持続可能な農業を実現する、バイオ肥料の開発を目指す!

2021.12.01

◆前書き

アカデミスト株式会社は202191日、若手研究者を対象とした月額支援型クラウドファンディングのプロジェクト「academist Prize」を開始しました。アズワン株式会社は日本の未来を支える若手研究者を応援したいという思いに共感し、今回のプロジェクトにスポンサーとして参画しております。

academist Prize」に採択された若手研究者の研究内容や研究に対する思いなどをインタビューしましたのでその内容をお届けします。

今回は微生物の力で持続可能な農業の実現を目指されている安掛さんに研究のお話を伺いました。

東京農工大学 安掛さん

◆1.バイオ肥料とは

バイオ肥料とは何かを説明する前に、従来肥料としてよく使われている化学肥料について説明します。

化学肥料は主に、植物に必要な三大要素、窒素・リン・カリウムを含んでいます。化学肥料は植物の生長促進に効果的である反面、デメリットも存在します。

「化学肥料のデメリット」

①三大要素である窒素・リン・カリウムが枯渇する可能性がある

窒素は空気中に多く(80%)含まれますが、窒素を人工的に固体するために大量の枯渇性化石燃料を燃やす必要があります。リンとカリウムは鉱山から削り採って収集されているため、特にリン鉱石は数十年で枯渇するとも言われています。

②環境負荷が大きい

化学肥料を与えすぎてしまうと、窒素やリンは川に流れ、アオコや赤潮といった現象を引き起こします。北米やヨーロッパにおいては肥料に含まれる窒素成分が原因で地下水が汚染されて飲めなくなったというケースもあります。

このような化学肥料の問題点を解決できる可能性を秘めているものとして「バイオ肥料(Biofertilizer)」があります。バイオ肥料とは、土壌に含まれる微生物の中で植物の生長を促進する細菌(植物生長促進微生物:PGPBもしくはPGPR)を単離して農業資材にしたものになります。

微生物の力だけで植物の生長を促進するので、水質汚染や資源枯渇など化学肥料のデメリットを解消でき、持続可能な農業の発展へと繋がるものになります。

一方で、微生物による植物の生長促進のメカニズムが未解明な状態でもあり、バイオ肥料の普及にはまだまだ課題があります。
例えば、根粒菌(大豆などのマメ科植物の根に根粒を形成する)は植物の生長に窒素固定を通して役立つことが分かっていますが、納豆菌に代表されるバチルス属細菌のPGPBが「なぜ稲の生長を促進するのか?」は、菌の種類、栽培環境、稲の品種によって生長促進度合いが異なるなど、まだ未解明な部分が多い状態です。

また、バイオ肥料が普及していく為には、実際に肥料を使用する農家さんからご理解を得ていく必要や、消費者側の環境問題や有機栽培に関する意識改革、日本の法整備を進めていくなど、科学的メカニズム解明以外のハードルも越えていく必要があります。

◆2.取り組まれている研究内容について

バイオ肥料の普及を進めていく為にも、植物と微生物がどのように作用し合い、植物の生長が促進されるのか、そのメカニズムを明らかにしたいと思っています。

私の研究では、バチルス属細菌であるBacillus pumilus TUAT1という名前の微生物を使っていますが、この菌は東京農工大学の圃場で見つかったもので、TUATは農工大の英語名に由来しています。

このことから分かるようにバイオ肥料は意外と身近に存在します。B. pumilus TUAT1を用いたバイオ肥料の特長としては、一般的には液状なバイオ肥料を、固体化し長期間保存できるようになったという点です。

バイオ肥料

私はこの菌株を使い、エノコログサ(通称:ネコジャラシ)を対象として研究を行っています。エノコログサはイネ科の雑草であり、通常の光合成よりも効率の良いC4光合成のモデル植物です。
B. pumilus TUAT1は環境ストレス下において耐性を得るために休眠状態である「芽胞体」と呼ばれる状態に形を変えます。この芽胞体は、乾燥しても問題なく、水と温度などの適した環境があれば再度機能が戻るといった特徴があり、通常の状態である「栄養体」に比べ植物の生長を促進することが分かっています。
しかし、芽胞体の何が植物の生長を促進させているのか(芽胞の死骸なのか?芽胞内の蓄積物なのか?)など、その作用機構は不明なため、解明を目指しています。

研究

◆3.研究によって実現したい未来について

バイオ肥料を使った有機農業100%というのは難しいかと思いますが、化学肥料の依存率を減らしていくことでより長く人類が繁栄できるような、持続可能な社会を目指しています。

有機農業の場合、化学肥料を使った慣行の栽培方法に比べて収量が2~3割減少してしまうという問題が現状あります。収量は農家さんの収入に直接影響を及ぼしますので、収量を少なくとも同じかさらに増えるようなバイオ肥料の技術開発を進めていきたいです。

◆4.クラウドファンディングに挑戦した理由は?

バイオ肥料の開発と研究をしていく上で、最も高い壁は農家さんのご理解を頂くことだと思っており、慣行栽培による環境への影響についてのご理解と、バイオ肥料の有効性についての最新調査結果を、日本中の農家さんに伝えたいと日々思いながら研究をしています。

しかし、そのためには、学会発表や論文執筆活動だけでは不十分で、様々な場所で研究成果をアウトプットしていく必要があり、今回のクラウドファンディングなどのアウトリーチ活動を通して全国の農家さんにバイオ肥料について知ってもらうきっかけになればと思っています。

バイオ肥料の有効性や化学肥料が環境に与える影響を積極的に発信し、多くの方にご支援いただくことでバイオ肥料を世の中にもっと浸透させていきたいです。

◆5.若手研究者がより活躍・チャレンジしやすくなる為には?

博士課程に進んだ学生が安心して研究に取り組めるような環境が整うと良いと思います。
私は研究だけでなく、教育活動や社会貢献がより身近に感じることができるアカデミアの世界に残りたいと考えています。
自分が将来研究室を持つときに、優秀な学生を受け入れられるよう、資金調達の勉強として今回クラウドファンディングに挑戦しています!

◆さいごに...

いかがだったでしょうか?

化学肥料のデメリットを解決できる可能性を秘めたバイオ肥料の研究開発に取り組まれている安掛さんの研究は非常に興味深いですね。安掛さんの開発した肥料が日本中、いや世界中に広がる未来が今から楽しみです!

安掛さんのTwitterはこちら  ⇒https://twitter.com/shinaga1

academistは研究者の研究活動の支援に特化した
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挑戦的かつ夢のある研究がたくさん掲載されています。ぜひご覧ください!