエンドゾーム形成で行われると考えられてきた。


事実、多くの受容体はシグナルを受けた後、インターナライゼーションとして知られるエンドゾームへの取り込みが確認されている。


ところが今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は、電子顕微鏡や高解像度顕微鏡を用いて免疫シナプスを観察、免疫シナプスは内部に取り込まれるのではなく、外部に切り出して標的側に残す、エクトサイトーシスによることを明らかにした研究で、5月26日号 Science に掲載された。


タイトルは「Ectocytosis renders T cell receptor signaling self-limiting at the immune synapse(エクトサイトーシスが免疫シナプスでのT細胞受容体のシグナルの自己調節にかかわる)」だ。


免疫シナプスを可視化するため、TcRζにペルオキシダーゼを結合させ、標的とT細胞の相互作用を継時的に観察し、それを3D化するという地道な作業を800枚の電顕像を用いて行い、

  • T細胞は細胞外に飛び出した仮足上のTcRを用いて標的に結合すると、1時間ほどで免疫シナプスは1/5に減る。

  • この時、免疫シナプスは細胞外へ吐き出された小胞エクトゾームとして標的側に残る。

  • これまで考えられてきたエンドゾームへの免疫シナプスの移行は全く起こらない。


ことを明らかにしている。


あとは、エクトゾームにはシグナルが活性化されたTcR複合体が存在しているが、グランザイムのような細胞傷害性分子は存在せず、純粋に免疫シナプスを解消する目的でエクトサイトーシスが起こること、


またエクトサイトーシス形成過程に、細胞膜に切れ目を入れるディアシルグリセロール形成が関わっていることを確認している。


結果は以上で、これまでの常識が、正確な観察の結果改められたことになる。


免疫シナプスという言葉ができて久しいが、ようやく今になってシナプス解消機構が明らかになるとは、科学が常に事実の断片と想像でできていることを示している。

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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