金属元素ドープシリカガラス

2022.09.16 By 東京都立大学

材料工学

技術概要

液相合成法によって、合成中に原料化合物同士の不均一な沈澱を生じさせにくい、シリカガラスへの金属元素とリンとの共ドープの手段を見出して、金属元素が高濃度であっても均一分散したシリカガラスを作製する方法を提供する。

用途・応用

ファイバーレーザー材料
レーザー材料

背景

 シリカガラスは、赤外域から深紫外域にわたる広い透明領域、レーザー光のような強い光や放射線に対する良好な照射耐性、高い機械的強度および化学的安定性を併せ持つ、優れた光学材料である。さらに、ガラスは優れた成形性をもつため、ファイバーレーザーをはじめとする、光ファイバー型のデバイスの作製に適した材料である。

 透明材料であるシリカガラスに発光機能や光磁気光学機能などの光-磁気機能をもたせるためには、そのような機能を有する希土類元素や遷移金属元素をドープする必要がある。しかし、一般にシリカガラスは、金属元素、特に価数3価以上の金属元素イオンの溶解度が小さく、ドープした金属元素が凝集しやすい。金属元素の凝集は、例えば濃度消光という、発光性金属元素の発光効率が著しく低下する現象などを起こすため、好ましくない。金属元素の凝集を回避する方法として、金属元素とともにアルミニウムやリンを添加して、金属元素の溶解度を向上させる方法が公知である。

 アルミニウムとリンは、ともにシリカガラス中で金属元素の溶解度を向上させ、それらの凝集を防ぐ効果をもつが、両者の機能は異なる。アルミニウムは、ガラスの混合エントロピーを増大させることによって、金属元素と強く相互作用することなく金属元素の溶解度を向上させる。一方で、リンは、多くの金属元素、特に希土類元素とともに、金属元素-リン複合体を形成し、金属元素を溶媒和することによって溶解度を向上させる。このため一般に、アルミニウムよりもリンの方が、溶解度の向上のために必要な添加量が少ない。また一般に、リンドープシリカガラスの方が、アルミニウムドープシリカガラスに比べて、放射線や強いレーザー光などにさらされた場合に色中心による着色を起こしにくく、より好ましい。

 現在、光学用シリカガラスのほとんどは、気相合成法という、気化させたシラン系ガスを火炎中やプラズマ中で酸化させる手法で合成されている。気相合成によってシリカガラスへ金属元素のドープを行う方法のひとつとして、シラン系ガスとともに、例えば有機金属化合物のような揮発性の金属元素化合物のガスを導入して同時に反応させる方法が挙げられる。この方法では、金属元素をガラス中に均一にドープできることが期待できる。また、アルミニウムやリンの化合物のガスを用いて金属元素との共ドープを行うこともできる。しかし、このような金属元素化合物は多くの場合高価であり、また蒸気圧が低く気化させにくいため、この方法は実際にはほとんど用いられていない。

 もうひとつの方法は、シラン系ガスの燃焼酸化で得られた微粒子の堆積体である多孔質シリカ(スート)を金属イオンの溶液に浸漬し、これを乾燥・焼結することで金属元素のドープされたガラスを得る方法である。簡便なため、現在最も一般的な金属元素のドープ法であるが、乾燥時に金属元素の塩が凝集しやすい、金属元素の高濃度ドープが難しい、などの問題がある。また、アルミニウムやリンを金属元素とともに添理によってガラス化させる方法が開発されている。しかし、この手法では、イオン交換能を有するアルミニウム含有型ゼオライトを用いる必要があるため、アルミニウムを含んだシリカガラスしか作製できない。また、ゼオライトへの金属元素イオンの導入およびゼオライトに当初含まれる交換イオンであるアルカリとアルカリ土類金属元素の除去に長時間を要する。

 この他の方法に、ゾル-ゲル法をはじめとする液相合成法がある。ゾル-ゲル法は、液体原料である有機シラン化合物を水を含む溶液中で反応させてシリカゲルを作製したのち、これを乾燥・焼結してシリカガラスを得る手法である。この方法の出発原料は均一溶液であり、また熔融温度より数百度低温での焼結でシリカガラスが得られるため、ガラス作製時に金属元素の偏析が起こりにくく、金属元素の高濃度均一ドープが可能である。この手法は、ゲルの乾燥・焼結時に亀裂が入りやすく、これを避けるために乾燥・焼結に時間を要することが多い。しかしながら本発明者らは、最近、この問題を回避しうる方法を複数考案した。

 ゾル-ゲル法をはじめとする液相合成法では、例えば硝酸アルミニウムや酢酸アルミニウムなどのアルミニウム塩を原料溶液に添加・溶解させることで金属元素とアルミニウムが共ドープされたシリカガラスを作製することができる。しかし、例えばリン酸などの典型的なリン化合物は、一般に溶液中で金属元素と化合して不溶性の沈澱を生じてしまう。このため、液相合成法では、金属元素とリンが均一に共ドープされたシリカガラスはこれまで作製されていない。

 シリカガラスを合成するうえでの他の大きな課題は、合成時にガラス中にSiOH基が残留しやすいことである。気相合成法の場合、酸化燃焼を酸水素炎中で行うと多量のSiOH基が生成する。また、液相合成法では、一般に前駆体溶液中に水が含まれているため、ガラス中にSiOH基が残留しやすい。SiOH基は、光通信波長域(波長~1.5μm)の伝送損失の主因である。またSiOH基はシリカガラス中にドープされた発光元素の発光効率を大きく低下させるため、その除去は、レーザーのような高効率な発光材料を実現するうえで不可欠である。このような発光強度の低下が問題なくなるSiOH基濃度はおよそ20ppmw(1.6×10 1 8 c m- 3 )であるとされている。

 SiOH基を除去する方法として、前駆体であるスートまたは多孔質シリカゲルを、脱水剤を含む雰囲気中で熱処理する方法がある。フッ素、塩素などのハロゲン元素は高い脱水効果をもっており、これらを含む化合物を脱水剤として用いることができる。この方法はSiOH基の除去に極めて有効である。しかし、多量の脱水剤が必要であり、また脱水剤は高反応性、毒性のため扱いが難しいことが多い。また、脱水剤として最も使用されている塩素系ガスを用いる場合、脱水中にドープした金属元素が揮発性の塩化物となって失われる可能性がある。SiOH基は、シリカガラスを真空中で焼結することによっても除くことができるが、真空装置を備えた電気炉が必要である。また、SiOH基の除去速度が遅いため、一般に長時間の熱処理が必要である。

 液相合成法では、上記のような脱水処理を行わずに、反応溶液中にフッ素化合物を添加することで、乾燥ゲルの焼結時に自発的にSiOH基の除去を行うことができる。しかし、反応溶液中にフッ化物イオン(F - )が存在すると、これらは多くの場合金属元素イオンと化合して沈澱を生じるため、例えばフッ酸やフッ化アンモニウムなどの溶液中でF -を生じる塩は、一般に金属元素ドープシリカガラスの液相合成に用いることができない。 

 

課題

 したがって、本発明の目的は、液相合成法によって、合成中に原料化合物同士の不均一な沈澱を生じさせにくい、シリカガラスへの金属元素とリンとの共ドープの手段を見出して、金属元素が高濃度であっても均一分散したシリカガラスを作製する方法を提供すること、およびこのガラスへのフッ素ドープを実現し、熱処理中に脱水処理を行うことなくSiOH基濃度が低く、好ましくは1×10 1 8 c m- 3 以下であり、かつ金属元素が高濃度均一分散したシリカガラスを作製する方法を提供することである。

手段

 本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
[1]リン化合物と金属元素含有化合物との存在下でゾル-ゲル法を行う金属元素ドープシリカガラスの製造方法であって、上記リン化合物は、P-C結合またはP-O-C結合を有し、かつ、P-OHなる部分構造を有さない、上記製造方法。
[2]上記リン化合物が下記一般式(1)(式は詳細資料に記載)

(但し、X 1 ~ X 3 は各々独立に-R 1 、-OR 2 または-CO 2 R
3 を表し、R 1 ~ R3 は各々独立に炭化水素基を表す。)で表される[1]の製造方法。
[3]ゾル-ゲル法を行う際にさらにフッ素化合物が存在し、前記フッ素化合物においてフッ素原子は炭素原子またはホウ素原子と結合して存在している、[1]または[2]の製造方法。
[4]金属元素が希土類元素である[1]~[3]のいずれかの製造方法。
[5][1]~[4]のいずれかの製造方法により製造され、1モルのSiに対して0.001~0.1モルの金属元素がドープされる金属元素ドープシリカガラス。
[6][1]~[4]のいずれかの製造方法により製造され、SiOH基濃度が1×101 8 c m- 3 以下である金属元素ドープシリカガラス。

効果

 本発明によれば、金属元素が高濃度であっても均一に分散したシリカガラスが得られる。また、リンと金属元素とが共にドープされたシリカガラスも得られる。リンをドープする際に典型的なリン化合物であるリン酸などを用いると、溶液中で金属元素と反応し、不溶性の沈澱を生じてしまう。これまで、液相合成法では、金属元素とリンとが共ドープされたシリカガラスは合成されていなかった。本発明者らの知見によれば、沈澱生成の素反応は、リン化合物のPOH基と金属元素Mとの縮合反応によるP-O-M結合の形成である。本発明においてそのような沈澱が生成しないのは、縮合反応のサイトとならないP-CまたはP-O-C結合をリン化合物に導入し、P-O-M結合が三次元的に発達する反応が抑制されたためであると考察される。気相合成法とは異なり、ゾル-ゲル法では比較的に多量の金属元素をドープすることができ、さらに、本発明により、リンを共にドープできるようになったことで、シリカガラス中での多量の金属元素を高分散状態にすることができ、蛍光材料、レーザー材料、光磁気光学材料の高性能化、高効率化といった、光学的及び/又は磁気的な物性の向上が期待される。

 本発明によれば、金属元素の分散能力の大きいリンを用いることで、分散剤の濃度を抑えることができるため、金属元素の高濃度化や、分散剤の過剰添加による母材ガラスの機械的・化学的特性低下の抑制が期待できる。

 本発明の好適態様によれば、フッ素化合物の存在によりリンおよび金属元素が高濃度で均一に分散しかつSiOH基濃度の低いシリカガラスを簡便かつ容易に得ることができる。このとき、前記フッ素化合物におけるフッ素はC-F結合またはB-F結合を形成しているから、溶液反応中で遊離のフッ化物イオンF - を生成せず、それ故、金属フッ化物の不所望な凝集が生じにくい。この好適態様では、焼結中に特殊な脱水処理を行わずにSiOH基濃度の小さいガラスが得られるため、焼結装置を簡略化でき、かつ焼結中の脱水処理による金属元素の揮発を抑えることができる。基礎技術的観点からは、原料溶液がほとんどの場合に水を含んでいるためSiOH基濃度を低下させることが難しいという液相合成法に対する固定観念を覆す点で有意義である。

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特許情報

特許5896507

特開2012-153594

JPB 005896507-000000