硬化性組成物、並びにそれを用いた硬化物の製造方法及びその再溶解方法

2022.10.17 By 神奈川大学

材料工学

技術概要

可逆的に開架橋~架橋可能な熱硬化性樹脂

用途・応用

再利用可能な熱硬化性樹脂

背景

 周知のように、ポリマーの前駆体となるオリゴマーやモノマーを含有する硬化性組成物を所望の形状に加工し、その後これに含まれる塩基や酸触媒によって、又は光照射によってラジカル等の化学種をこれに発生させること等によって、上記のオリゴマーやモノマーを重合させ硬化物を得ることが行われている。このような技術は幅広い分野で応用されており、それらのごく一部を例示するならば、歯科治療における欠損箇所の充填剤、半導体製造におけるパターニングのためのフォトレジスト、集積回路の封止や炭素繊維を用いた構造体の製造等に用いられるエポキシ系硬化性組成物等を挙げることができる。

 こうした用途に用いられるオリゴマーやモノマー等も各種のものが提案されている。このようなものの一例として、アクリレート基等の不飽和結合を備えラジカル重合をすることのできるビニル系モノマー、酸触媒や塩基触媒の存在下で開環重合することのできるエポキシ基やオキセタニル基を含む化合物であるエポキシ(又はオキセタン)樹脂、加熱により脱水縮合をすることのできるメラミン化合物等を挙げることができる。これらは主鎖に炭素原子を有する有機系のポリマーからなる硬化物を与えるが、他にも、加水分解により重合可能なアルコキシシラン等の珪素化合物をゾル-ゲル反応させ、ポリシロキサンからなる硬化物を形成させるSOG(Spin On Glass)や水ガラス等と呼ばれるものも知られている。ポリシロキサンは、ガラス(シリカ)と同様にSi-O結合を有する高分子体であり、半導体における絶縁膜や、各種のコーティング材料等として用いられる。

 一方、これとは逆に、ポリマーを分解して低分子量化させることで所望の機能を得ることも各種行われている。例えば、特許文献1には、光照射により低分子量化する高分子と耐熱性材料とからなる絶縁材用組成物が提案されており、このような組成物を半導体材料の表面に塗布してから光照射すると、低分子量化した高分子が抜けて空隙を多く含んだ耐熱性材料(これは樹脂であり、同時に絶縁材料でもある。)のみからなる層が半導体材料
の表面に残留し、この層は、空隙を含む分だけ誘電率が低下するので、低誘電率絶縁層として有効であるとされている。

 また、特許文献2には、活性光線の照射により酸を発生させる化合物、レーザー光を熱に変換する化合物、及び酸性条件下で加熱することで分解する高分子化合物を含むレーザー感応層を印刷版の表面に形成させ、このレーザー感応層にレーザー光線で画像を描画することで、描画された箇所の高分子化合物を分解させて印刷画像を形成させることのできる湿し水不要平版印刷原版が提案されている。

 また、特許文献3には、酸により主鎖が開裂する高分子化合物と、放射線が照射されると酸を発生させる酸発生剤とを含む微細パターン形成用のレジストが提案されている。このようなレジストを処理対象表面に塗布しておき、次いで、所定の放射線を照射することでレジスト中の高分子化合物を分解して可溶化させた上で、可溶化された成分を除去する現像作業を行うことにより、処理対象表面の表面に所望のレジストパターンを形成させることが可能である。

 さらに、上記のポリシロキサンについても、既に構築されているポリマーのネットワークを塩基触媒や酸触媒の存在下で切断及び再架橋をさせることが可能であり、上記のようにポリマーを低分子量化させて所望の機能を得ることもある程度は可能と考えられる。

 ところで近年、Si-O結合を有し、かご形の構造であるポリシルセスキオキサン骨格を有する化合物についての研究が進められている。この化合物は、直径約1~3nmの多面体構造を備え、POSS(商品名;Polyhedral Oligomeric SilSesquioxansの略)とも呼ばれている。理解を助けるためにSi-O-Siが直線であると仮定すると、この化合物には、Si原子が立方体における頂点の位置に配置されたT 8 構造、Si原子が正五角柱における頂点の位置に配置されたT 1 0 構造、及びSi原子が正六角柱における頂点の位置に配置されたT 1 2 構造が知られており、これらの中ではT 1 2 構造のものが最も大きなサイズの分子となる。この化合物は、(RSiO 1 . 5 ) n という一般式で表され、Si原子に対するO原子や有機基Rの含量がシリカ(SiO 2 ) n とシリコーン(R 2 SiO)n との中間になることから、有機物に親和性を有する無機物というユニークなナノ材料としても知られている。また、非特許文献1及び2等に記載されるように、この化合物は、上記一般式におけるRがフェニル基等といった特定の置換基である場合に、かご形構造の内部にフッ化物イオンを包含可能であることも知られている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開2001-35256号公報
【特許文献2】特開平8-51529号公報
【特許文献3】特開平6-65880号公報
【非特許文献】
【非特許文献1】Alan R.Bassindale,Manuel Pourny,Peter G.Taylor,Michael B.Hurshouse,and Mark E.Light,Angew.Chem.Int.Ed.2003,42,3488-3490
【非特許文献2】M.Ronchi,S.Sulaiman,N.R.Boston and R.M.Laine,Appl.Organometal.Chem.2010,24,551-557 

課題

 本発明は、ポリマー成分の架橋により硬化が可能であるのと同時に、必要に応じて架橋されたポリマー成分を解架橋させ、これを架橋前と同様の状態に戻して硬化物を再溶解させることのできる硬化性組成物及びその製造方法、並びにそのような硬化性組成物を用いた硬化物の製造方法及びその再溶解方法を提供することを目的とする。

手段

 本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、少なくとも1つのSi原子に置換基Rを備え多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格(すなわち、上記のPOSS(商品名)骨格)をポリマーの側鎖として結合させ、このポリシルセスキオキサン骨格の内部にフッ化物イオンを包含させた状態で複数個のトリアルコキシシリル基を備えた化合物を作用させると架橋により硬化物が得られる一方で、その硬化物に特定の置換基を備えたトリアルコキシシラン化合物を作用させると解架橋により硬化物が再溶解することを見出した。また、本発明者らは、ポリシルセスキオキサン骨格の内部にフッ化物イオンを包含させた上記ポリマー、及び複数個のトリアルコキシシリル基を備えた上記化合物(すなわちこの化合物は架橋剤である。)を溶媒中に溶解させて得られる硬化性組成物が、エポキシ樹脂等を用いた他の硬化性組成物等と比較して保存安定性に優れ、溶媒を蒸発させて濃縮したときにのみ架橋されて硬化物を与えることも見出した。本発明は、以上の知見により完成されたものであり、以下のようなものを提供する。

 (1)本発明は、少なくとも1つのSi原子に置換基Rを備え多面体構造を有するポリシルセスキオキサン骨格を含む基を側鎖に備えたポリマー、フッ化物イオンを供給可能な塩、及び下記一般式(1)で表される架橋剤、又はこれらの反応物、並びに溶媒を含んでなり、上記Rが、アリール基、アラルキル基、置換されてもよいビニル基、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基、1位又は2位の炭素原子にシアノ基、ニトロ基又はイミノ基を有する炭素数1~8のアルキル基、-C(O)R 1 、-CH 2 C(O)R 1 、-C(O)OR 1 、-CH 2 C(O)OR 1 、-OC(O)R 1 、-CH 2 OC(O)R 1 、-P(O)(OR 1 ) 2 、-CH 2 P(O)(OR 1 ) 2 、-S(O)R 1 、-CH 2 S(O) R 1 、-S(O) 2 R1 、-CH 2 S(O) 2 R1 、-S(O) 2 O R 1 、-CH 2 S(O) 2 O R 1、 炭素数1~8のアルキル基、水素原子、-(CH 2 ) m R1 、-(CH2 ) m O R 1 、-(CH 2 ) m NHR 1 、-(CH 2 ) m N R 12 、-(CH 2 ) m O C(O)R 1 、-(CH 2 ) m NHC(O)R 1 、-OSi(CH 3 ) 2 R1 、-OSi(C H 3 ) R 12 及び-OSiR 13 (各R 1 はそれぞれ独立に一価の有機基であり、各mはそれぞれ独立に1~8の整数である。)からなる群より選択される硬化性組成物である。
  L[Si(OR a ) 3 ] n   ・・・ (1)
(上記一般式(1)中、Lはn価の有機基であり、複数のR a はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、nは2以上の整数である。)

 (2)上記ポリシルセスキオキサン骨格を含む基が、下記一般式(2)~(4)のいずれかであることが好ましい。

効果

 本発明によれば、ポリマー成分の架橋により硬化が可能であるのと同時に、必要に応じて架橋されたポリマー成分を解架橋させ、これを架橋前と同様の状態に戻して硬化物を再溶解させることのできる硬化性組成物及びその製造方法、並びにそのような硬化性組成物を用いた硬化物の製造方法及びその再溶解方法が提供される。

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特許情報

特開2015-232115

JPA 2015232115-000000