皮膚感覚提示装置、超音波変調装置及び超音波変調方法

2022.08.03 By 埼玉大学

機械工学

技術概要

高い変調周波数での機械的振動を実現することが可能な超音波変調装置及び超音波変調方法、更にはこの超音波変調装置を用いた皮膚感覚提示装置を提供する。

用途・応用

振動子の駆動回路

背景

 バーチャルリアリティやゲームの分野においては、視覚・聴覚・力覚による表現が主流であったが、近年、皮膚感覚による表現の重要性が増してきている。触覚の提示が可能になれば操作感や臨場感の向上が見込まれる。しかし、従来の皮膚感覚提示装置の多くは、盲人用の点字装置としての応用を念頭においたものや、これらの盲人用点字装置の技術に基づいて開発されたものであり、汎用的な触感を再現する皮膚感覚提示装置は、未だ実用化されていない。

 凹凸感を再現する皮膚感覚提示装置は、盲人用点字装置をはじめとして古くより多くの研究が行われている。例えば、移動子となる薄膜の上面に導電体層を形成して、導電体層を静電的に吸引して空間的な振動の分布を発生させる皮膚感覚提示装置も提案されている(特許文献1参照。)。人間の皮膚の触感は主に2500×750μmの卵形をしたパチニ小体、直径20~40μmのマイスナー小体、直径9~16μmのメルケル細胞という三つの機械受容器(触感のセンサー)への振動刺激によって知覚されるとされている。ヨハ ン ソ ン (Johansson)ら は 人 間 の 指 先 検 知 能 力 を ド ッ ト パ タ ン の 直 径 が 5 0 μ m mで は 6 μm 、 5 0 0 μ m mで は 1 μ m mの 凸 を 検 出 可 能 と し て い る ( 非 特 許 文 献 2 参 照 。 ) 。 一 般 的には、人間が知覚できる範囲の面粗さを構成する凹凸は、小さいものでは数十~数百μm程度の間隔で分布していると考えられ、汎用的な触感を提示するにはmm以下のオーダーの位置分解能で刺激を提示できることが望ましい。

 パチニ小体、マイスナー小体、メルケル細胞という三つの人間の機械受容器は、それぞれ振動の振幅や周波数、分布の細かさに対する感度が異なる。異なる機械受容器を同時に刺激すれば、脳内で感覚が統合されたときにより豊かな感触となることが知られている。三つの機械受容器を同時に刺激するには、時間的、空間的に広い範囲をカバーできる機械的な振動が必要になる。例えば、皮下組織側にあるパチニ小体の周波数領域は70~1000Hz、表皮側にあるマイスナー小体の周波数領域は10~200Hz、メルケル細胞の周波数領域は0.4~100Hzとされている。触覚の時間分解能とは22つの刺激提示時間間隔が短くなった場合にそれが2つであることを区別できる最小時間間隔を指す。時間分解能は、加える刺激の強さによって変化し、強い場合は10ms10ms程度、弱くすると50ms程度との報告がある。又、5秒間で知覚できる連続刺激は9つまでとの報告もある。

 いずれにせよ、皮膚感覚提示装置を実現するためには、刺激が指全体に伝わるのではなく、局所的な刺激が指の腹に提示されることが必要である。即ち、現実に皮膚感覚提示装置の面をなぞった際に、指の腹の各部分でそれぞれ異なった微細な刺激が発生することが求められる。皮膚感覚提示装置においては、人間の現実の感覚になるべく近い、紙やすり(サンドペーパ)などのような細かな凹凸が連続的に分布しているテクスチャが皮膚感覚提示装置の接触面に求められる。

 指で物の表面をなぞると、表面の微細形状と指紋の相互作用により、人間の指皮膚表面に微小な振動が発生する。その振動を皮膚組織内の神経細胞が検知しその信号が脳に伝達され、なぞり動作に対する応答としてその信号を処理することで、人間は皮膚感覚を受容していると考えられている。その表面形状が紙やすりのようになっていれば「ざらざら感」として知覚される。皮膚感覚提示を実現する方法の一つとして、なぞり動作に応じてこの振動を再現して指皮膚に供給することが有効である。

 粗さ感覚の提示に超音波振動により生じるスクイーズ膜効果を利用した方法が提案されている(非特許文献2参照。)。「スクイーズ膜効果」は振動している面に指を近づけた際に、指と振動面の間に、空気(介在流体)の膜がしぼり作用で生じ、それにより摩擦力が減少する現象である。スクイーズ膜効果により、指で物体表面をなぞる際の摩擦力が減少するため、超音波振動をAM変調することで周期的な摩擦力の増減が生じる。これにより、人間はざらざら感を認識する。又、超音波振動子のAM変調において信号波の振幅、即ち変調深度を変化させると振動表面をなぞった際の粗さ感覚の度合が変化することが知られている(非特許文献2参照。)。

 しかし、触覚の提示に用いるための超音波振動子の機械的品質係数Q mが高い場合には、同一の電圧で駆動させると変調周波数が高くなるにつれ振動子が応答できなくなり、その結果として出力される変調深度が低下し、細かい粗さの提示が困難となるという問題があった。「機械的品質係数Q m」 は 、 振 動 に よ る 弾 性 損 失 を 表 す 弾 性 損 失 係 数 tanδ mの 逆数である。

【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開2003-248540号公報
【非特許文献】
【 非 特 許 文 献 1 】 R.S.ヨ ハ ン ソ ン (Johansson) 他 1 名 ,『 本 来 滑 ら か な 表 面 上 に あ る 単 一の 凹 凸 に 対 す る 触 覚 検 出 の 閾 値 ( “Tactile detection thresholds for a single asperity on an otherwise smooth surface”) 』 、 体 性 感 覚 研 究 ( Somatosens. Res.) 、 第 1 巻、第1号、1983年、p21-31
【 非 特 許 文 献 2 】 渡 辺 敏 雄 他 1 名 、 『 超 音 波 振 動 を 用 い た 表 面 荒 さ の 触 感 の 制 御 方 法 ( AM ethod for Controlling Tactile Sensation of Surface Roughness Using UltrasonicVibration) 』 、 米 国 電 気 電 子 学 会 : ロ ボ テ ィ ク ス と オ ー ト メ ー シ ョ ン に 関 す る 国 際 会 議( IEEE International Conference on Robotics and Automation) 、 1 9 9 5 年 、 p . 1134-1139。
【非特許文献3】昆陽雅司他2名、『超音波振動の振幅変調を用いた複合触覚提示法』、日 本 機 械 学 会 ロ ボ テ ィ ク ス ・ メ カ ト ロ ニ ク ス 講 演 会 講 演 論 文 集 ( C D ‑R O M ) 、 2 0 05巻、2005年、p.1P1-N-101 

課題

 上記問題点を鑑み、本発明は、高い変調周波数での機械的振動を実現することが可能な超音波変調装置及び超音波変調方法、更にはこの超音波変調装置を用いた皮膚感覚提示装置を提供することを目的とする。

手段

 上 記 目 的 を 達 成 す る た め に 、 本 発 明 の 第 1 の 態 様 は 、 (a)対 象 と な る 超 音 波 振 動 系 の 減衰 固 有 振 動 数 と は 異 な る 値 の 第 1 の 駆 動 周 波 数 を 算 出 す る 駆 動 周 波 数 算 出 回 路 と 、 (b)第1の駆動周波数の第1の超音波駆動信号が、1周期の内の予め定めた時間に送信され、残余の時間に遮断される周期が繰り返される超音波変調信号を生成する超音波変調信号生成手 段 と 、 (c)こ の 超 音 波 変 調 信 号 に よ っ て 駆 動 さ れ る 超 音 波 振 動 子 と 、 (d)こ の 超 音 波 振 動子が励起した2種類の超音波を合成してうなりを発生させる干渉板を備える超音波変調装置であることを要旨とする。

 本 発 明 の 第 2 の 態 様 は 、 (a)対 象 と な る 超 音 波 振 動 系 の 減 衰 固 有 振 動 数 と は 異 な る 値 の第 1 の 駆 動 周 波 数 を 算 出 す る 駆 動 周 波 数 算 出 回 路 と 、 (b)第 1 の 駆 動 周 波 数 の 第 1 の 超 音波駆動信号が、1周期の内の予め定めた時間に送信され、残余の時間に遮断される周期が繰 り 返 さ れ る 超 音 波 変 調 信 号 を 生 成 す る 超 音 波 変 調 信 号 生 成 手 段 と 、 (c)こ の 超 音 波 変 調信 号 に よ っ て 駆 動 さ れ る 超 音 波 振 動 子 と 、 (d)こ の 超 音 波 振 動 子 が 励 起 し た 2 種 類 の 超 音波を合成してうなりを発生させる干渉板を備える皮膚感覚提示装置であることを要旨とする。第2の態様に係る皮膚感覚提示装置においては、干渉板の表面に指を接触させることにより、干渉板の表面を皮膚の感触表現を提示する皮膚感覚提示面としている。

 本 発 明 の 第 3 の 態 様 は 、 (a)対 象 と な る 超 音 波 振 動 系 の 減 衰 固 有 振 動 数 と は 異 な る 値 の第 1 の 駆 動 周 波 数 を 算 出 す る ス テ ッ プ と 、 (b)第 1 の 駆 動 周 波 数 の 第 1 の 超 音 波 駆 動 信 号が、1周期の内の予め定めた時間に送信され、残余の時間に遮断される周期が繰り返される 超 音 波 変 調 信 号 を 生 成 す る ス テ ッ プ と 、 (c)こ の 超 音 波 変 調 信 号 に よ っ て 超 音 波 振 動 子を 駆 動 す る ス テ ッ プ と 、 (d)干 渉 板 上 に お い て 、 超 音 波 振 動 子 が 励 起 し た 2 種 類 の 超 音 波を合成してうなりを発生させるステップを含む超音波変調方法であることを要旨とする。

効果

 本発明によれば、高い変調周波数での機械的振動を実現することが可能な超音波変調装置及び超音波変調方法、更にはこの超音波変調装置を用いた皮膚感覚提示装置を提供することができる。

問い合わせ・詳細資料閲覧

特許情報詳細や資料のダウンロード等については無料会員登録後に閲覧していただけます。

本研究に関するご質問や、話を聞いてみたいなどご興味をお持ちになりましたら、是非お気軽に以下のフォームにお問い合わせください。

特許情報

特開2019-147147

JPA 2019147147-000000