"独立系研究者"に学ぶ!フリーランス処世術(3)独立系研究者ならぬ、自活研究者!?研究とは何かを改めて問う

2022.07.07

 

 

「独立系研究者に学ぶ!フリーランス処世術」今回はどんなお話が聞けるのでしょうか!?

さて、本日ご紹介する独立系研究者は、フィールド言語学者の伊藤雄馬先生です!

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この連載企画では、フリーランスとして活動している俳優・サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太が、「独立系研究者」からフリーランスとしての生き方を学び、皆さまにシェアします!

◎佐伯恵太プロフィール▶︎https://keitasaiki.info/official
◎twitter▶︎https://twitter.com/Keita_Saiki_

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伊藤雄馬先生 プロフィール

伊藤雄馬 / フィールド言語学者

京都大学大学院文学研究科研究指導認定退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、富山国際大学現代社会学部講師を経て、2020年より独立系研究者の道へ

映画「森のムラブリ」出演・現地コーディネーター

◎twitter
https://twitter.com/yuma__ito

今回は浅草での取材ということで、集合場所は雷門です。

 

伊藤:お待たせしました!

 

 

佐伯:今日はよろしくお願いします!

 

 

伊藤:よろしくお願いします!じゃあ何から話しましょうか?

佐伯:あ、カフェかどこかに入ってからじっくりお伺いできましたら・・・

伊藤:え?

佐伯:・・・え?

伊藤:"ここ"で大丈夫ですよ?

ーフィールド(野外)取材、スタート!!

気になった下駄を眺める伊藤先生(取材中)

 

独立系研究者になるまで

佐伯:ではまず、先生の研究内容と、独立系研究者になるまでの経緯を教えていただけますか?

 

伊藤:フィールド言語学が専門の伊藤雄馬です。言語学の中でも実際に現地に行って調査、研究を行う分野なのですが、具体的には、タイ北部やラオスの密林で暮らす、狩猟採集民のムラブリ族の言語や文化を研究しています。

京都大学で博士課程を退学した後、ポスドクを経て富山国際大学の講師になりました。講師時代は研究の他、授業を持ったり事務仕事も色々していたんですけど、ちょっとそれが自分には合わないなと思っていて。そんな時に、プロ奢ラレヤーさんの「嫌なこと全部やめても生きられる」っていう本と出会ったんですよ。

 

佐伯:プロ奢ラレヤーさん、「僕に奢りたい人はDM(ダイレクトメッセージ)ください!」っていう方ですよね?

伊藤:そうです。それで思い切って辞めちゃおうと。だから先のことはあんまり考えてなかったんですよね。もう少し待てば退職金も増えたのですが。

佐伯:それはすごい決断ですね・・・その後どうやって生活されてたのでしょうか?

伊藤:知り合いの先生の調査の補助をしたりとか、ムラブリ語や英語を含めて6言語話せるので、翻訳のお仕事をいただいたりしながら過ごしてました。

佐伯:6言語・・・!!サラッとすごい情報ですね。翻訳のお仕事だけでも生活していけそうです。

伊藤:そうなんですけど、よく考えてみるとそれらの仕事もお金のためにやっているもので、大学教員の頃と根本的には変わっていないなと。独立系研究者って言ってますけど、何からの独立なんだろうって考えたり・・・

佐伯:(深いのか思春期を拗らせているのかわからない・・・)

 

購入した下駄に履き替えた伊藤先生(取材中)

 

“遊動生活”への道

佐伯それで、その後はどうなったのでしょうか?

 

 

伊藤:一つの転機になったこととして、知り合いの方から車をもらったんです。

 

 

佐伯:またサラッとすごい情報・・・車を奢られるなんて、もはや本家プロ奢られヤーさんを超えてません!?

伊藤プロ奢られヤーさんは家を奢られてます。まだまだです。

佐伯:恐るべき奢られの世界・・・

伊藤:でも僕にとっては車だったことに意味があって。そこからしばらく車中泊で暮らしてたのですが、好きな場所に車を止めて、寝て、好きな場所に移動してっていう生活が自分の中でしっくりきたんです。

佐伯:伊藤さんが研究されているムラブリの生活に通ずるところがあるのかなと今思いました。

伊藤:そうですね。少なからず影響を受けていると思います。彼らも今では一部定住しているのですが、狩猟採集で生きていくということは基本的には遊動生活なので。

佐伯:ちなみに今も車中泊なんでしょうか?

伊藤:いえ、今はバージョンアップして、ドームを開発して住んでみたりしています。

佐伯:ドームってあの、東京ドームとかのドームですか?

伊藤:そのドームですが、55,000人用じゃなくて1人用です。

佐伯:生活のためですもんね。それでも建てたり、持ち運んだりするのは大変ではないですか?

伊藤:それがけっこう簡単で、三角形の組み合わせで作った球体に布を張ると完成します。解体すれば手で持てるサイズのカバンに入るんです。

既存のものを参考にしつつ伊藤先生がオリジナルで製作

佐伯:おお!これは便利ですね。調査に行く時も使えそうですね。

伊藤:そうなんです。それと、ムラブリに行ったらすぐ馴染めるような身体で日本で過ごしたいという気持ちもあるので、日本でどう暮らすかというのは、研究とも繋がっている感覚です。

佐伯:研究と日常生活が密接に繋がっているんですね。

 

言語と身体の研究

佐伯:ところで独立系研究者になって、研究内容そのものに変化はありましたか?

 

 

伊藤:はい。ありました。元々、人の身体に興味があって、大学院時代に出会った武術・武学研究家の光岡英稔先生に、独立してから会いに行ったんです。そこで色々学ぶ中で「言語学」として言語を切り取った研究だけでなく、言語と身体の関係性なども研究するようになりました。

佐伯:武術等を学ぶ中で、ムラブリの生活でも見られる共通点みたいなものが発見できたのでしょうか?

伊藤:それが色々ありまして。例えばですが佐伯さん、木刀を構えるとしたらどう構えますか?

佐伯:えーと、こうだと思います。

かつての佐伯

伊藤:そうですよね。木刀を縦にした場合、この右手と左手の関係(左手が下で右手が上になる状態)って実は、古今東西どんな武器や流派でも同じなんです。ちなみに右利きでも左利きでも同じです。

佐伯:それは不思議です!それだけこの構え方にメリットがあるのでしょうか?

伊藤:実は、こっちの方が振り下ろす時に力が入りやすいんです。もちろん歴史を遡れば逆で構える人もいたと思いますが、戦はまさに命懸けの世界なので、より有利な方が生き残ってきたのだと思います。

佐伯:なるほど。ムラブリの人たちにもそういった構えが見られるのですか?

伊藤:武器じゃないですが、例えば芋掘りをする時に彼らは木の棒を使うんです。その時に全員がまさに同じ持ち方(左手が下で右手が上)で掘っていました。

佐伯:狩猟採集の生活では、食料の採集もまさに命と直結することですもんね。ちなみに、左利きのムラブリの方でも同じ持ち方なのでしょうか?
伊藤:ムラブリには利き手という概念がそもそもないんですよね。

佐伯:えっ!?ご飯は右手で食べる人が多いとかってないんですか?

伊藤:観察する限り、ご飯を食べる時の手と、何かを投げる時の手が高確率で一致するというようなことはありませんし、そもそも同じ人でも、ある時は右手で食べ、またある時は左手で食べたりするんです。利き手という言葉もありませんしね。

佐伯:そうなんですね。そんな中でも芋掘りの時はみんな同じ持ち方をするというのは、やはりすごいことですね。では、言語と身体の関係というのはどういうものなのでしょうか?

伊藤:それも奥深い世界なんですけど・・・言語って身体に作用するんですよ。

佐伯:・・・え?

伊藤:ですよね(笑)じゃあ佐伯さん「エッサ」って言いながら足踏みしてみてください。

佐伯:えっと、こうですか?エッサ、エッサ、エッサ、エッサ、エッサ・・・うーん、何か作用してる風には感じないですが・・・

(↓インタビュー当時行ったエッサを再現してみました。ご参考に・・)

伊藤:じゃあ今左足からだったんで、右足から始めてもらえますか。交互にやってみたりすると何か違う感じがしませんか?

佐伯:(右足から)エッサ、エッサ、エッサ、エッサ、エッサ・・・

(左足から)エッサ、エッサ、エッサ、エッサ、エッサ・・・

佐伯:あの、伊藤さん・・・全然違います!!!何ですかこれ!!?右足で踏むときに「エッ」と言うと足に力が・・・

伊藤:あ!ストップストップ!結果を言うのはやめておきましょうか。今、佐伯さんが感じた身体感覚の変化を、読者の方々にも先入観無く感じてほしいので。

佐伯:テンションが上がってつい・・・確かにやる前に言われると、感じ方に影響を与えてしまいますよね。

伊藤:そうなんです。正解を知るということではなくて、自分が感じたものをかみしめて、楽しんでいただければ。

佐伯自分でやってみた後に、感想を言い合ったりするのも楽しそうですね。これが言語と身体が繋がってるっていうことなんですね。

伊藤:その一例です。こういうものが他にもたくさんあって、実際にやってみると簡単に実感できることでも、まだほとんど世間に知られていないんです。

佐伯:研究者ってまず論文を書くのが何より大事で、その研究成果を伝えるためのアウトリーチ、というイメージがあったのですが、伊藤先生は、より強く社会に伝えていきたいという想いがあるのでしょうか?

伊藤:そうですね!論文を書くことで学術の世界に新たな知見を蓄積していくことはもちろん大事なのですが、僕はその研究が自分に影響を与えたかというのも大切にしていています。そして、自分に影響があるということは、誰かの生活の役に立ったり、誰かの心に寄り添えるはずなんです。

特に「言語と身体」に関しては、対面でコミュニケーションを取りながら体感していただく方法が一番伝わるので、実際にワークショップなどを行い、その機会を作っているところです。

佐伯:俳優として実践を何より大切にしている立場からすると、ものすごく共感するお話です。

休憩で入ったカフェの庭で桑の実を採集する伊藤先生(許可を得て採集しています)

 

これからの目標

佐伯:最後に今後の目標を教えていただけますか?

 

 

伊藤:今、ムラブリ族を撮影したドキュメンタリー映画「森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民」が公開されていまして、ムラブリの調査の様子なども撮影していただきました。

映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』予告編

 

佐伯:予告編ですごく気になって公開直後に観させていただきましたが、何よりまずこの映画がなければ一生観られなかったようなムラブリの人々の暮らしを目の当たりにできたことが嬉しかったです!それから、ムラブリの人たちをすごく身近に感じるような、自分たちとの共通点も感じながらも、今日本の社会で、この環境、このルールで当たり前のように暮らしている現状に対して、何か大きなものを投げかけられているようにも感じました。

伊藤:そうやって佐伯さんや、多くの方に映画を通して何かを感じてもらえていることが嬉しいですし、今は融通が効くので出来る限り舞台挨拶にも立たせてもらっています。

 

【「森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民」今後の上映スケジュール】

神奈川
シネマ・アミーゴ
2022年7月3日(日)〜
https://cinema-amigo.com/2022/05/4950/

長野
上田映劇
2022年7月16日(土)〜
http://uedaeigeki.com

高知
ミニシアター蛸蔵
2022年10月1日(土)

 

伊藤:それから、さっきドームのお話もしましたが、今は畑も持っていて、少しずつ食料の自給率が上がってきました。畑を持つことで定住する必要が出てきますが、そのあたりのバランスを考えているところです。

佐伯:サスティナブルな生活の最先端ですね!!

伊藤:最先端といえば、大切にしていることがあって。僕はこういう生活をしてますけど、縄文時代に戻りたいわけではなくて、現代のテクノロジーを使った上で、言わば縄文時代の生活をアップデートしているような感覚なんですよね。

佐伯:アンチ科学技術というわけではないんですね。

伊藤:そうです!その上でどう生きていくのかというのを考えていきたいですし、僕は研究者ですが、研究している自分の生き様で示していかないといけないなと思っています。

佐伯:貴重なお話、ありがとうございました!

 

インタビューを終えて

今回は独立系研究者としての生き方というテーマでスタートし、最終的には研究者としての生き方、我々一人一人の生き方を、根本から捉え直すようなお話でした。インタビューの中で、ムラブリの人たちにも当然左利きの人がいるだろうと当たり前のように考えてしまいましたが、利き手という概念そのものが無いというのはなかなかの衝撃でした。

きっと日々の暮らしの中でも、気づかない間に多くのことを「常識」と決めつけてしまっているのではないかと思いました。自分の生活や、経験や、価値観の外にある世界を覗いてみることで、自分の中での常識とフラットに対峙できるのかもしれません。そんなことを想像しながら、どこかワクワクした心地で帰路につきました。

伊藤先生に唆されて3時間弱の道のりを徒歩帰宅する佐伯


伊藤先生 × 佐伯恵太 コラボ決定!
伊藤先生に、佐伯が制作しているYouTube科学番組「らぶラボきゅ〜」とのコラボレーションを提案させていただいたところ、なんと快諾いただけました!今回ご紹介しきれなかった「伊藤先生のスキル」を使ってあることに挑戦していただきます!動画は、次回の記事と同時に公開する予定です!

【伊藤先生をもっと知りたい方へ、こちらの動画も併せてお楽しみください】
伊藤雄馬×宮台真司×神保哲生【5金スペシャル映画特集Part1】「森のムラブリ」に見る人間のモラルの根源と他者を恐れる習性

 

(レンタル俳優の結果)

最後になりましたが改めて、この連載は、フリーランスの研究者である「独立系研究者」からフリーランスとしての生き方を学んでいこうというものです。しかし、ただ学ぶだけではありません!実際に学んだことを実践し、その結果の報告まで行うのが特徴です。

前回は、マンボウ博士ことマンボウ研究者の澤井悦郎先生から「レンタル博士」というとてもユニークなサービスについて教えていただき「レンタル俳優」という新サービスを生み出しました!

結果は・・・これを書いている6月30日現在、お申し込みゼロ件です。形を真似するだけではダメなのかもしれません。まだまだ一人前のフリーランスへの道のりは遠いようです。連載のやりがいがあります!!

それではまた次回、お会いしましょう!

【著者紹介】佐伯 恵太

俳優 / サイエンスコミュニケーター。
1987年5月30日生。京都出身。京都大学大学院理学研究科で修士号を取得し、日本学術振興会特別研究員(DC1)として同大学院博士後期課程に進学。1年間の研究活動の後、俳優に転身した異色の経歴の持ち主。現在は、科学とエンターテイメントの架け橋になるべく、俳優・サイエンスコミュニケーターとして活動中。
【出演ドラマ】BS時代劇「大富豪同心」シリーズ / 「ABEMAヒルズ」コメンテーター / 日本科学振興協会(JAAS)正会員 / 「エンタメ×科学」のプロ集団「asym-line(アシムライン)」代表
プロデューサー・監督・出演者として、YouTube科学番組「らぶラボきゅ〜(※)」を手がけている。
※「東京応化科学技術振興財団」助成事業

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